リビングに出る―4
母の腰周りが急に大きくなった気がする。いつのまにか緩めの服じゃなくて、ジャンパースカートみたいなのを着るようになった。
「この頃、赤ちゃんが動くのがわかるのよ」
母は大事そうにお腹を撫でる。そして、最近いつも眠そうにしている。9月のおしまいには生まれてくる、私の妹か弟。まだ実感は湧かない。
実感が湧かないのは、前島サンも同じらしい。
「あ、今動いた」
母がそんな風に言っても、前島サンはよくわからない顔をしている。時々母の足をマッサージしていたりはするけど、そんな時は見ないことにしている。なんだか妙にいやらしい気がして。
別に、いやらしいことをしているわけじゃないんだけど。この人たち、結婚してるんだなって感じかな。男の人が母の足や肩に触れているのを見るのが、とてもヘン。私が母のお腹にいた時、私の父も母にそうしていたのだろうか。
通勤が辛くなってきたから、と母は勤務時間を調整してもらったらしい。私より早く家を出て、夕方早くに帰ってくる。電車の中で座るためらしい。だから、朝食は前島サンとふたりでとる。
寝起きの前島サンが、新聞を読みながらトーストを齧っているので
「新聞の上にパン屑が落ちてる」
そう注意すると、驚いたように顔をあげた。
「てまちゃん、麻子さんと声がそっくりだね」
「親子だもん」
「そういう意味じゃなくて」
少し考える風な顔になって、それから思い当たったように言う。
「声のトーンが大人っぽくなったんだ、ここ何ヶ月かで」
私にはわからない。ただ、前島サンに観察されてる気がした。なんだか、フクザツ。