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第8話 王都監査 仕事をしない仕事
王都からの監査官は、二人だった。
一人は若く、もう一人は年配だ。どちらも剣を帯びていない。代わりに、革表紙の帳面と封蝋の道具を携えている。彼らが運んでくるのは裁きではなく、確認だった。
クズ市に入った瞬間、若い監査官は眉をひそめた。
市壁は歪み、家屋は廃材の継ぎ接ぎだ。曲がった梁、色の違う板、用途の分からぬ金具。名の通り、クズの集積にしか見えない。
だが――
地面に塵がない。荷が置かれる位置は揃い、壊れた木箱ですら一定の間隔で積まれている。腐臭は薄く、代わりに乾いた木と油の匂いが支配していた。
「……妙に、きれいですね」
若い監査官が呟く。
年配の監査官は答えず、視線だけを走らせた。雑然としているのに、機能が乱れていない。見た目はスラム、動きは時計。
門での処理も同じだった。怒号はない。値切りもない。通行料は淡々と受け取られ、板に刻みが残され、帳面に線が引かれる。その線は、どれも同じ太さだった。
役所に通され、帳簿が差し出される。
「こちらが、現在の管理記録です」
レルムの声は低く、感情がない。誇りも、媚びも含まれていなかった。
若い監査官は金貨を手に取る。重さ、縁、削り。問題はない。次に帳簿を開く。
入庫日時、出庫日時、滞留期間、回転率、時間帯別通行台数。
数字は整っている。だが、それ以上に――揺れていない。
修正跡がない。滲みもない。筆圧が、全ての頁で同じだ。
若い監査官は無意識に頁を繰る速度を落とした。探しているのは不正ではない。人間の迷いだ。
「……細かい、ですね」
年配の監査官は、帳簿に指を置いたまま動かさない。
「細かいのではない」
低い声だった。
「これは、迷っていない」
彼は帳簿を閉じ、封蝋に目をやる。改竄の痕跡はない。だが、それ以前の問題だった。
――ここには、ミスという概念が存在しないのか。
若い監査官の喉が鳴る。
「問題は……」
問いかけは途中で止められた。
「ない」
即答だった。
「我々の勅命は“金が欠けていないか”の確認だけだ。“仕組みの是非”は評議会の仕事になる。疑義を立てるには条文が要る。条文がないなら、我々は“異常”と記せない」
彼は立ち上がり、帳簿を元の位置に戻す。
「報告は“異常なし”だ」
それは評価ではない。距離の確定だった。
建物を出た後、若い監査官は小声で言った。
「本当に、これで……」
年配の男は歩みを止めない。
「いいんだ」
「しかし、あれは……」
「眠っている獅子を起こすな」
淡々とした言葉だった。
「ここは、もう管理されている。我々の仕事は、もう終わっている」
門を抜けると、豪奢な幌の馬車が一台、通行料を払い、板に刻みを残していった。
若い監査官は、その刻みから目を離せなかった。
規則正しすぎる線。
人の手で作られたはずの秩序が、どこか人間離れしている。
クズ市は、黙って回っている。
だからこそ、王都は口を出さない。
それが、この監査の結論だった。
王都税務局の上級会議室は、午後の光を嫌った。
高い天窓には薄布がかけられ、卓上には火を落とした燭台が並ぶ。ここでは、過剰な明るさは判断を誤らせると信じられていた。事実と噂、どちらも等しく影を落とす場所だ。
長卓の中央に、分厚い綴りが置かれている。
――ヴァルデン領 未認可交易区 管理記録。
表紙をめくる音が、必要以上に大きく響いた。
「……通行台数、推移表?」
強硬派の老官僚が、眉を吊り上げた。
「なぜ“夕刻”などという半端な区切りで報告してくる? 重要なのは一日の総数だろう」
彼の言葉は、この部屋の常識を代表していた。
