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VS害鳥大群、副団長の千本ノック

 

 ≪ふかし鳥≫。それはアイレー大陸中央部の≪白き沙漠≫を回遊している、群生の鳥の一種である。


 イリー世界におけるかささぎ程の大きさで貪欲な食性をもち、時たま異常繁殖をして大群となる。収穫直前の畑に襲いかかられては、ひとたまりもない。


 本来なら西方ティルムン領をぐるぐると飛び回っているだけなのだが、ごくまれに≪白き沙漠≫東境の山脈を越えて、イリー世界へ侵入することがあった。デリアドにも数年に一度くらいの間隔で現れる。



――しかし、なぜにここデリアド東域へ!?



 カヘルは目前に迫りくる暗雲、すなわち飛翔するふかし鳥の大集団を見すえて、ぎーんと青い眼光がんを飛ばした。


 通常、鳥どもが出現するのは森深き山脈に接する西域・北域の辺境である。そこからだいぶ離れたここ東域に到るまでに、いずれかの地方分団の監視の網に引っかかって、全土に警鐘が鳴らされたはずだ。それがなかった……前振りなく、ふかし鳥たちは現れた。



――つまり、海を渡って直接デリアド岬に渡ってきたと言うのか!?



 素早く考えつつ、カヘルとローディアは道上に半ば這いつくばるようにして、ものすごい速さで小石を拾い集めて行った。二人の意図を察して、ファイーも同様に石を拾い上げてゆく。


 ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃぎゃッッ……


 おぞましい音、しわがれたようなふかし鳥の鳴き声が、耳障みみざわりに近づいて来る。



「カヘル侯、そろそろ射程内です!」


「では行きます。よろしく、ローディア侯」


「はい!」



 すちゃッ!


 田舎道のど真ん中、カヘルは自前の得物えものである戦棍を左手にした。それを前方の空高く、迫りくるふかし鳥どもの群れに向けてまっすぐにつき出してから、両手に構える。



「上げて!」



 カヘル右脇、積み上げた石の前に片膝をついてしゃがんだローディアが、ふわッ! と石をひとつ、宙に放った。カヘルの打点にむけて。


 ぱっこーーーん!!


 大きく腰を切って――カヘル本日の第一打、するどく撃たれた石つぶては真っすぐ前方に飛んでゆく。


 ぎ・あーッッ!!


 黒い群れの中心が、ざわりとうごめいて薄くなる。小さな影がひとつ、落下していった。



「ローディア侯、次ッ」


「はいッ」



 ぱこーーーん!!


 カヘル第二打、今度は横向きにたなびき始めた群れの左翼へ飛んでゆく。


 そこの黒さも、ぐらりと揺らいだ。しかし依然として、ふかし鳥どもはこちらを目指して進んでくる。


 ぱこ、ぱこ、ぱこーん!!


 第三打、第四打、ローディアの補佐を受けてカヘルは連打を続けた。石つぶてが空に向かって飛ぶたび、鳥の影がひとつずつ落下してはゆくのだが、どうにも敵は多勢である。



「くっそう。やつら、めげないなぁ……!」



 ローディアは焦燥を感じ始めていた。恐れをなした群れが、南海へ引き返すことを狙っての打撃なのだが、鳥たちは一向に方向を変えない。逆にぐんぐんとこちらへ接近してくる。



「届くだろうか」



 びしっと低く言って、ファイーがカヘルの横に立った。女性文官は左手で揉んだ右肩を、ふいと回す。そして空を見上げ、……その右腕を下から勢いよく、ぶん回した!



――下手投げあんだーすろう!!!



 カヘルとローディアは、目を大きく開いて見たッ! ファイーの手中から閃光のごとく飛び出した石つぶて、それは群れの右部分に突っ込んでゆく。


 ぎゃーッ!


 ひときわ高い鳴き声がして、ばたばたっと数羽が豆畑の外れに落ちる。


 みごとに撃墜しておきながら、ファイーは憤然と低くうめいた。



「当たってしまうとは。もう、近すぎるッ」



 そう。ふかし鳥の群れはすでに豆畑の上空へと差し掛かっていた。先行する何羽かが、豆の茂みの中へどさどさと侵入を始めている。


 カヘルとファイーは、一心に連打撃を行った。しかし貪欲な鳥の群れは黒い霧のように、上空にて渦巻き続ける。集落の年間収益を根こそぎ喰いつぶそうと、その黒い霧は忌まわしき口を広げた――。



「ああ~ッ!」


「いけない」


「おのれぇッ」



 ローディア、カヘル、ファイーがぎりりと奥歯を噛みしめた……その時だった。



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