閑話:憧れのあの人は今いずこ
廃墟が並ぶ地帯、そこにフード付きのコートを羽織った青年と異形の怪物がいた。
怪物は青年に突撃し、伸縮する腕と鋭利な爪で青年に攻撃するも青年は軽くかわす。
そして、青年は右腕を左から右へ水平に振る。
それに呼応するかのように、怪物のいる地面が鋭く尖り怪物の腹部を貫いた。
何か声を出そうと口をパクパクさせた怪物の赤い目の光が消え、力が抜ける。
怪物がその命を散らした。
「ふう、これで終わりか」
怪物の身体が崩れ落ち、霧散したのを確認すると青年は近くの瓦礫に腰かけて、ため息を1つついた。
「よっと」
コートのポケットに入れていた飴を取り出し、封を切って口に入れる。
林檎の甘酸っぱい味が口の中に広がった。
「あーあ、こんないい天気なのになんで俺は怪物退治してるんだろうなぁ」
そうぼやきながら空を見上げると、砂埃で白っぽい地上とは対照的に雲一つない青空が広がっていた。
少しの間ぼーっと見続けていると、青年の左耳に着けていた端末から通信が入る。
「こちらジアス本部。状況を知らせて」
端末から凛とした女性の声が送られてくる。
「タイミング良いねぇ。今A地区のはぐれ退治が終わって一息ついてたとこだ」
ニヤッと笑いながら端末越しに女性へと返事をする。すると、すぐに返事が返ってきた。
「了解、よくやった。では直ちにT地区工業地帯へ向かってちょうだい」
「人使い荒いな。もうちょっと休ませてくれてもいいじゃねぇかよ」
「ぼやかないの。A地区の隣なんだからすぐじゃない。強力なバーミンが防壁を破って侵入したの。2番隊じゃそんなに持たない。すぐ現場へ向かって!」
「あー、はいはい。了解しましたよ」
ほんの冗談のつもりで放った軽口に対し、間髪入れずにぴしゃりと言い放つ女性。
それに若干呆れつつ青年は通信を切った。
「魔法使いも楽じゃねぇなぁ」
ため息をついてぼやいた青年が瓦礫から降りる。
「さてと、俺たちのセカイを荒らす奴を懲らしめに行きますか」
そう言って笑みを浮かべながら軽くジャンプをすると、青年の身体が宙に浮かび空へ飛んでいった。