王都の監査は、性悪説に基づく現物確認だ。金貨の数が合うか。麦に黴はないか。袋が一つ、裏に消えていないか。それで足りる。時間を刻む必要など、どこにもなかった。
若い監査官は、帳面を覗き込み、首を傾げる。
「夕刻……確かに、荷は集中しますが……だからといって、そこだけ抜き出す意味が……」
彼らが慣れているのは、一日の終わりに残る量だ。水がどれだけ溜まったか。それが秩序の証明になる。
だがこの綴りは、溜まりではなく流れを差し出している。
いつ増え、いつ薄まり、どこで溢れかけたか。そこに答えがあると言わんばかりに。
しかし、流れを測る物差しを、この部屋は持っていない。
「……次だ」
強硬派は苛立ちを隠さず頁をめくった。
「先入先出……古い麦から順に出した記録?」
若い監査官が首をかしげる。
「なぜ、わざわざ……? 麦など、手前にあるものから出せばよいではありませんか」
彼にとって倉庫とは、備えだ。富の蓄えであり、飢饉のための盾だ。麦はそこにあり続けてこそ意味がある。『回す』という概念は、商いの言葉としてもまだ粗い。
ところが、この記録は違う。
古いものから出すという行為が、礼儀でも美徳でもない。倉に“居座る”ものを許さないための、仕掛けになっている。古い麦が滞留する事は是ではない。記帳までもがそれを示している。
ここでは、溜まること自体が異常になる。
強硬派の老官僚が、低く唸った。
「……几帳面すぎる」
それは非難だった。理解できないものを、狂気と呼ぶための言葉だ。
「数字は合っている。だが……なぜ、過程まで書き記す必要がある?」
問いは、空中で止まった。
ハインリヒは、これまで沈黙していた。
老書記は数字を追っていない。見ていたのは頁の厚みと、線の密度だった。修正のなさ。滲みのなさ。筆圧の均一さ。
そこにあるのは潔白ではない。
逃げ場のなさだ。
彼は本能で理解する。
これは、不正がないことを示す書類ではない。
不正が“起きない”形を、先に作ってしまった証拠だ。
彼らは犯人を探している。しかし、この紙束は、犯行が成立しない建物の設計図だった。
だが――ハインリヒは、それを言葉にできない。
彼の知る語彙には、これを一語で指す言葉が存在しなかった。統治、規律、帳合……どれも近いが、どれも足りない。
沈黙が長引く。
やがて、ハインリヒは息を吐いた。
「……奇妙だ」
それが、精一杯だった。
強硬派が食い下がる。
「奇妙で済ませてよいのか? ここまで書くということは、何かを隠しているのでは――」
ハインリヒは、ゆっくりと首を横に振った。
「逆だ」
低い声。
「隠す余地が、ない」
それ以上、彼は語らなかった。
会議は結論を出さないまま終わった。
だが、それこそが結論だった。
理解できないものに、王都は手を出さない。
それは怠慢ではない。長く制度の内側にいた者だけが知る、生存の知恵だった。
王都からの返書は、予想外に軽かった。
封蝋は割られておらず、使者の表情にも剣呑な色はない。ただの事務伝達の顔だ。レルムは一礼し、受け取った包みを抱えたまま、しばらくその場を動けずにいた。
紙の重さではない。
書かれていないことの重さだ。
役所に戻り、封を切る。
中身は簡素だった。咎める言葉はない。是正を求める一文もない。代わりに、次回提出用の帳面、罫紙、封蝋――前回と同じ事務用品が揃えられている。
それだけだ。
レルムは息を吐いた。
怒号もなく、指弾もない。
だが、胸の奥で別の感情が芽吹く。安堵ではない。警戒だ。
黙認とは、許しではない。
それを誰より知っているのは、帳合を預かる者だった。
レルムは包みを抱え、領主館へ向かった。
レオンハルトは執務室にいた。
