44.逢瀬
「じゃあ、あたしはここまでで。看護婦さんもいないし、部屋の中はマリだけだから。帰るときには玄関で佐藤が待ってるから、車に乗って行ってね。頼んだよ」
手指の消毒を済ませマスクを着けて部屋に入る。中ほどのビニールカーテンをくぐる。窓寄りのベッドに眠る彼女が月に照らされていた。ベッドの足元にある椅子に腰かけて彼女を見ていた。
静かに呼吸を繰り返す彼女には酸素マスクのようなものが取り付けられており、左右に並ぶ装置からは定期的に電子音が聞こえてきた。
目の前の彼女は最後に見た時よりやせ、白い。
彼女が薄く目を開けてこちらを見た。
「あら、こんばんわ」
「…驚かないのか?」
「驚くのにも体力が要りますの。少し体を起こしたいので、手伝っていただいても?」
ああ、と彼女の背中に腕をまわし腰から起こした。背中に枕を当てておいた。ふうと息を整えている。
月の光に照らされた彼女は逆光気味であまり表情はわからない。
「マスクをはずして」
「いや、ダメだろ?」
「?同じですもの。」
「…」
「あなたにはずっと振り回されていましたが、最後に振り回せましたね」
「初めて手紙をもらって、やり取りして。海に花火、クリスマスも一緒に過ごして」
「少し遅めの初詣にも一緒に行きました」
「バレンタインのチョコレートは直接渡せませんでしたが。ちゃんと届いたでしょう」
「私には縁のないことだと思ってましたから」
「幸せです」
「最後に傷付けてしまってごめんなさい」
「ああ言えば姉が動いてくれると思ったの」
「それでも『さよなら』なんて言われたくはなかった」
「ごめんなさい」
「いや、もういいんだ」
「この一月余り、手紙を読むたびに会いたいと思ってて」
「でも、座っているのもしんどくて」
「やせてしまいましたし」
「可愛くなくなったでしょう?」
「いや、今でもかわいいし、きれいだ。好きだ」
「挨拶からやり直しですかね?」
「私も好きです。愛しています」
「だから」
「キスして」
「そして、好きにして」
二日後、彼女は死んだ。
一日生れの豚ら
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日
生レのブタラ一
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星のラブレター
自分なりの解釈を物語にしてみました。
「暖かい夜」と「コオロギ」は同じ日のことなのか?
「何十年」てどれくらいなのか?
てなことを感じながらも、ミドルエイジクライシスにはしたくないなとか。
書き終えてみると、「生涯」と書きつつ大して長い話でもないのが笑えますね。
自分なりには満足してます。




