第5話 婚約破棄の理由を考える
そうして、ベラドンナと元婚約者の婚約が解消された二年後の卒業パーティで、
第四王子と側近候補の婚約破棄事件が発生したのだ。
第四王子達は婚約者達が嫉妬して令嬢に嫌がらせをしたと主張していたが、
婚約者がいるのに、他の令嬢と懇意になっていたことが悪いとされた。
婚約破棄を突きつけられた令嬢達が何か罰せられることはなかった。
その一幕の裏では、ベラドンナの元婚約者の家から王家への進言がされていて
第四王子達の学園での行いが全て王家へ報告されていたと言う出来事があった。
かくして第四王子と側近候補達が有責とはなったが、婚約破棄を突きつけられてしまった令嬢達のことも貴族間のお茶会や舞踏会などの席で噂をされて不名誉な結果となってしまった。
その一連の婚約破棄事件のことで、ベラドンナに火の粉が飛ぶことはなかった。
しかし、以前ケイトとコニーとお茶をしているときに、婚約破棄事件の話題が出て自分も元婚約者との婚約を続けていたら危なかったと話したことがあったのだ。
もちろん、噂になっても困るから二人には他で話さないように口止めはしていた。
ケイトは、婚約破棄されて噂話のネタとなるのは嫌だと思っていた。
その気持ちはわかる。
ベラドンナも、回避できたことで胸を撫で下ろしたのだ。
望んでいない相手と結婚しなくて済む、と考えれば良いかもしれないが
昨年の婚約破棄事件の噂はまだ、何かの折りに語られている。最近だって
今年の卒業パーティは大丈夫かなどと、話題のタネとなっているのだ。
そんな状況で、卒業パーティの場ではなかったとしても婚約破棄を突きつけられてしまったら婚約破棄事件に関連して記憶され、後々まで語られてしまうかもしれないのだ。
改めて考えると、ケイトの婚約者が言った「婚約破棄予告」は、かなりの脅しではないかと思った。
ケイトを動揺させて、剣術大会に専念させないようにしているのだとしたら卑劣なやり方だ。
しかし……。
ベラドンナは、昨年在校生として出席した卒業パーティのあの事件のことを思い出した。
「……そもそも、婚約破棄って、相手が悪くなければ突きつけられないでしょう?
本当に悪いかどうかは置いていて、それなりの理由が必要だわ。
ダフネル伯爵令息は何を婚約破棄の理由とされるおつもりかしら。」
ケイトがもしも剣術大会で勝った際に、ダフネル伯爵令息に怪我をさせてしまったとしてもそれは大会でのことだし、婚約破棄の理由にできるとは思えない。
「……なんだろうね……。私の方が身長が高いから?」
「そんな理由が認められるわけないわ。」
「定期的な茶会が試合になってるから?」
「え?」
「婚約者として少なくとも三ヶ月に一度は茶会をすることになっているのだが
試合をしてその後、冷たい茶を飲み干して終わりとなっている。」
「それは……、なんとも言えませんけど……、お互い合意なら……。」
「うん。お互い合意というか、言い出したのは向こうだよ。」
「それなら全く、理由になるはずがありませんわ。」
一応、婚約者としての定期的な交流というものが有ったこと自体がベラドンナからしてみれば初耳だった。
しかし、その場を見ていたとしても、稽古をしているとしか思えなかっただろう。
「試合はいつも私が勝っている。」
「流石ですが……。婚約破棄の理由とはならないですよねぇ。
婚約を解消したいと思う理由かもしれませんけど……。」
ラッセル・ダフネル伯爵令息の人柄についてはよく知らないが、
騎士団長子息で、自身も騎士を目指しているなら、剣術で婚約者の令嬢に勝てないという事実に不満があっても不思議ではないとは思う。