鎧は着けていないが、剣は壁に立てかけてある。戦の前ではなく、戦の後の部屋だ。机には地図が広げられ、兵站線に赤い糸が引かれている。
レルムは一礼し、包みを差し出した。
「王都より……返書でございます」
レオンハルトは一瞥しただけで、手に取らない。
「読め」
短い命令。
レルムは中身を説明した。咎めがなかったこと。是正命令がなかったこと。そして、次回分の帳面が送られてきたこと。
言葉にしていくほど、異常さが際立つ。
レオンハルトは、黙って聞いていた。
「……つまり」
低い声。
「王都は何も言わず、続きを出せと言ってきた」
「はい」
レオンハルトは、そこで初めて包みを手に取った。紙を一枚抜き、指で弾く。乾いた音。
「奇妙だな」
武人の直感が、はっきりと警鐘を鳴らしていた。
「役人は狼だ。腹が減れば噛みつく。だが今回は、噛んでいない」
彼はレルムを見た。
「お前は、どう見る」
レルムは一瞬、言葉を選んだ。領主に対して帳合の理屈を並べるのは容易ではない。
「……帳簿としては、過剰です」
「過剰?」
「はい。正直に申し上げれば、私の知る帳簿ではありません」
レオンハルトは眉を動かす。
「剣で言えば?」
問いは、比喩を求めていた。
レルムは少し考え、静かに答える。
「……城です」
「城?」
「はい。ただし、攻め落とす理由が分からない城です。敵がいないのに、堀と壁だけが完璧に整っている」
その言葉で、レオンハルトの目が細くなった。
戦の経験が、意味を繋ぐ。
「攻める理由がない城は……」
レオンハルトが、低く呟いた。
「はい」
レルムは一拍置いてから、言葉を選んだ。
「落としたほうが、攻め手にとって損になります」
レオンハルトの視線が、鋭くなる。
「……何?」
「生かしておけば、金を産みます。壊せば、ただの紙切れです」
レルムは包みを軽く叩いた。
「王都の役人は、略奪よりも徴税を選びました。
狼は、腹を満たす獲物を噛み殺しません」
レオンハルトは、深く息を吸った。
攻めれば勝てるが、攻めれば飢える城。
だからこそ、攻めない。
それは、最も強い抑止だった。
――石造りの会議室は、子供一人を呑み込むには広すぎた。
クレドは椅子を与えられていない。
机の縁が胸の高さにあり、自然と視線は上を向く。見下ろされる位置。ここでは、それ自体が序列だった。
鎧の継ぎ目がかすかに鳴った。軍務長が体重を移した音だ。税務官は羽ペンを持ったまま、指を動かさない。
武装した大人たちに囲まれ、最も弱い存在が彼だった。
少なくとも、見た目の上では。
「説明しろ」
レオンハルトの声は低く、乾いていた。剣の抜き差しのように短い。
税務官が机の上に封蝋の割れた束を置く。王都監査の返書と、提出した控え。
紙の重さではない。書かれていないことの重さだ。
「王都は是正命令を出していない」
「承認でもない。ただ――黙認だ」
軍務長が鼻で息を吐いた。
武の世界で黙認とは、いつでも刃に変わる。
「だから聞く」
レオンハルトは視線を動かさない。
「お前は何を動かした。どこまでが領主権で、どこからが王都の牙だ」
クレドは一枚の紙を取り出した。
羊皮紙ではない。薄い紙だ。何度か折り、開いた跡が残っている。
机に置かれる音は軽いのに、空気だけが沈んだ。
「……前提から話します」
子供の声は高い。だが、言葉は区切られていた。
「徴税“権”は変えていない。変えたのは“徴収の手順(徴収事務)”です。王都の税吏が来る前に、領主権限で“集荷・通行の管理台帳”を整え、結果として徴税が確実になりました」
税務官の眉が、わずかに動く。
「違うのは、落ち方です」
一拍。
「昨年は、王都へ納める税の三年分を、前倒しで徴収していました」
