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20.テンション

家族そろった夕食、ありきたりの光景だが、父親が忙しいこの家では割と珍しい。子煩悩な父からの会話の弾む時間であるはずだが、全くしんとして、ひそひそと母娘がやりとりをしている。父親などは様子が分からず二人の会話に耳を傾けることに集中している。

「シオリ、マリちゃんが怒っているようだけれど何か知っています?」

「いいえ、昼間音楽を聴いていたときはそんな様子はなかったわよ」

「その後何かあったのかしら」

「手紙でしょう」

「あんなに怒ったマリちゃんは初めてよ」

「聞いてみましょうか」

「お願い」


「マリ、今日のライブテープは良かったわよね。歌詞も、演奏も。お姉ちゃんファンになっちゃったわ」

「そうですか、あの阿呆猿の曲がそんなにお気に入りなら、わたくしのも差し上げましょうか」

「ええ~、そ、それは悪いわよぉ~お、お、お父様たちにも聞かせてあげたいんですけど良いかしら?」

「どうぞ。浮かれて女子と海に出かける馬鹿猿のくだらない、時間を無駄にする曲ですが、それでも良ろしければ」

「ありがとう」


「お母様、これ以上は無理です」

「グッジョブよシオリちゃん。後で部屋を訪ねてみるわ」

「おねがい」


母娘三人の様子にハラハラしながら、黙々と食事を続ける父。盗み聞きした内容にほっとしつつも、メラメラと怒りをあらわにする次女の姿をじっくりと眺めている。


「いいかしら」

「お母様!どうぞ」

「お邪魔するわね。遅くにごめんなさい」

「いえ、まだ眠っていませんでしたし。どうされたのですか」

「今日の食事時にすごく怒っているようだから、どうしたのかと思って」

「なんでもありませんわ」

「今日もお手紙が来たんでしょう。テープも聴いたわ。とても良い曲だし、盛り上がっていたわね」

「聞かれたんですか?お母様が?」

「シオリちゃんがすごくお勧めしてきたのよ。とても素敵だったわ」

「それは、そうですね」

「おてがみに何か書いてあったの?」


「歌詞が…」

「ん?」

「歌詞が…手紙の中身とあまり変わらなくて」

「それで怒っていたの」

「いえ、それは良いんです。あの手紙があんな歌になるなんて思ってもみなかったですし、全く同じと言うこともなかったですし…」

「それじゃあどうしたの」

「そのライブを聴きに来ていたクラスの女の子と、海に行ったり、お祭りに行ったりできるようになったらしいです。でも、その歌詞のほとんどは私への手紙に書いてあったのに…」

「…よく分からないわ」

「私もよく分からなくて。でも、そうらしいです。」

「お手紙、読んでも良い?」

「はい」


母親が手紙を受け取り、何ものも見逃すまいと隅々まで目を通す。少し目を見開き、クスリと笑う。様子を見ていた娘が不審そうに問いかける。

「何か、おかしいことでも?」

「マリちゃん、確かに書き分けがうまくないけれど、彼のことを想像すれば、そんなふうに怒ることは書いていないわよ」

「何か、読み間違えていますか?」

「ここの『当日のライブにはクラスの女子二人にもご来場いただき、大変好評を得ました。ご褒美に、海水浴と夏祭りの誘いを受けていただけました。二人は大変喜んでおります』だけれど、この後ろの「二人」はメンバーの子たちじゃないかしら」

「女の子二人ではなくて?」

「そう」

「『俺モテモテ』という意味ではなく?」

「この手紙を書いているのは、突然告白するような、周りを気にせず、まっすぐ言葉を伝えてくる男の子よ?忘れたの。」

「いえ…」

「初めての手紙に比べれば、ちゃんと手紙になってきているわ。あなたに読んで欲しくて、返事が楽しみなのね。もう怒っていない?」

「はい」


母親が部屋を出ると少女は、手紙を手に取りじっと読んでいる。そして、突然ベッドに伏せると足をばたつかせて枕を抱いていた。

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