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[掌編]あらはれわたる

作者: palomino4th
掲載日:2026/01/22

「夢」の話を——皆さんが夜、眠る時に見たり見なかったりする、あの「夢」についての話をします。


ミズキは来年中学生になる——だから今は小学生の女の子で、大きな川のある街の住宅街にある家の一つに住んでいます。

家族、父と母、犬のジュリアと住んでいます。

このところ、ミズキが一番気になっているものは、隣の町内にある小さな古いお店が数軒集まった一角のことでした。

学校が終わり塾に向かう商店街通りの途中、低いビルに挟まれた路地があって、その奥にさらに低い建物がいくつもあって一階は古そうなお店が何軒も並んでいる、そんな場所でした。

いつも夕方、行き帰りに通り過ぎるばかりでゆっくりと中に入ったことはなくて、一度だけ我慢できずに入っていったことがありました。

勇気を振り絞り進みましあが、夜になる間近で明かりも少なく、人の姿も見えなくて怖くなって途中で引き返して通りに戻りました。

ビルの隙間の路地を抜けていつもの通りに出る——ところが通りに出た、と思った瞬間、


自分の部屋で目が覚めてから、サクヤは夢の内容を思い出してしばらく混乱していました。

自分の名前を思い出すまで、自分が「ミズキ」だと思いしばらくはそのつもりでいたけれども、頭がはっきりしてくると夢の中で別人になっていたことに気がつきました。

「ミズキ」は幻ではなく、同じ小学校で同学年にいる女子で、別の学年で同じクラスになった時があったけれども今はクラス替えで別のクラスになっているはずです。

同じクラスの時には話したり遊んだりしたこともあったけれども、特に友達ということもなく離れてる今は互いに名前を知るもの同士ぐらいの関係になっています。

しばらくの間、サクヤはベッドの中で「なんでこんな夢なんか見たんだろう」と思って考えていましたが、家の外はまだ日が昇らず真っ暗な窓で、いつの間にか眠りこんでしまい、覚えていない夢をみた後に目覚ましのアラームで起こされました。

サクヤは来年中学生になる——まだ小学生の女の子で、大きな川のある街の住宅街にある家の一つに住んでいます。

家族、父と母と弟と住んでいます。

その日、登校した学校での休み時間にふと思い出してサクヤはクラスの女子に聞いてみました。

「別の組にミズキって子がいたよね、前に同じクラスだったでしょう」

「うん、いたね」言われた女子は普通に思い出しながらサクヤに答えた。「でも今はいないよ、転校したでしょ、一昨年。別の街の学校に通ってるんじゃないかな」

「あ、そうなんだ。今いないんだ」

「どうかしたの」

なんか思い出しただけ、と適当にごまかした。

例えば夢を見て何かの出来事が実際に起こったりする「正夢」のようなものや、未来に起こる出来事を実際に見てしまう「予知夢」のような、特別な意味のある夢だったんじゃないか、そんな風に思っていたのだけれど、特に何の意味もなさそうで、落ち着いて考えれば夢なんてほとんどそういうものだとサクヤは思い直して予冷の音を聞いて次の時限の準備を始めた。

学校が終わり、いつもの級友とも途中で別れ歩いている時に、「ミズキ」の歩いていた道を思い出した。

夢の中の街並みを思い出すと、その場所に心当たりがあることに気がついたサクヤは、帰り道から外れてそちらへと足を向けました。

隣の市と境目になっている大きな川を縁取る土手の遊歩道を歩いて、たくさんの車が途切れずに行き来している大きな橋を渡って普段はめったに来ない街にやってきました。

前にお母さんに連れられてやって来たことのある商店街の通りを歩くと、思った以上に「ミズキ」の夢で歩いていた時と同じような様子でサクヤは驚きました。

お母さんと来た時に寄って買い物をした衣料品のお店を思い出そうとしたけれど、思い当たる場所にはもうそのお店はなく、昔来た時とは変わってしまってるのがわかりました。

そうすると変なのはそれ以外のものでした。

実際に来た時に見たお店などはもうないのに、「ミズキ」として見た夢で歩いた風景がそのままあるのはおかしいんじゃないかな、とサクヤは思いました。

あの時にはなかったお店が、ここにくる前に夢の中で見たとおりに、そこにあるというのは変だ。

思いながらあるビルのそばで立ち止まりました。

見覚えがある——夢に出て来たビルで、その隣の建物との間に路地が一本。

サクヤはどうしても気になってその路地に入ってゆきました。

まだ日没までには時間があって暗くならないので中の方はよく見えました。

ビルの壁面が途切れると、低い建物で囲まれた少し広めの場所に出て小さなお店が何軒か多分、営業をしていました。

ここまで人の姿がまるで見えなくて少し怖いような気持ちがしていましたが、一軒のお店の引き戸にサクヤも読んだことのある最近の漫画のキャラクターが載ったポスターが貼ってあるのを見て、気持ちが少し楽になって、ちょっと覗いてみたくなりました。

