リビングに出る―5
お喋りしすぎて、帰りが遅くなる。珍しく、運動部の子たちと帰りが一緒になって、大勢で歩いてきた。聡美の家の前だとはいえ、7時半。聡美のお父さんが帰宅したので、遅くなったと気がついたのだ。
まずい、怒られるかな。早足で歩いていると、向かい側から前島サンが自転車で走ってきた。ワイシャツのまま、ネクタイだけはずして。
「何してたの!探しにいくとこだったんだよ!」
いきなり怒られたら、謝ることなんてできない。
「ちょっと遅くなっただけじゃない」
多分、すっごくふてくされた顔したと思う。
前島サンは携帯で母に私を見つけたと連絡している。
「だって休みの日に友達と遊びに行ったときなんて、もっと遅いし」
そう言うと、前島サンは大きく溜息をついた。
「あのね、てまちゃん。学校の帰り時間は決まっているものでしょう。そこから外れたら、心配するんだよ」
たとえば友達と遊びに行く時は、何時までに帰ってきなさいと行く前に指示される。それより遅いと、お母さん同士で連絡を取り合っているらしい。知らなかった。道理で「誰と行くか」をしつこく聞かれるはずだ。
自転車を押しながら歩く前島サンと並んで歩くのは、迎えに来てもらって悪いと思っているから。
知ってる人に会いませんように。前島サンは、言いにくそうに話す。
「言いたくないけど、女の子だと他の事件に巻き込まれる可能性もあるしね」
他の事件ってもしかして。
「中学校の制服が好き、なんて男もいるわけだし」
最近、こんな注意がとても多い。女の子って、すごく損な気がする。
「でも、そんなことされたって話は聞いたことないよ」
私がそう言い返すと、思いの外強い口調で返された。
「そんなことになってからじゃ遅いから、気をつけるんでしょ?心配かけさせないでね」
ちょっと叱られたようだったけど、それは悪い気分じゃなかった。
家に帰ると、母からのお小言が待っていた。
「学校にまで連絡入れるところだったのよ!」
怒る母をおさめるために、とりあえず「ゴメンナサイ」と言う。
「麻子さん、謝ってるんだから、ごはんにしよ。てまちゃん、着替えといでよ」
前島サンに促されて、自分の部屋に着替えに入った。庇ってくれたんだ。