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第7話

 重くなった空気を紛らわすかのように社長がマスターの肩に手を置いてそう言う。

 言われたマスターはぽかんとした顔をして社長を見つめる。


「……は? なんで俺が?」


「当然でしょ。魔法使いはあんたしかいないし。魔法使いの感覚的な事とかは私達にはわからないし」


 何言ってんの? とでも言いたげな顔で返事をする社長。

 こちらも何言ってんだ? とでも言いそうな顔でマスターが呟く。


「マジかよ……。そういうのって俺の柄じゃないんだけど」


「あ……あの、よろしくお願いします!」


 マスターに向かって頭を下げる。

 まだわからないことばっかりだけど、いつか夢見た魔法使いになれるかもしれない。

 不安とワクワクが混ざった変な高揚感に包まれる。

 そんな不思議な気持ちでいると、急にドアが開き誰かが入ってきた。


「「クロエ(くん)!」」


 そう叫んで部屋に入ってきたのは隊長とユウカ先輩だった。


「あ、隊長。それにユウカ先輩も」


「この野郎!心配させやがって!」


「すいません、すいません」


 隊長は私の両肩をつかんで、思いっきり揺らしてがくがくさせる。

  あの、私今起きたばかりなので勘弁してください。


「隊長、社長たちの前なのです。その辺にしておくです」


 ユウカ先輩が社長の前だということでやんわりと制してくれた。

 その言葉でようやく社長に気付いた隊長が社長に向かって会釈をする。


「ん、社長? あ、どうもすいませんね」


「別にいいわよ。それより、無事でよかったわね」


「ええ、本当によかったです」


「まさかの入隊初日で殉職とか笑えないのです。パシリがいなくなるのは困るのです」


「えぇ……」


 本当に心配してくれていたのがわかる隊長と、本当にパシリがいなくなるのが嫌なだけかもしれない先輩。

 あまりに対照的な言葉に思わず声が出てしまう。


「あ、そうそう、風見隊長」


 不意に何かを思い出したかのように社長は鞄から1枚の紙を取り出すと、それを隊長に渡してこう言った。


「今後8番隊は彼と行動を共にしてもらうから。魔法使い支援部隊としてね」


「……え?」


「しゃ、社長。それホントに言ってるです?」


 突然の言葉に呆然とする2人。それを見て、イタズラっぽく微笑みながら社長が話を続ける。


「現状8番隊は隊員も少ないし、特にこれ、といった専門分野もない。だったら今は1人しかいないけど、いつか魔法使いが増えた時のために1番隊をサポートすることに特化した隊にしちゃおうかと思ってね。クロエちゃん以外はヘリや小型飛行機の操縦ができるでしょ? この人、現場行くのに空を飛んで無駄に力を使っちゃうから。同じ空を飛ぶにしても、ヘリだったら休憩ができる。そういった移動のサポートと現場情報の分析、効率的な作戦立案ができるようになってほしいわね」


 そう言うと病室のドアを開けて出ていく社長。

 残された私達はというと……。


「……あ~、社長が辞令を出したって言うならもう受け入れるっきゃないか。8番隊のみんな、これからよろしく頼む。そっちのお嬢さんにはマスターなんて呼ばれてるが、俺の名前はアクセル。アクセル・ブリューナクだ」


「8番隊隊長の風見、風見志道です。よろしくお願いします」


「ユウカ。ユウカ・レイニーデイです。よろしくです」


「私、クロエ・F・ティソーナです! 頑張ります!」


 なんて気まずい空気をなんとかすべくお互い自分の名前を言い合う。

 すると、マスターがこほん、と咳ばらいをすると窓の方を向いて話し始めた。


「さて、俺や今後増えるであろう……増えるよな? の魔法使いのサポートをする部隊に君達はなる。そのためには魔法使いについて、この国について、この会社についてもっと知らなくちゃいけない」


 その声色の重々しさに大事なことだと理解した私達は姿勢を正してその話に耳を傾ける。


「機密レベルは特S、欠片でも漏れたら知った全員を殺して、そいつがいたって痕跡さえも消し去るくらいの機密にも触れることになる。……だがその前に」


 そこまで言って、マスターはふっと笑う。


「お嬢さ……クロエはまずしっかり身体を治せ」







 半月後、私は退院し久しぶりに家に帰ってきた。

 普通の人ならまだ入院して当たり前のケガでも、今の私の身体なら格段に速く治る。


「ただいまー」


 ドアの鍵を開け家に入ると、奥からこっちに駆けてくる音が聞こえる。

 ……あれ? 今は家に誰もいないはず?

 少し緊張したけど、音の主が姿を現してすぐにほっとする。


「クロエ!」


 パタパタとやってきたライムは私の姿を見るなり、少し痛いくらい強く抱きしめてきた。


「え! 何!?」


「何じゃない!この馬鹿!瀕死の重体だって聞いたから心配だったのよ!」


 そういえば今日帰ってくるまでに連絡とか全くしていなかったことに気付く。

 医療施設の中にいたから連絡できなかった、っていうのもあるんだけど……そうだよね。


「あ……、ごめん。ごめんなさい。ジアスの医療施設でもね、電子機器の使用制限があるところにいたから」


「……なにはともあれ、無事に帰ってきてよかった」


「うん。ありがとう」


 あの悪魔のような人間性をしてるライムが心配してくれてた事実が嬉しかった。

 私は荷物をリビングに置くとこれまでのことをライムに話した。


「なるほどね、生きててよかったけどあんまり無茶しないでよ? ここの家賃安くないんだから、アンタに死なれたらその後私が全額払うことになるんだし」


「家賃の心配!?」


「生きててもらわないと困ることには変わりはないからアンタの心配もしてるわよ。ほら、この間の約束。夕飯さっさと作りな」


 退院した日くらいやってくれてもいいのに。

 この女……、やっぱり悪魔だ。


「あ、クロエ」


「なに?」


「……おかえり」


「……うん!」

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