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畏れることはない、行きましょう〜聖女の帰還  作者: 里井雪


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勇者と聖女

 失意の私は、一刻も早く家に帰りたかった。そう思って近道を選んだのが悪かったのだろう。


「ねぇ、ねぇ、そこのネエちゃん、俺と遊ぼうよ」


 私はそんなに目立った容姿ではないと思うのだが、よくナンパされる。いつもは足早に逃げるだけで済んでいたが、今日の奴はそう簡単にいかなかった。


 いきなり肩を抱かれる。酒とタバコの匂いが入り混じった臭い息、安物のコロンの匂い、酸っぱいものが胃から迫り上がってきた。


 私は、身体強化、攻撃力アップの魔法を密かにハミングした。軽く手を振り解く。


「おーー、ねえちゃん、やるってぇのかい?」


 半袖シャツからタトゥーをこれ見よがしに見せているヤンキー兄ちゃん、通り行く人は目を伏せて見て見ぬ振りで通り過ぎていく。


 だけど、今の私からすれば、こいつなんて雑魚、一撃で倒せるだろう。ただ、未だ私は自身の魔力を十分に把握できていない。大怪我をさせる? 下手をしたら殺してしまう? どうする?


 あーーー、そうか!


 突然、天啓が閃いた。私は、異世界から帰還した現世でも、変わらず聖女だ。決して、聖女という肩書きから逃れることなどできない。


 どうしたって悪目立ちしてしまう。トラブルを引き寄せてしまう。だらか、この先には、過剰防衛で退学、などという未来が待っているのだろう。


 でも、これも運命、できるだけ、死なせないよう、こいつを叩きのめそう!


 覚悟を決めファイティングポーズをとった私の心に声が響いた。


《聖女! 目を閉じよ》


 勇者様? 勇者様なの? そう、これは、私と勇者様だけのテレパシー、専用秘話チャンネルだったはず。


 反射的に目を閉じた私。


「キラリ閃く聖なる光、精霊さん、あたしに力を貸して! ピュアリー・フラッシュ!!」


 眩い光の渦、瞑っている瞼の底が赤くなる。間違いない、勇者様は魔法を使った。


 異世界では「光の精霊よ、来たりて、万象を照らせ」と詠唱するのだが、現世では、魔法少女風になるようだ。少々、恥辱プレイ感が漂う。勇者様が女だからギリギリ救われている気もする。


 フラッシュはごく初級の光属性魔法だが、勇者の魔力を持ってすれば、闇属性のゴブリンなど即死だ。とはいえ、この魔法、同じ光属性の人族には無効のはず。それも勘案し、目潰しに使ったということだろう。


「こちらへ」


 手を引かれた。速度アップの魔法を歌う、瞬く間に二人は、我が家の前にあるさくらんぼ公園にたどり着いた。


「ありがとう。勇者様、で、いいですよね?」


「ええ、ごめんなさい、あれから、あなたのことが、気になって、気になって、ストーカーみたいなことをしてしまいました」


「いいから、黙って、目を閉じて」


 私は勇者様、楓に抱きついた。彼女も強くハグを返す。制服に染み込んだ、甘くて、ちょっと埃臭い汗の匂い。違う、勇者様とはやっぱり違う。


 楓の身長は私より五センチ低い、それにつけてもなんて華奢な体なの? だけど、この暖かさ、それだけは本物だ。


 私と楓は時が経つのも忘れて口付けを交わした。


 現世の日本では同性愛者が死刑なることなどない。だけど、屋外でセーラー服姿の女子高生が、骨も折れよとばかりに抱き合って、貪るようなキスをしている、やっぱ、マズイよね……。


 冷静になった私たちは体を離した。


「どうか、お許しください、聖女殿。私、怖かった、あなたと結ばれた先には破滅が待ってるんじゃないかと……。私、怖くて怖くて。本当に、ダメね。帰還して身も心も惰弱になってしまった」


