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花つける堤に座りて  作者: 蒲公英
花つける堤に座りて
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居場所を広げる―4

 ゴールデンウィークだ。美術部の活動はなく、図書室にも入れない。運動部は活動しているので、聡美もみゅうも部活の隙間に遊べる程度で、私は家にいる時間が長い。そして、家の中には母と母の夫。

 母は最近ダルそうに座っていることが多くなった。

「手毬、連休退屈じゃない?どこかへ出掛けない?」

「本、読んでるから退屈じゃない。最後の日にみゅうと映画に行くし」

普通に答えたつもりだったのに、母はとてもがっかりした顔になった。


 前島サンが午前中だけ仕事、と出かけた日にリビングで母にいきなり聞かれた。

「手毬、徹君が一緒に住んでるの、イヤ?お母さんが結婚したの、本当はイヤだった?」

私が自室に籠もるようになってから、母はきっとずっと聞きたかったのだろう。とても真剣な顔で、怖いくらい。

「どっちもイヤじゃない」

私にできる返事は、本当にこれだけ。本当は私が「なんとなくヘンで気持ち悪い」と思っていることを説明しなくちゃいけないんだろうけど、どう言葉にすれば良いのかわからないし、母に伝わるとも思えない。

「ちょっと座って」

母には珍しい、命令口調。


 ソファに座っている母の向かいに膝を抱えて座った。母の顔は怒ってはいない。どちらかと言えば、困って悲しそうな顔。

「お母さん、手毬に無理させてる?テレビも見ないで部屋にいるの、寂しくない?」

なんて答えたらいいのかわからないのに、こんな質問はずるい。

 無理はしてるよ。だけど、それは嫌いだからじゃなくて。なんていうのかな、私の居場所が見つからないって感じなんだけど。

私は膝の上に顔を伏せて丸くなった。ソファの上からは、深くて長い溜息。

「徹君が一緒に住むのは、お母さんの都合だもんね。ごめんね、手毬」

確かに母の都合だけど、母が悪い訳じゃない。言葉にならなかった。

「たまには一緒にテレビ見ようよ、手毬」

私は首だけで頷いた。母がわかったかどうかは、知らない。


 それでも前島サンが昼早い時間に帰宅すると同時に、私は散歩に出た。頭がぐるぐるする。9月の終わりに赤ちゃんが生まれてくるのは決まっていて、それを否定することなんてできないのだから、私が、自分をどうにかしなくちゃならないんだ。

 だって、悪い人はいないんだから。

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