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第3話

明日は始発で東京。しかもスーツ。

 8番隊の部屋に入ると室内はそこまで広くなかった。

 入口から正面少し入ったところに事務机が4つ並び、それに合わせて椅子も4つ。 

 机の上には書類やら何やらが乱雑に置かれている。

 部屋の左の奥にロッカーが並んでいて、部屋の右の方にはソファと長机があった。


 よく見るとソファに1人の女の子が寝転がって本を読んでいる。


「よぉユウカ。隊長様のお帰りだぞ~」


 風見隊長がその少女に気さくに声をかける。すると少女は体を起こして不機嫌そうにこう言った。


「飲み物買ってくるだけでどれだけ時間かかってるんですか、このボンクラ隊長」


 隊長に向かってすごい悪態をつく、このユウカという少女はなんなんだろう?


「ボンクラ……。え、俺隊長だよ? 君の上司だよ?」


 隊長はユウカちゃん(?)と私にそれぞれ持っていた飲み物を渡してくれた。

 あ、ジアス限定のスウィーテストシュガーいちごミルクだ。これ研修の時によく飲んでた好きなやつ。

 私が隊長の分は? と聞くと、俺は良いからとほほ笑む。この人はすごくいい人かもしれない。


「ボンクラはボンクラなのです。それは天と地がひっくり返っても変わりはしねぇのです」


 それに対して、ユウカちゃんの隊長に対する評価は低かった。

 隊長の何が彼女にそうさせるのかな?

 ユウカちゃんが渡されたコーヒー飲んだ次の瞬間


「かーっ! ぬるっ! やっぱ温い奴が買ってきたコーヒーは温いのです」


 すごくグレードアップされた毒舌がその口から飛んできた。


「上司! 俺、君の上司だけど?!」


「あ、あの!」


 とりあえず隊長があまりにも可哀想だったので、声をかけてみる。


「ん、そーいえばこの子誰なのです? まさか隊長…、またナンパした子です? いつも言ってるです。しけこむのにこの部屋使うのはやめろって」


 見た目いたいけな少女の口から『しけこむ』なんて単語が出てくるとなんかもやってするよね。

 まぁ、実際いたいけとは程遠いのは出会って2.5分でなんとなく把握したんだけど。


「ち、ちげーから! この隊に来た新人だから! あらぬ噂を捏造するのはやめろ!」


「新人をナンパしたですか。新人教育と言う名目の淫欲な行為をここで……」


 頭を抱えてしゃがみ込むユウカちゃんに少し不安になり、思わず私も隊長の方を向いて聞いてしまう


「……隊長?」


「しねーから! クロエくんも引かないように!!」


 ……どうやら私はとんでもない部隊に配属されてしまったようです。


「この猛烈に口が悪いチビッ子はユウカ。同じ8番隊の隊員だ。そして隊長をパシらせる悪魔でもある」


「ユウカ・レイニーデイなのです。5年前からジアスにいるです。ちなみにパシらせる悪魔ではなく隊長がじゃんけんに弱いのがいけないのです。弱肉強食なのです」


「よ、よろしくお願いします」


 まさか、この女の子が私の先輩とは……。見た目十代前半の少女にしか見えないなぁ。


「以上! 8番隊はこれで全員です!」


「え?」


 ちょっと私入れて3人って少なすぎない?

 大丈夫なの、この部隊!?

 って言いたくなったけど寸前のところで飲み込んだ。


「少なすぎって思ってるだろ? しょうがねぇんだ、ジアスの中でもとりわけここは、入ってくる人間より出ていく人間の方が多いからなぁ」


 その言葉にはっとする。そっか、バーミンとの戦いだもんね。

 怪我だけじゃなくて、時には……。

 きっとそんな最前線に立ち続けるハードなとこなんだ。

 なんて改めて気を引き締めていたら、


「というか、大体他の部隊に持っていかれるです」


 なんてユウカ先輩のうんざりしたような一言。


「来月新人が来るからいいだろ~? なんて言って、この前は1年一緒にやってきたトマスが第7に持ってかれたな。まぁ世知辛いけど、とりあえず死なないように頑張っていこうぜ」


 はっはっはと笑いながらそう言う隊長。

 あれ? もしかして私、すでに出世コースから外れちゃってるのかな?

 私がそんな不安を抱いた時、室内の内線が鳴った。ユウカ先輩が電話に小走りで向かい、それをとる。


「ボンクラ、課長からなのです」


「ちゃんと隊長と呼べ!そのうち泣くぞ!」


 既に半泣きになりながらも受話器を受け取る隊長。ユウカ先輩、保留ボタン押してたっけ?

 ボンクラって呼んでるのがばれたら怒られない?


「かわりました、風見です。……ええ、今しがた。……彼女はどうしますか? ……了解しました、すぐに取り掛かります」


 受話器を置いたとき、隊長の顔つきは変わっていた。ただ事ではなさそうだ。


「仕事です?」


 ユウカ先輩の質問に隊長が淡々と答える。


「各員、対バーミン装備」


「対バーミン装備ってことは、出たんですか、バーミンが!?」


 バーミン。私達人類の敵。私はそいつらから皆を守るのだと志し、ここに入社した。

 そのことを思い出すと、ぶるっと身体が震えた。……これはきっと武者震いってやつだ。


「今しがたT地区工業地帯に侵入したらしい。さあ、さっさと準備して行くぞ!」


「ちょっと待つです。クロエはどうするです? 流石に出会って1時間で即現場、はシャレにならねーです」


 そうだよね、入社初日から出動だなんて流石にそんなことは……。


「ああ、それだが課長がクロエくんも連れていけ、とのことだ」


「……えっ?」


「俺としては各種技能確認を全部終了してから出動させたかったんだが、とにかく人が足りないらしい。できる限り後方支援に専念させるが、場合によってはフォローに回れとのことだ。フォローに回るまではクロエくんも現場に出て、支援。俺達がフォローに向かう場合、クロエくんは車で待機。本部からの通信を待て」


「後方支援なら許してやるです……。クロエ、絶対に私達の言うことを聞くですよ? 現場は何が起こるかわからねーです」


「は、はいっ!」


 早速出動命令が出るなんて……。緊張してきた。

 私の初任務は大きな仕事になりそうです。

 T地区工業地帯。工業施設が立ち並ぶここにバーミンが入り込んだという。

 8番隊に課せられた任務、それは……


スウィーテストシュガー……

Sweetest Sugar ……

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