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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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リビングに出る―3

 図書委員の仕事で書架の整理をしていると、みゅうが遊びに来た。雨なので部活が中止になったと言う。みゅうは司書の先生と仲が良い。大人と普通にお喋りできるって、すごいな。みゅうが私だったら、前島サンも気を遣わなくてよかったかも。

「次の図書委員推薦の本、前島さんに紹介文書いてもらうからね」

司書の先生に渡されたのは、「冒険者たち」という本だった。

「あ、これ知ってる!ガンバの冒険!」

みゅうが声をあげると、司書の先生が笑い出した。

「そんな古いアニメ、よく知ってるわねぇ」

「お父さんが好きなの。うちにDVDが揃ってる」

あ、またお父さんがって言ってる。

「みゅう、お父さんと仲いいね」

「普通だよ。手毬はお父さんと仲が悪いの?」

本に気をとられたフリをして、聞こえないことにした。

 お父さんは、いません。


 前島サンと少しだけ話ができるようになってから、よく考える。お父さんってどんな感じなんだろう。いなくて当たり前だったから、今まで全然考えなかった。小さい頃は母に「なんでお父さんがいないの?」なんて聞いたこともあるけど、それは他の人が持っているものを私は持っていない、くらいの不公平感だった気がする。今、お父さんの立場にいる人は確かに前島サンなんだけれど、彼は今までの私を知っているわけじゃない。小さい頃から一緒に生活してる大人の男の人って、どんな風なんだろう。写真で見る父は今の前島サンより更に若くて、赤ちゃんの私を優しい顔で抱いている。もしも他界しなかったのなら、優しい顔のままで私と接していたのだろうか。

 それとも。

知らない自分は、今の自分よりも幸福に見える。そんなわけないんだって、わかってるけど。


 美術部で、水彩のイラストを仕上げる。青を主体のグラデーションにして、迷路に迷い込んだみたいにしたら、やけに淋しい絵になった。どこかに元気な色をいれようとイラストを眺めていると、顧問の先生が覗き込んだ。

「前島、水彩に上書きは無理だから、何か貼ったらどうだ?」

和紙や色紙が差し出される。

「イラストに、何か貼ってもイラストなんですか?」

ヘンな質問。先生の答えは簡単だった。

「切り絵も貼り絵も、絵は絵だよ。自分が満足できればいいんだ」

先生が言ったことはそれだけで、それ以外の意味なんてない筈なのに、他のことを言われた気がした。



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