「あら、勇者様、あなた、昔から臆病者じゃなくって?」


「そ、そうでしたね……」


「臆病を恥じる必要はありません、震える心に立ち向かう勇気さえあれば。むしろ、畏れを知り神に賜った力に慢心しなかった私たちだからこそ、魔王を討てた」


「確かに。一方、六度勇者を退け、驕れる魔王久しからず、でしたね?」


「その通りです」


「でも、私は実体のある魔王などではなく、幻影に怯えていました。聖女殿が男に絡まれているのを見て、やっと気付いたのです。我が身の愚かさに」


「奇遇ですね。私もですわ。私たちは、この世界でも、勇者と聖女であることに変わりない」


「はい。面倒事は向こうからやってくる。私たちに逃れる術はない」


「ならば」


「力を合わせ難局を乗り切る!」


 思わずユニゾンしていまい、照れくさそうに微笑みあう二人。元勇者楓はプリーツスカートをたくし上げ、私の前に立膝した。


「聖女殿、今、再び、この手を」


 楓が差し出す右手を私は払う。


「お断りします」


「え!」


「だとしても! 現世(うつしよ)での私は鈴木白百合、北条楓に恋焦がれる、一女子高生でいたいと思います」


「し、失礼! 白百合(クララ)さん、どうか、私、北条楓のパートナーになってください」


「よろこんで。私、鈴木白百合は、命尽きるまで、この手を離さぬと誓います」


 手を繋ぐ二人、少し汗ばんだ、か細くしなやかな手だけれど、やっぱり暖かさは昔と同じ。日はすでに落ち、宵の明星が東の空に輝く。


 どんなに望んでも、私たち二人には平穏な人生などないのだろう、それはお互いが孤独を選んでも同じこと。


 決めた! もう迷わない!


 激動の生涯、早すぎる死が待っていたとしても、二人なら、二人でなら、それも甘受しよう。


 立夏とは名ばかり、どこか冷たさを帯びてきた風に抗うよう、私たちは肩を寄せ家路を急いだ。











 最後までお読みいただきありがとうございました!


 本作は文学フリマ大阪13・9月13日(土)/東京41・11月23日(日)に出す『炉話2号』掲載予定作品です。#異世界帰還、#恋愛のキーワード合わせで書いたものですが、#学校モノでもあるので、こちらに先行リリースさせていただきます!


 『炉話』創刊号はこちら

https://c.bunfree.net/p/tokyo39/41056


 で、でぇ〜


 本作のタイトルは聖クララの言葉より。そう、そうなのです。『アルプスの少女ハイジ』大正時代の和訳でハイジの和名は楓、だから、白百合と書いてクララなのです。キラキラネームは白百合学園のクララホールからです。


 ちなみ、若宮女学院のモデルは鎌倉女学院ですが、虐めうんぬんは、フィクションですよ!


 異世界パートの方、処刑はマリー・アントワネット風、ターバンはスタンダールの小説にもなったベアトリーチェ・チェンチです。


 「同性愛は死刑」については、20世紀まで同性愛は違法とする国も多数存在しましたし、現在でも一部、最悪死刑になるような法律がある国もありますので、それなりのリアリティーがあるかな? と。


 魔法(歌)については、今放映中の『Aランクパーティ離脱』を観て「FF11、懐かしいなぁ〜」とふと思いました。私も廃人級(本気の廃神から見ればヒヨッコですが)プレイしてました。白魔道士、吟遊詩人、召喚士という後衛専門だったので、聖女の歌は吟遊詩人にちなんでいます。


 蛇足となりますが、これも放映中の『ギルます』、ルルリちゃんの悩み分かる!! 私、そこそこ優秀なヒーラー、バッファーだったと思うのですが、駆け出しのころはミスでパーティを全滅させたこともあります……。


 ネタバラシはこんくらいかな?


 実は、マジ忙しくて毎年出していた長編、去年はお休みしてしまいました。ノクターン用の新作、プロットは完成し、あとは書くだけ、で何か月も放置しています。今年中にはなんとか、と思ってますが、どうでしょう?


 ということで、いつものごとく、末筆となりましたが、この物語を読んでいただいた全ての方のご多幸を祈念いたしまして、終章のご挨拶とさせていただきます。

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