表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【11話完結】天下無双令嬢は婚約破棄宣言を回避したい  作者: 月野槐樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/11

第1話 天下無双令嬢は布団を被る

もうすぐ春が来ることを感じさせる小春日和の日。

王都の学園の女子寮の一室の薄暗い部屋の中で布団をかぶってぶるぶると震えている人影を見て、ベラドンナは溜息をついた。


「今度は一体何があったんですの?」

「ケイト様ったら昨日の夜くらいからずっとこんな調子ですのよ。」


同級生のコニーは手を頬に当てて困ったように首を傾げた。

コニーの部屋はケイトの隣の部屋だ。

ケイト・コランバイン伯爵令嬢は、学園一の高身長をしている。

男子生徒を含めてである。


背が高いだけではなく、剣術の腕も評判が高い。剣術の授業でも、男子生徒に全く引けを取らない。

騎士科クラスの模擬戦で負けなしの天下無双令嬢と呼ばれている。

来週行われる全学年合同の剣術大会でも上位に食い込むのでは言われている期待の星だ。



「昨日の夜に何かあったのですか?」


ベラドンナは、廊下を誰かが歩いてくるのに気がついて、コニーと一緒に室内に入りドアを閉めて、密やかな声で言った。


「ううう……。」


布団をかぶって丸くなっているケイトは、くぐもった声を出した。泣いている様子だ。


「騎士科のクラスで何かあったのかしら。」

「騎士科の人に聞いてみないとわからないわね。」


ベラドンナもコニーも、ケイトとは仲が良いが所属学科が異なる。

ケイトは騎士科で、ベラドンナとコニーは魔術科に所属している。

合同の授業では顔を合わせるが、騎士科クラスだけの授業で起きたことなどは情報があまり入ってこない。


「怪我をしたとかじゃないですか?」

「え!? ケイト様、怪我をしたんですか!?」


ベラドンナの言葉を受けて、コニーが大袈裟に驚いて見せると、ピクッと布団の山が動き

少しだけ布団が捲られてボソボソと声がした。


「違う……。」

「じゃあ、誰か怪我をさせちゃったとか……。」

「え!? ケイト様、誰か怪我をさせちゃったんですか!?」


再び、ベラドンナが訊ねて、コニーが驚いて見せると、布団の口が開く。


「違う……。」


ふぅっとベラドンナは大きく息を吐いた。

コニーから、ケイトの様子がおかしい、朝食に来なかったと聞いて気になって

女子寮まで来てみたけれど、このまま布団と問答を続けるのもどうかと思う。



チラリと部屋の一角に目を向ける。水差しとお湯を沸かす魔道具が置かれている。

近寄って行って水差しに水が入っているかを確認した。


「……お茶でも飲もうっか。」

「わっ。ベラドンナ様特製の薬草茶?」

「そうよ。定番しか持ち歩いていないけど。」


そう言うとベラドンナは肩からかけていたショルダーポーチを手に取った。

薬師を目指しているベラドンナは薬草茶が好きで自分で薬草をブレンドしたものをいつも持ち歩いていた。

クラスメートの間で話題になることもあり、いつも持ち歩いているのだ。


ノソリ、と布団の山が動いた。


「……落ち着くお茶が良い……。」

「はいはい。」


ケイトからリクエストを受けて、リラックス効果がある薬草をブレンドしたものを取り出した。

魔道具で湯を沸かしている間に、小さいお茶会の準備を進める。カーテンを開けて外の光を取り込む。

部屋の隅に寄せられていたテーブルを動かそうとしたらコニーがケイトに声をかけた。


「ケイト様ぁ。テーブルを動かして欲しいですぅ。」


ムクリと布団の山が動き、布団から赤毛の髪の令嬢がヌッと姿を現した。


令嬢だと知っているからそう思うのだが、知らなければ一瞬男性かと思うほど大柄だ。

しかしきちんと着飾れば美しい令嬢だと思う。

着飾ったのを見たことはないのだが。

制服もスカートでなくズボンを着用している。ダンスの授業だって男子パートを踊っている。


ケイトはヒョイと片手でテーブルの端をつまんで持ち上げると、どこに移動させるのかとコニーの方を向いた。


「部屋の真ん中辺が良いですぅ。わぁ。流石ですぅ。」

「コニー。変な煽て方をしなくても、普通に頼まれたらやるよ。」

「ンフフ。」


コニーはクスクスと笑って、椅子の一つを持ってテーブルの方に運んだ。

ケイトがそれを見て椅子二つを手にして運ぶ。


ベラドンナはその様子を横目で見ながらカップの用意をしていた。


お茶菓子の用意はしていなかったなと思ったらケイトが、棚からビスケットのようなものを出してきた。


「え?何これ、すごく硬いですわね。」


手にした焼き菓子の端の方を少し齧ろうとして、コニーはマジマジと焼き菓子を見つめた。

ベラドンナも手にしてみたが、確かに硬そうだ。


「口の中にずっと入れていると柔らかくなる。」

「え?飴みたいってこと?」


飴にしてはサイズが大きくて、口に入れたらしばらく喋ることが出来なさそうだ。


「この間、王宮騎士団の訓練に参加させてもらったら、貰ったんだ。」

「お菓子じゃなくて保存食ってことですわね。」


お湯に浸けると柔らかくなるというので、ベラドンナは別のカップを用意してお湯を入れて配った。

薬草茶に漬けても良いのだろうけれど、薬草茶の味が変わってしまうから別で用意したのだ。


モゴモゴ……。

ケイトは、カチカチの焼き菓子を口に放り込んでモゴモゴと口を動かしている。

コニーは、用意されたお湯入りのカップに焼き菓子を入れてみた。


「……それで……、ケイトはどうして落ち込んでいたんです?」

「……。」


モゴモゴさせていたケイトの口の動きが止まった。

ベラドンナはじっとケイトの目を覗き込んだ。

スッとケイトの目線がベラドンナから逸らされた。


「……って言われた。」

「え?」


ボソリと呟くように言ったケイトの言葉が聞き取れずに聞き返した。

ケイトは薬草茶を一口二口飲んで、それからモゴモゴと口を動かした。


「……に……って……それで……。」

「その焼き菓子を飲み込んでから話してくださる?」


ケイトが黙って頷いた。


コニーがクスクスと笑った。ケイトから話が聞きたいが、焼き菓子が口の中で処理されるまでは話が進まない。

暫くの間、別の話題を話すことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