やっぱり…
第四の松木くんが居なくて安心した。
「さ、どうぞー」
久しぶりの友梨奈の部屋は、昔と変わらずシンプルにみえつつ、可愛らしさがたまに見え隠れする、そんな不思議な部屋なのだ。
でも、それがまた落ち着くのだ。
ストンと、昔よく遊びに来たときに座っていた定位置に腰を下ろした。
「なんか久しぶりだね」
あったかい紅茶をそれとなく差し出してきた友梨奈。
やっぱり高校生ともなると、お茶の出し方もスマートだなぁと、改めて思ってしまう。
幼い頃なんか、
さて、今日はどのおもちゃで遊ぶ?
だったのにな。
大きくなるにつれて、どんどんいろんなことが進化していく。
特に、交友関係とか…
まさに、それを今日話すんだもんな。
「あのね、じつは…」
「うん?」
「その…午後から松木くんが来るの」
…
家に来るって…
やっぱり二人って、そういう仲なんじゃ…
もう、なにを…誰の言葉を…どう信用していいのか、さっぱりわからない。
「あ、そうなんだね。なら、オレはその前においとまするよ」
「ううん。それが…水弥斗にも居てほしくてね」
…
えっ…
「オレが居てもいいの?」
「うん」
…
これは…
…
相当気まずい時間がやってくるんじゃ…
てかさ、どの松木くんがやってくるんだ?
チャラ男の松木くん?
いや、バイト先の…
まさか、実那の彼氏の松木くん…だったら、一番気まずいだろ。
まさか、実那は来ないよな⁉︎
「え、それって…松木くん一人?」
「うん、そうだよ?」
不思議そうにオレをみる友梨奈。
…
そ、そうだよねー…。
ねー…。
どこからどこまで話していいのやらで、どう会話しようか正直迷うな。
「あの…それでね、実はわたしと松木くんは、付き合ってるフリをしてて、それには理由があるんだけど…」
「理由?」
「うん。わたしは、しつこいストーカーみたいな人がいて、その撃退のためなの。」
「え、それは大丈夫なのかよ⁉︎」
「うん、彼氏できたって言ってからは寄ってこなくなったの。」
「それならよかった。でも、なんかあったらオレも協力するから言ってよ?」
「ありがとう。でね、松木くんもわたしと付き合ってて、メリットがあって松木くんもよく告白されるんだけど、でも今は誰とも付き合うとか考えられないからって、お互いそんな感じで、助け合ってる?って言うのかな…そんな感じなの。」
「そっか。」
…
だから、松木くんはあんなこと言ってたのか。
「あのね、松木くんって人見知りがすごいでしょ?」
「えっ…人見知り?」
「うん、人と接するのが難しいみたいでね。今度からまっつんって呼んでくれたら嬉しいな、って言ってたよ」
…
「えっ…まっつん…てか、人見知りなの?そんな感じには、見えないけど…」
「あ、そうだよね。いつものときは大丈夫なんだけど、バイトしてるときとかいつもの自分出しにくいから、大変って言ってた。」
…
そうなんだ…
人には、それぞれの苦悩があるんだな…
オレには、ただのクールボーイにしか見えなかったぜ…。
「あ、これクッキー焼いたんだ。食べて」
「おぅ、久しぶりじゃん!これ美味いよな。オレ大好き」
「えっ…だ、だいす…あ、ううん。なんでもない。た、食べて。いっぱいあるから!そうだ、紅茶のおかわりも持ってくるね」
友梨奈は、急に赤くなって紅茶のおかわりをとりに行ってしまった。
一人で任せるのも悪いかなって思い、台所に行くと、ふととある物が目に入った。
あれは…
友梨奈って、なんだかんだで松木くん…いや、まっつんのこと好きなんじゃ…
…
続く。




