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34.凱旋前日

「あの白い建物は?」

「最近オープンした結婚式場ですよ。チャペルと式場併設の。特に見晴らしのいい庭での記念写真が好評らしくて予約がすごいことになってるとか。なんか、昔のお屋敷を改装してるらしいですが」

「そうなんですか」

「ご興味あります?」

「いやぁ。相手もいないもんで」

「またまた。あ、その先右曲がって。もうすぐ会場ですから、御到着後のスケジュールは事前にファックスしておりますが、念のためお渡ししておきますね。マネージャーさんは、私と一緒に会場責任者との打ち合わせ、皆さんは先に会場を見ていただけますでしょうか。追っかけ我々も会場に行きますので。その際、地元出身という事で、市長と県知事との談話時間を少しいただければと思います。で、今晩にはFMへの電話出演がありまして。明日午前にリハーサル、夜公演となります。で、ご日程は明後日までご滞在と伺っておりますが、こちらで車などの手配をさせていただきましょうか」

それは大丈夫とマネージャーが告げ、プロモーターと詳細の確認をしていた。


 大学時代から、新しいテープを作っては手紙に同封して送っていた。三回に上がる頃、宛先不明で帰ってきた。もう、電波に頼るしかなくなった。デビューを焦る俺に「まだ内輪受けがいいだけだよ」とカズがたしなめた。他大学の学祭への出演を依頼されるのが恒例になってくると、評判を聞いてプロデビューの話をいくつか持ちかけられた。しかし「卒業までは幅と質にこだわって過ごしたい」と、伝えて断っていた。まあ、ケンの馬鹿が大学院に進学したせいでさらに2年間見送ったんだが。卒業後も部員という事で部室を使わせてもらえたのは助かった。その2年間、俺とカズは練習時間以外はバイトに明け暮れ金をためた。

 そのころプロデビューのオファーは一つに減っていた。最初に声をかけてくれていた企業だった。


 それからは、ライブにテレビにラジオ、北は札幌、南は沖縄と、呼ばれれば地元以外どこでも演奏した。アルバム制作にプロモーション作成と録音に撮影と働きまくった。大学時代からの下積みか?前評判が良かったのか、順調に売り上げを重ねた。

 地方ではホールなどの大きな会場で演奏することが多かった。赤字を心配したが、エリア別のCD売り上げから大丈夫との判断らしい。

 そして、全都道府県の最後に地元でのライブ。これは契約時にお願いしていたことだ。地元には凱旋したい。他46都道府県を制覇してから地元で演奏したいと。企業側もそう大きな興行市場ではないようで、了承してくれた。先日マネージャーが明かしてくれたが、事務所には地元でのライブを熱望する手紙があふれていたのだという。

 企画会議で「母親をステージに上げて『夫人よ』とか言ってみるか」と言ったら、没った。オカルトじゃねえぞ、教養だといったが、面白くないと一蹴された。セットリストや照明の話も落ち着き衣装屋らの話になったころ缶コーヒーを買いに行った。「買ってきます」とスタッフが言ったが「気分転換」と言い部屋を出た。戻ったころには、衣装も決まり、最終確認に進んでいた。


 まあいい、凱旋だ。

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