お店の入り口の脇に木の板が下げられていてカタカナで「スパランツァーニ」と書かれていました。

サクヤが戸を開いた音を聞いて、お店の奥の方から「いらっしゃいませ」と大人の女の人の声がしました。

——学校帰りの小学生が寄り道してたら何か言われちゃうかな、とサクヤは思いながら、でも好奇心には勝てなくてそのままお店の中に入って行きました。

入店したのが小学生の女の子だと気づいたかどうか、でも奥で座っている女の人は何も言わずにいるようなので、サクヤは陳列されている商品をそのままみてゆくことができました。

雑貨屋で、小学生や中学生にはまだちょっと手が届かないような値段のアクセサリーや小物が売られているお店で、知らない外国から仕入れたような見たことのないものであふれていました。

どれもこれも、普段買い物をしているようなお店では見つからないものばかり。

もっともっとお小遣いがあれば、買えるだけ買ってしまいたくなるような、大人のためのいろいろな品物がキラキラときらめいていました。

手書きの値札を見ると、それ一つでひと月のお小遣いがなくなってしまうようなものばかりでとても手が届かない。

自分が来るにはまだ早いお店だよなぁ、と残念な気持ちでサクヤは品物を見てゆくと、少し手ごろな値段の表示が見えました。

小ぶりなカゴの中に、一握りのガラス玉が盛られていました。

一つを指でつまみあげると、普通のビー玉よりも少し大きめで、きっとヒトの眼球ぐらいの大きさのガラス玉。

透明な中に、リボンや葉っぱみたいな色鮮やかな帯が練りこまれています。

——大きなビー玉、そう思ってつまんだガラス玉の中の模様をじっと見ていると、紫色の葉っぱの隙間に一頭の馬の頭が見えてサクヤは驚きました。

どういう細工なのか、ガラスの中に色の帯の間に精巧な浮き彫りみたいな無色の画が入っているのです。

ガラスの屈折率の具合なのか、角度によっては透明になって見えないのだけれど、光の入り具合で表れる仕掛けを使ってるように見えました。

持っていた一つをカゴにに脅し、別の一つを手に取って角度を変えながら覗き込むと、黄色い葉っぱの隙間から象の頭が見えました。

——面白い、と思ったサクヤはまた別の一つを持って覗き込んでみました。

アゲハチョウ、南洋の魚、羽ばたく大きなワシ。

一通り見ていき、最後に手に取った一つを覗き込んでサクヤは息を飲みました。

青い葉っぱの隙間に、とても美しい顔が眠っているのが見えました。

——とっても綺麗……。サクヤはじっと見ているうちにこれをどうしても欲しくなりました。

まだ小学生のサクヤには高いけれども、手持ちのお小遣いで買える値段。

レジに行くと店番の女の人はサクヤを見てちょっと珍しそうな顔をしましたが、そのことには何も言わず普通に紙の封筒にガラス玉を入れて渡し売ってくれました。

お店を出ると、わずかに空が暗くなりかけていました。

早く帰らないと叱られてしまう、寄り道で買い物をしていたことがバレたら大変だし、サクヤは出るために路地を抜けて通りへ、


自分の部屋で目が覚めてから、ミズキは夢の内容を思い出してしばらく混乱していました。

「サクヤ」は確かに前に同じクラスになったこともある女子のことだけど、友達と言えるほど親しかったわけじゃない。

まだ朝日が登る前のカーテン越しの暗い窓を見ながら「わたしはミズキ わたしはミズキ」と口の中でくりかえしながら夢のことを思い出していました。

夢の中のことだから、そういうものであっても不思議じゃないけれど、夢の中でまたサクヤになったことに何かの意味があるのだろうか。

自分が行かなかった商店街通りのあの奥に「サクヤ」は入っていった、しかもその中のお店の一つに入って不思議なガラス玉を手に入れた。

夢の中で見たあのガラス玉の、光の角度で現れて見える眠る人の顔を思い出し、ミズキはその顔がどうしても気になって仕方がありませんでした。

ミズキにはあのガラスの中の顔が、同じ学年の男子・マコトだとしか思えないのです。

マコトは同じ学校で違うクラスにいるけれど、男子なのに綺麗で優しい顔立ちが女子の間では人気少年で、ミズキもまた彼のことが気になる一人でした。

ただ、今月に入ってから二週間ほど学校を休んでいて、その理由をはっきりと知る人がいなくて、クラスをまたいで色んな噂が飛び交っている最中だったのです。

「病気か事故の怪我で入院してる」というのが一番本当らしい噂だったけれど、その病院を知ってる人は誰もいないし、無責任な噂では、お父さんが借金をしてお金が返せなくなって家族みんなで別の街へ「夜逃げ」をしたんだ、なんていうのがあり、さすがに酷いと思って自分のことではないのに、ミズキは悔しくて涙が出たこともありました。