「帳簿上は足りているように見えます」
「ですが、実際には途中で滞り、欠け、遅れていた」
軍務長が地図に目を落とす。
街道の線が、補給線として読まれていく。
「今年は、前倒しをしていません」
「一年分だけを、その年に落としています」
沈黙。
「ただし」
クレドは続ける。
「落ちる場所を、一箇所に絞りました」
「クズ市です」
名を出した瞬間、空気が変わる。
「新しい市ではありません」
「これまでも、荷は必ず通っていました」
「だからこそ、抜かれていた」
税務官が理解しかけた顔をする。
「徴税は、各地でまとめません」
「クズ市で、通行のたびに切ります」
「板に刻み、帳に線を引き、その場で分ける」
レオンハルトの指が机を叩く。硬い音。
「前年対比は」
短く言う。
クレドは即答した。
「三年分を前借りしていた去年より、帳面上の総額は減っています。ですが、今年は一度も遅れていない。欠けてもいない。王都は“未納”を叩けるが、“期限内完納”は叩けない(条文がない)」
数字ではなく、事実だけ。
「王都が噛めない理由です」
「この仕組みを、いつまで続けるつもりだ」
クレドは、机の上の資料に手を置いたまま答えた。
「続けるのではありません。……広げるのです」
「広げる?」
「はい。この仕組みは、隣領を規格化するための『実験』にすぎませんから」
「目的は?」
レオンハルトの眼光は鋭さを増した。
クレドは喉の奥がひりつくのを感じた。怖い。逃げ場はない。だが、この場で一番大きな賭け金を置いているのも、自分だ――その自覚が、逆に神経を研ぎ澄ませる。
「……三つあります」
声は高い。まだ子供の声だ。
だが、言葉は揺れなかった。
「一つ目。王都への純税収です。
税率も税目も変えず、
今の徴収と物流の仕組みを隣の領まで延ばした場合の試算になります」
税務官が、わずかに息を詰める。
「摩耗が減ります。
中抜きと遅延が抑えられる分、
王都に落ちる銀は、結果として増える」
「二つ目。交易量です。
通過点が一本に定まることで、
港領から内陸へ向かう貨物は、
自然とこの経路に集まります」
小さな指が、床を指した。“ここだ”。
「三つ目。防衛コストです。
仮に王都が軍を動かした場合でも、
失われる税収と治安維持費を回収するには、
最低七年かかります」
軍務長の顎が、わずかに動いた。
「以上が、表の数字です」
クレドは、あえてそう言った。
「……裏は?」
短い問い。
クレドは、別の紙を差し出した。
「流動性拘束率…いつでも使える銀が、隣領を経済圏に組み込んだ結果、我々の資金の一二%が即時に動かせなくなります」
税務官の眉が、わずかに動く。
「さらに、最悪の場合の想定損失…つまり、最悪の場合、今年の上納の1割が吹き飛びます。これは理論値ではありません。過去の事例に基づく実数です」
紙をめくる音が、会議室に落ちた。
「……要するに」
レオンハルトが、低く言った。
「首が回らなくなる」
誰も否定しなかった。
クレドは小さく息を吸う。ここからが本題だ。
「はい。隣領の信用は借り物です。我々は港でも王都でもない。最終清算能力を持たない調整役にすぎません」
彼は視線を上げ、真正面からレオンハルトを見た。見上げる形で。
「この仕組みは永続しません。市場には賞味期限があります」
そして、机の端に置かれた薄い紙束を引き寄せる。
「これは、撤退計画です」
軽い音で置かれたそれが、この場で最も重いものになった。
「規律が破られた瞬間、あるいは感情で判断された瞬間、僕はこれを実行します。躊躇はしません。戦でも同じです。勝っているうちに退くのが一番難しい。」
“我々は”ではない。“僕は”。
軍務長の声が硬くなる。
「裏切りか」
「利食いです」
