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第5話

「バーミン!?」


 思わず叫んだその声に反応するかのようにバーミンは咆哮した。

 すさまじい叫び声に全身が痺れる。

 10秒ほど叫んだあと私をしっかり見据えると右腕を上げて振り下ろす。


「……っ!」


 反射的に後ろへ跳躍して何とか回避できたけど、目の前を通過したバーミンの右腕はすぐ近くに立っていた鉄柱を容易く切断した。

 切られた上の部分が地面に落ち、その衝撃で起きた轟音が工場内に響く。

 鉄柱を切断したその爪は少しも欠けていなかった。


 あんなのが当たったらひとたまりもない。


 私は腰のホルスターに入っているハンドガンを取り出すと、安全装置を外しバーミンに向けて発砲した。

 胸、左肩に当たる部分に命中し、一瞬怯んだのを確認すると。すかさず私はその場を離れた。


「……とにかく隊長に知らせないと!」


 入り組んでいる地形を利用して物陰に隠れ通信端末を手にする。

 隊長のコードを選択し繋げようとした瞬間、ザシュっという音と共に私のお腹から鋭利な刃が突き抜けていた。


「……え?」


 これは、なんだろう? なんでこんなことになってるの?


 理解が追い付かず混乱していたのも束の間、


「ぁぁぁぁぁぁああああああ!!」


 身体を引き裂くような、中から破裂するかのような、言い得ない激痛が私を襲った。

 お腹から突き抜けた刃が引き抜かれると、私は地面に転がる。

 不意に視界に影が落ちた。顏が上がらない。

 視線だけ上に向けると先ほどのバーミンが目の前にいた。その右腕の爪からは血がしたたり落ちている。

 きっとそれは私の血だ。

 急速に寒くなってきた。多分出血しすぎたせいだろう。


 私はこのまま終わるのだろうか?

 誰1人として守れずに、こんなにあっさり死んでしまうのだろうか?

 そんなのは嫌だっ!


「こ、このぉ……」


 私は上手く動かない身体に鞭を入れ立ち上がり、銃をバーミンに向ける。

 バーミンの爪がまた私の腹部を貫く。

 でもどうってことはない。

 もう感覚がないから痛くない。

 だから怖くない!


 ただ死ぬだけなんてまっぴらごめんだ!

 刺さったバーミンの爪を左手で握りしめ、右手で持った銃の引き金を引く。

 撃って、撃って、撃って、撃って……弾切れになるまで撃った。

 至近距離なので顔に命中しているが倒すまでには至らない。


 自分の無力さを感じた。

 悔しいなぁ……。まだ死にたくないなぁ……。

 意識が暗くなる瞬間、地面から巨大な棘がバーミンの腕を貫いてちぎったのが見えた。


 私の身体はそのまま地面に崩れ落ちる。

 更に無数の棘がバーミンを貫いた。


「おい、しっかりしろ!」


 そんな声が聞こえると身体が温かさで包まれる。誰かが抱きかかえてくれてるのかな?

 目の前に見えたのは先ほど工場の敷地に侵入した白いフード付きのコートを着た人だった。

 フードの奥にある顔を見て、私はその人物が誰かわかった。


 なんだ……、あの人だったのか……。

 ――そして急速に私の意識は闇に沈んだ。









気が付くと白い天井が見えた。


「……あれ、私」


 視線を動かせば室内には小さなタンス、机、いすが置いてあるのが見える。

 すぐ近くには心電図。まるで病院の集中治療室のようだ。

 身体が動くか確かめる。問題なく動く。

 傷を確かめる。病衣をめくり、腹部を見る。


「あれ?」


 あるはずの傷が無かった。刺し貫かれたのだ。傷跡が全くないなんてありえない。

 まさか、ここは……天国? それとも地獄?

 とにかく相当深い傷だったし、感覚無くなってたし、血も出し過ぎていたし。

 助かっている方が奇跡だと思う。


「あ~あ…短い人生だったな…」


 入社初日で殉職。

 まだまだやりたいこととかもたくさんあったのに……。

 凹んでいるとドアをノックする音が聞こえた。

 誰だろう? 天使かな? 悪魔かな?


「……どうぞ」


 返事をするとドアを開ける音がして、一人の女性が入ってきた。

 きれいな黒髪、誰が見ても美人だと言える整った顔立ちと抜群のスタイル。

 そしてスタイルの良さをさらに際立たせているタイトなスーツ姿。女の私でも見惚れるほどの美人。


「気が付いたようね。気分はどう?」


 我が社の社長……ヒルデ社長がそこに立っていた。何故か手にメロンが入ったバスケットを持って。


「しゃ、社長⁉」


「私が誰かわかるなら記憶は大丈夫そうね」


「な、なんで社長がここに⁉」


「大切な部下が大変な目に遭ったんだから、お見舞いに来るのは当たり前じゃない。メロンは好きかしら?」


 そう言って私にメロンが入ったバスケットを手渡してきた。


「あ、メロン大好きです。すみませんわざわざ……じゃなくて!」


 入社初日の私なんて知らなくて当たり前なのに、なんで社長が?


「工業地帯におけるバーミンとの戦闘で怪我人が出てね。その人たちのところを回ってるんだけど……。あなたは元気そうで何よりね」


 慌てて大きなリアクションをする私を見てくすくす笑う社長。笑う姿もどこか上品だ。


「あ、あのー……、ここってどこなんですか?」


 なぜ私はここにいるのか。私はどうやってここにきたのか。

 社長なら知っていると思って聞いてみる。


「ジアスの医療機関よ」


「医療機関…ってことは…私、生きてる?」


 私、あの時に死んだんだと思ってた。


「当たり前じゃない。見ての通り、ちゃんと五体満足で生きてるわよ。まぁ瀕死の重体ではあったけどね」


 でしょうね。なんて思っていたらまたドアをノックする音が響く。


「あら、来たみたいね」


 誰が来たのか社長はわかっているらしく、不敵にほほ笑む。誰が来たんだろう?


「お呼びでしょーか、社長」

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