でもいくら気になっても、小学生の子供達の身では調べることができなくてモヤモヤとしたままだったのだけれども、そんなミズキの気持ちが夢に伝わってしまったのでしょうか。

ミズキはその日の学校終わり、一人で寄り道をしました。

普段は滅多に通らない道を使い、まず隣街との境目にある大きな川の土手に上がり、川向こうの街を眺めました。

河川敷には広いグランドでスポーツの練習をしたり川沿いの遊歩道で橋いいている人らも見えました。

はっきりとはみえないけれども、ミズキは大体の方角で夢の中でサクヤの通っていた学校の方を向いてみました。

もしかしたら向こう岸の土手の上にサクヤが立っていないかな、などと思ってみたけれど、当たり前ですがそれらしい人影は見当たりません。

例の商店街通りまで行き、それから例のビルの間の路地にまで来ました。

ミズキは勇気を出してその路地に入り、開けた場所まで出ました。

ところが、出たところは夢で見たのと所々違っていて、いくつかのお店もやはり違って、サクヤがガラス玉を買ったお店の前と同じところに立ちましたが、下ろされたシャッターはもう長いこと開け閉めされていないようで土埃が積もっていて、お店の名前も「オランピア」でまるで違うものでした。

——当たり前だね、夢なんだから、何かがっかりしたようにミズキは路地の入り口に向かいましたが、通りに出る前、立ち止まって考え事をしたのです。

——マコトくんは一体、どこにいるのかしら。

それから路地から出ると、


自分の部屋で目覚めて、サクヤはスタンドライトを灯して、その灯であのお店で買ったガラス玉を覗き込みました。

青い葉っぱの隙間の向こう、とても綺麗な顔は夢の中で言われてみるとそのマコトくんという男子の顔を象ったもののように思えてきました。

自分の通っている学校にそういう男子はいなかった。

マコトくんは夢の中の世界、ミズキの世界の人なのだろう。

深く沈んだガラスの中で眠り続ける男の子、これは誰が作り出したものなのでしょうか。

とても綺麗だけれど、ずっと見ていると、サクヤにはこれがこの世界のものではないように思えてきました。

人間ではない、何か特別な力を持つものが作り出した、魔法のガラス玉。

普通の作り方でこんなものができるのでしょうか。

このガラス玉は拐って捕らえたものを封じ込めて作られているのではないのでしょうか。

サクヤはガラス玉を持ったまま強くまぶたを閉じて、


それからまぶたを開くとミズキは自分の部屋に一人椅子に座って勉強机に向かっていました。

——マコトくんが学校に来なくなったわけを知ってる?と、自分自身に問いかけてみました。

——ガラス玉に閉じ込められちゃってるから。

するとあのガラス玉が割れたなら、きっとマコトくんはこっちの世界に戻ってくるんだ、とミズキは思いました。

「サクヤさん」ミズキは一人きりの部屋で口にしました。「そのガラス玉を割って。マコトくんをそこから出してあげて」

そう言うと、ミズキは強くまぶたを閉じて、


サクヤは流れる川を見下ろす土手の遊歩道に立っていました。

このガラス玉は本当に綺麗、そしてその中に眠るマコトくんの顔も。

さっき、もう一度「スパランツァーニ」に行ってみようとしたけれど、あの商店街通りを歩いても、ビルの路地の入り口が見つからなくなってしまっていたのでした。

このガラス玉の正体を調べようとしたけれど、もうそれで答え合わせができてしまったように思いました。

なるべく人の少ないところ、そして後片付けしやすいところでやろう、とサクヤは土手の下の河川敷に降りて行きました。

そして広いコンクリートの平らな場所に立って、誰も来ないのを確かめた後、ガラス玉を持って思い切り路面に叩きつけると、


何かが破裂したように目の前がサッと明るくなって、そうして立っていた足下が急に粉々になって、そのまま宙に放り出されたようになって、


気がつくと薄暗い中、河川敷にぽつりぽつりと人の影が見えました。

遠い空の縁が薄明るくなっているのが見えて、もうじき 朝日が昇ってくるのが分かります。

川面を見るともやが出ていて水が見えません、だから上流と下流が分からないので、どちら側の岸にいるのかも分かりません。

——あれ、私……と頭に浮かべたことを言葉にしようと思ったその時、正面に川を見ている同じ年頃の男子の人影が見えました。

あのガラス玉の中で眠っていた顔、マコトくんでした。

こちらを向くと、当たり前のように、古くからの友達いたいに「おはよう」と声をかけてきました。

誰に向けての挨拶なのでしょうか。

ここにいる「私」はミズキなのかサクヤなのか、思い出せなくなっています。

川面の上にはもやが漂って白く風景を隠しています。

その向こうから太陽がもうじきやってくる、きらめきながらみんなが目を覚ます朝がやってきます。


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― 新着の感想 ―
すごくすごくよかったです! 不思議な雰囲気のお話でした。すごく好きです!
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