即答だった。
「成功したまま、壊します。賞味期限が来たら、僕が壊す」
税務官の喉が鳴る。
「だからこそ、今です。今なら、僕が舵を握れます」
レオンハルトの手が、机の上で拳になる。剣を握る形だ。だが、そこにあるのは羽ペンだけ。
武人にとって、それは敗北に等しかった。
長い沈黙の後、彼は深く息を吐いた。その音は、古い時代が終わる音に似ていた。
「……不自由を飲み込もう」
それは決意ではない。受諾だった。
「最初は一人だけだ。規律を破れば、どうする」
「切ります」
迷いはない。
「感情も、例外もありません。傷が浅いうちに」
会議は、それで終わった。
夜。
クレドは一人、会議室を出る。膝が、わずかに震えていた。
怖い。それでも、胸の奥が熱い。
――これは、彼の賭けだ。
壊すのは、いつだって舵を握る者だ。
会議が散会し、鎧と靴底の重い音が石廊下の奥へ吸い込まれていった。
クレドが扉へ向かったとき、背後から低い声が飛んだ。
「待て」
レオンハルトだった。
そこにあったのは、先ほどまでの領主の顔でも、父親の顔でもない。戦場に向かう前、背中を預ける相手を見る――戦友の目だった。
「……部屋に来い」
私室は質素だった。武具は壁に掛けられているが、誇示する配置ではない。卓上には酒瓶が一本。レオンハルトは杯に一度だけ注ぎ、すぐ椅子に腰を下ろした。
「見当はついている」
問いではない。
「どこの誰を、どう喰うつもりだ」
杯に口もつけず、続ける。
「会議用の資料じゃ足りん。裏を出せ」
クレドは懐から、折り畳まれた一枚の地図を取り出した。羊皮紙ではない。何度も書き込みと消し込みがされた、使い込まれた紙だ。
「東のハルバート男爵領です」
レオンハルトの眉が、わずかに動く。
「……古狸だな。金払いが悪く、王都への言い訳だけは一流だ」
「はい」
クレドは地図を卓に広げる。
「人口は三万強。増えていません。出生率が落ちている一方で、若年層が街道沿いに流出しています」
小さな指が、領境をなぞる。
「主産業は穀物と皮革ですが、皮革職人の数が三年前から減っています。理由は単純で、原皮を買えない」
レオンハルトが鼻で息をつく。
「金が回っていない」
「ええ。税は取っていますが、現銀がありません」
クレドは、さらに紙を一枚重ねた。
「王都への手形。来月落ちます。額は例年より二割多い。徴税を前倒しした証拠です」
指が止まる。
「これが落ちなければ、信用は死にます」
レオンハルトは地図を覗き込み、やがてクレドの顔を見た。
「助ける、か」
「助けるふりをして、首輪をかけます」
言い淀みはない。
「短期資金を入れ、街道整備を請け負い、皮革をこちらで捌く。その代わり、徴税と決済に口を出す」
レオンハルトは静かに頷く。
「骨抜きだな」
「骨まで、です」
一瞬、沈黙が落ちる。
レオンハルトは、子供の顔を見た。そこに無邪気さはない。だが、血の匂いもしなかった。あるのは、計算された捕食者の静けさだけだ。
「……古狸を狩るには、狐が要る」
短く笑い、地図を突き返す。
「いいだろう。だが条件がある」
クレドが顔を上げる。
「深追いはするな。首輪を締めすぎれば、王都が気づく」
「はい。三割までです」
即答だった。
「三割?」
「資金も物流も、支配は三割まで。それ以上は“支配”ではなく“占領”になります」
レオンハルトは、ようやく杯に口をつけた。
「……時代が変わるわけだ」
呟くように言う。
「剣よりも、こういう地図が」
「剣は、最後に使います」
クレドは答えた。
「その前に、相手が折れるようにします」
扉の前で、彼は一礼した。
扉が閉まる直前、背後から、ほとんど聞こえない声が届く。
「……頼んだぞ」




