28.バー
地元の大学に進学した私は、毎週末、地元の小さなライブハウスに通っていた。別に楽器をやるわけでも特にお気に入りのバンドいたわけでもなかった。情熱と向こう見ずと諦念を酒とたばこと音楽で流し込むような空気が好きだった。大体2~3時間の演奏後はバーとして営業していて、出演者やそのファン、他が吞んでいる。3ヶ月も通えば常連として扱われ、マスターやPAのバイト君に顔を覚えてもらっていた。
「レゲエはやらないのよ。葉っぱ臭くなるから」と、よくわからないことを言っていたが、ロック、フォーク、パンク、メタル、ポップスといわゆるバンド音楽が主体だった。
「この子達。変な歌詞だけど、面白いわよ」と、前情報で言われていたが確かに変わった歌詞だ。
それよりも、彼らはバイト先の常連だ。
制服で喫茶店奥に陣取り、コーヒー一杯で何時間もしゃべっている。男子も女子のように会話に花を咲かせるものかと女子高出身の私は思っていたが、あれはバンドの打ち合わせだったのか。
夏休みの高校生バンドを集めた企画ライブ。オープンはいつもより2時間早い15時30分会場、19時30分終演予定。高校生がはける20時までは酒類販売はなし、と、マスターの愛があふれている。
「いらっしゃい。今日は面白いわよ。お楽しみに」
ご機嫌なマスターに捥ぎってもらい、カウンターにドリンクを頼みに行く。ソフトドリンク限定の割にアルコール類と同じ値段だ。顔見知りに声を掛けられながら、ホール中ほどの高いテーブル席を目指し、正面にステージを見据える。いつもながら落ち着かない椅子だ。ステージ前の平場には高校生であろう少年少女がワイワイと開演を楽しみにしている。2年前までは私もあんなだったろうか。
1バンド30分、10分入れ替えの5バンド出演。流行りの曲を演奏するコピーバンドが多く、知った曲に安心する。ただ、やたらと音が大きくて耳栓を持ってきていてよかったと思う。「自分の音が聞こえないと演奏できないのは理解してますが、返しを大きくすればいいというものではないんですよ。」とバイト君はぼやいていたが、許容量ぎりぎりの音圧に高校生たちは狂喜していた。
彼らはトリだった。他の子たちと同様に同級生から冷やかしが入る中、笑いかけ、手を振る。フロントの二人が出音を合わせる。慣れたのだろう、ライブハウス全体の音のバランスを考えた音量だ。客席の照明が落ち、ステージにスポットが当たる。
「甘酸っぱいでしょう!いえ、甘いの!格好いいんだけどもね」
マスターがカウンターの向こうでくねくねしながら話している。
「こう、歌詞を聞いてて「この子やらかしているわあ」とか思う一方で、自分の恥ずかしい思い出を突き付けられるような。もうおっさんテレテレよ。もともと、曲の出来は良かったから…」
確かに、曲は変わってない。いや、微妙に違ったようだったが、歌詞は全部変わってる。マスターの言う「おっさんテレテレ」はわからないが、いい歌詞だと思った。高校生にもわかるのだろう、はじめオリジナル曲に戸惑っていた彼らも、最後には大きな拍手で見送っていた。
「デモテープとか、ない?」
マスターがにやりと笑う。
「今日のリハと、ライブを録音して、ライブのを渡してるから、そのうち作るでしょ」
「ライブだけ?リハのは?」
「あたしがもらったわ。宝物よ」
「リハの焼いてよ」
「あの子たちに聞いてからね」
「よろしくお願い。最後にほうとう」
「堂々と、まかない頼まないでくれるかしら」
それなら俺もと常連さんたちも注文し、バイト君が厨房に消えた。




