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本の紹介40『閃光のハサウェイ(上・中・下)』 富野由悠季/著

作者: ムクダム
掲載日:2026/02/01

小説オリジナルで紡がれる、ガンダムサーガひとつの終焉

 これは中学生の時に市立図書館で読みました。映像作品としてのガンダムはある程度触れていましたが、初めて目にするタイトルに惹きつけられて何気なく手に取った覚えがあります。

 まず、上巻の巻頭に掲載されていたクスイーガンダムの挿絵に衝撃を受けました。立ち絵が一枚載っているだけでしたが、どこか昆虫を思わせる頭部のデザイン、まるでマントを羽織っているような特徴的なシルエットが深く印象に残っています。今見ても色褪せないデザインです。

 シリーズの原点である「機動戦士ガンダム」の主要キャラクターの一人、ブライト・ノアの息子であるハサウェイ・ノアが主人公となっており、彼が地球圏に生きる人々を事実上支配する地球連邦政府に戦いを挑むというストーリーです。

 「機動戦士ガンダム」シリーズはテレビ版、劇場版、小説版とメディアによってそれぞれ独自の展開がなされており、一概にシリーズを1本化して語ることは出来ないのですが、本作は最初の「機動戦士ガンダム」から連なる宇宙世紀のストーリーに一区切りをつける内容になっていると感じました。

 一部例外もありますが、それまでの作品で主人公は地球連邦政府の側に立っていたところ、本作では主人公サイドに強い縁のあるキャラクターがその地球連邦政府と真っ向から対立する構造となっており、シリーズの一つの締めくくりに相応しいと思います。

 モビルスーツ同士の戦闘描写が総じてあっさりしている点も、シリーズの花形であったモビルスーツという兵器の立ち位置を後ろに下げることで、本作が一連のサーガの幕引きである点を強調しているのかなと。

 主人公サイドの組織でありながら、地球連邦政府という存在はこれまでのシリーズでも必ずしも肯定的に描かれてこなかったのですが、本作ではその弊害や悪辣さが強調されています。同時に、日々の生活のことばかりに囚われ、大局的な視点に頓着せず、結果的に地球連邦政府の存続に寄与する大衆の危うさも取り上げられているのが印象深いです。

 ハサウェイはマフティー・ナビーユ・エリンという組織を率いて、粛清の名の下に政府高官の暗殺を実行する、いわばテロリストなのですが、その行動原理は増えすぎた人口に押し潰されそうになっている地球をより長く持続させたいという点にあります。

 本作の舞台となる宇宙世紀100年代は地球に居住することは特権的な行為とされており、地球連邦政府による締めつけで鬱憤の溜まった大衆からマフティーは一定の支持を受けているのですが、地球環境の保全という本来の目的については大衆の理解を得られていないということが描写されます。人類が陥っている逼塞感は、膠着した組織とそれを支持する大衆に起因するものであるということがハサウェイの焦燥感を煽ることになります。

 物語はハサウェイと彼を取り巻く人々にとって悲劇としか言えない展開を見せるのですが、組織としての目論見であった地球連邦政府の弱体化に繋がる道を作ることには成功します。この個人としての幸福と、組織としての本懐が一致しないという皮肉、恐ろしさを描いているのが本作の大きな特徴だと感じます。

 本作で何度か言及される個人と組織にまつわる問題は地球連邦政府だけでなく、当のハサウェイ自身にも降りかかってくることになります。ハサウェイは自分という個人と、組織としてのマフティーを一致させることに努めているのですが、彼が直面する様々な事態、抱え込んだ人間関係がハサウェイとマフティーの関係に歪みをもたらすことになります。

 ハサウェイがこの歪みを抱えたまま突き進んでいくことが本作の悲劇の大きな要因となっているのですが、この歪みは人間性の発露とも言うべきもので、組織として掲げている大義と個人としての尊厳が衝突しハサウェイを追い詰めて行くというストーリーラインに、人間という生き物の悲哀を強く感じます。

 ハサウェイと対峙する連邦軍のケネス・スレッグ大佐との駆け引きや立場を超えた友情、不思議な魅力でハサウェイを翻弄するギギ・アンダルシアという少女など、一筋縄ではいかない人間関係も本作の大きな特徴となっています。終わり

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