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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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リビングに出る―1

 数学の宿題がわからなくなった。xとかyとかが出て来る問題。

「これができないと、2学期から困るからちゃんと覚えるように」

 先生は授業のおしまいに念を押していく。授業中はちゃんとわかっていたはずなんだけれど、宿題に手をつけると、ちんぷんかんぷん。もうすぐ初めての中間考査なのに。

 

「お母さん、一次方程式ってわかる?」

 これってクツジョク的だって、大人はわかるだろうか。私は授業で理解できませんでしたって言ってるようなものだもの。

 どれどれ、と覗き込んだ母は大仰に顔を顰めた。

「解けるけど、上手く説明できないわ、これ」

 文章題のxがどれに当たるのか、考え込んでいる所に前島サンが帰宅した。

「あ、徹君が帰ってきた。代わって!」

 母は渡りに船の顔で席を外した。私は気分が逆なんだけど。

 

 ワイシャツを腕まくりしてネクタイを外しただけの前島サンが隣に座ってプリントを手に取った。

「140円の箱に、1個60円のミカンと1個80円のリンゴを合わせて12個つめ、ちょうど1000円にしたい。ミカン、リンゴはそれぞれ何個ずつつめればよいか。」

 うん、と頷いてメモ用紙を手に取る。

「てまちゃん、この問題の中でイコールのあとの数はどれだかわかる?」

「1,000円」

 メモにその数をいれる。

「じゃ、ミカンの数は?」

「わかんない」

「その、わかんない数がx」

「でも、リンゴもわかんない」

「全部で12個だったら、ミカンの数を引けばいいんでしょ?」

 前島サンは、ごはんも着替えも後回しにして家庭教師になってくれた。プリントの残りを全部終えて、答えを隠してもう一度、と言われた時はいやになったけど。

 

 前島サンが着替えるために席を外した時、母が嬉しそうな顔をしているのを見た。

 こんなことで良かったんだ。わからない勉強を教えてもらうくらいで、母は嬉しいのか。ジャージに着替えた前島サンもなんだか嬉しそうだ。私もなんだか気持が良くなって、遅いよと言われるまでリビングでテレビを見ていた。

 誰も喋らないのに、居心地は悪くない。

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