リビングに出る―2
中間考査は前島サンの家庭教師のおかげか、平均以上の成績だった。中学校の数学くらいならいつでも大丈夫だから、と前島サンはにこにこと請け負ったあとに、母がいないときにこっそり英語はカンベンしてね、と付け加えた。それだけのことなのに、前島サンが少し近くに来たように思う。
私は父を知らないけれど、もしも生きていたらやはり勉強を教えてもらったのだろうか。それとも、聡美みたいに「うざいしー」なんて言うかな。
ある日、母が急に買物に行こうと私を誘った。
「急に背が伸びたから、着る物に困るでしょう」
新しい服を買ってもらえる、とついていくと下着売り場に連れて行かれた。
「そろそろ体育の授業でTシャツ一枚になるでしょう?」
今まで厚手のキャミソールを着ていたんだけれど、ちゃんと下着をつけなくてはと母が言う。
「体つきが丸くなってきたから、そろそろ生理が始まるよ。その用意もしとこう」
小学校で初潮があった子もずいぶんいたけれど、私はまだだ。まだで良かった。本当は一生そんなものがないほうがいい。小学校での授業は男子も一緒で、先生は子供を作るための大切な機能だと真面目に説明したけれど、その機能だけでは子供なんかできないんだし。買ってもらった生理用品は、チェストの一番奥の見えないところに入れた。
「あ、手毬、その服可愛い。買ったばっかり?」
おしゃれな聡美にそう言われて、嬉しい。聡美と遊ぶのは、聡美の家かファミレスに大勢で行くか。はじめに誘われた時、子供だけでファミレスなんか行くの?ってキョロキョロして笑われたけど。
「去年の服が全部着られなくなっちゃったから」
そういうと、みんなが口を揃えていいなぁ、と言う。
それから、一年でどれくらい背が伸びたかの話になった。もう大人の女の人みたいな体型になっている子が、1センチも伸びていないと言い、一年で急に10センチ近く伸びて、靴が2サイズ変わったなんて言う子もいる。
今はまだブカブカの制服は、あとどれくらいでぴったりになるんだろう。