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ツンデレエルフの監視生活、始まる

 佐々成政の朝は早い。


 朝日が差し込むと近くの泉まで行き、顔を洗う。

 小鳥たちの声を聞きつつ、喉を潤す。


 うまい。


 冷たい水が喉を通って臓腑に沁み込む。


 こんなに爽やかな朝は久しぶりだ。

 やっぱ真冬の立山連峰越えとか正気の沙汰じゃなかったわ。


 秀吉サルは相変わらず嫌いだけど。


 さて、昨日の猪肉の残りでも焼こうか、と小屋の方に戻ると、見覚えのある金髪の少女が俺の小屋の側で腕組みし、仁王立ちしているではないか。


 またこいつかよ…

 爽やかな朝がぶち壊しである。


 碧い瞳で俺をキッと睨むと、端正なお顔の小さなお口から、可愛らしさの欠片もない罵倒がぶつけられる。


「あなた、その耳は飾りなの?それとも私の話を理解する脳がないの?早々にこの森から出ていくように言ったわよね?」


 こいつ、これが仮にも助けてやった人間に対して掛ける言葉か?


 昨日の苛立ちが蘇ってくる。


 いかん、小娘のペースに乗せられるな。

 ここは大人の余裕を見せてやるとしよう。


 出来るだけ感情を抑え、低く呟く。


「…なんの用だ」


 俺の声と対照的に、甲高い声が返ってくる。


「用? ふざけないで! この森はエルフの聖域よ。あなたみたいな下等な人間が勝手に小屋建てて、魔物の肉を焼いて…しかも、臭いが充満してるじゃない! 私が我慢してるだけなんだから、感謝しなさいよね!

 このリエル・フェリシタス・オルテンシアの名において、勝手は許さないんだから!」


 早口でまくし立てられ、鉄砲の三段撃ちを食らった気分だ。

 ここは、相手にしないのが得策だろう。


 とにかく、俺は腹が減った。

 無言で猪肉の残りを木の枝の串に刺して火にかける。

 昨日、賽の目状に切り分けておいたのだ。


 調理の最中にも何やら


「ちょっと!聞いてるの?

 これだから粗暴な人間は嫌いなのよ!」


 等とピーチクパーチクとやかましいが、知ったことではない。


 あたりに香ばしい匂いが広がると、リエルの鼻がピクッと動く。

 彼女の腹の虫の音が鳴る。


 一瞬、沈黙が走る。


「…腹が減ってるなら、食え。毒は入っていない」


 リエルは顔を赤くし、


「!? 誰がそんな汚い肉なんか…! 食べないわよ! 絶対に!」


 汚い肉、と言われて俺もカチンとくる。

 もう知らん。


 黙って猪肉串を齧りながら、リエルの方をチラ見する。

 美味い、美味いとわざと声に出しながら肉を貪る。


 リエルは横を向いているが、足は少しずつ近づいてきている。


 …少し、大人気なかったか。


「…座れ。立っていたら疲れるだろう」


「座るわけないでしょ! あなたと並ぶなんて、穢れちゃうわ! 」


 ぶつくさ言っていたが、少女は「仕方なく」という顔で小屋の隅に腰を下ろす。


「ほれ、食え」


 猪肉串を一つ渡してやる。


「…べ、別に欲しくないけど…捨てるのもったいないし、仕方なくもらうわよ!」


 一口齧って、目を見開く。


「…!? …ま、まあまあね。人間の料理にしては上出来よ」


 言葉とは裏腹に、長い耳をピクピクさせている。

 どうやらお気に召したようだ。


 結局、リエルと名乗る少女は、


「魔物の肉とは言え、森の資源を無駄にしては自然の摂理に反する」


 等と勝手な理屈をほざいて、俺に猪肉串を15串も焼かせた挙句、すべて平らげてしまった。

 …見た目に反して、肉食系らしい。


「期待はしてなかったけど、まあまあだったわ」


 と、奴は、礼もそこそこに、俺の小屋から出ていった。

 もう二度と来ないでほしいと心から願う。


 昨日獲った猪肉が、既に半分ほどになってしまった。


 本来、冬の時期の富山ならば食材の腐敗にはそこまで気配りしなくとも良いが、この森は気温が高く、陽射しも強い。


 残りの猪肉は、燻製にすることにしよう。

 本来なら塩漬けにするところだが、贅沢は言えないだろう。


 即席で猪の干し肉を拵え、薪用の枝を拾い集める。


 日が傾く前に、本日の夕食の材料を集めることとしよう。


 朝、泉の方に、いくつかの魚影が見えた。

 肉が続いたので、今度は魚が食いたい。


 猪の骨を削り、簡易的な釣り針を作った。

 羽織りから絹糸を抜き、手ごろな太さの枝に釣り針を絹糸で括りつけ、即席の釣り竿を用意する。


 泉のほとりに腰掛け、釣り糸を垂らす。


 ふう、と一息つき、冬の立山に残してきた家臣たちの顔を思い浮かべる。


 …俺がいなくなって、富山はどうなってしまうのだろうか。

 秀吉サルめが、この機を逃す筈はない。

 奴が攻め込んでくる前に、何とか戻る方法は無いものか…


 などと考えていたが、竿を引く感覚で現実に引き戻される。


 結局、2時間ほど粘って5匹釣れた。

 まあまあの釣果だろう。


 見た目は完全に鮒だが、これも目が3つあるのが気になる。


 もしかするとこれも魔物とやらの一種なのかもしれないが、まあ食べてみれば分かることだ。


 鼻歌交じりに小屋の方に戻ると、俺は愕然とした。


 俺の小屋の隣に、丸太作りの立派な小屋…いや、家が建っている。


 状況が全く飲み込めなかったが、隣家の扉が開くと、全てを悟った。


「あなたがどうしてもこの森を出ていかないというのなら、私が直々に問題を起こさないか監視することで、特別に許可してあげるわ!

 感謝するのね!」


 夕食の魚も、奴に大半を奪われたのは言うまでもない。

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