第16話:クビですか?!
N地区の安全を確認した私達はジアスへと帰還した。
8番隊の部屋ではなく、マスター専用と化した1番隊の部屋に入るとそこには社長の姿があった。
「おかえりなさい。その様子だとどうやら能力を得られたようね」
椅子に座ってコーヒーを飲みながらそう話す社長に、私は笑顔で答える。
「はい! 紅蓮の魔法使いになりました!」
「……なにそれ? 誰が付けたの?」
苦笑しながらも特に嫌がった様子はない社長に、名付けた本人であるマスターが話題を変えようと話しかける。
「ところでなんで俺の部屋にいるんだ?」
「あっ、そうそう。大事な話があったのよ。8番隊もみんないるみたいだしちょうどよかったわ」
私達にも関係する大事な話ってなんなんだろう?
同じことを思ったのか、隊長もユウカ先輩も顔を見合わせてきょとんとしている。
「まずは風見君、レイニーデイさん、クロエちゃん。さっきこの人の命令を無視してN地区に行ってバーミンと戦闘したわね? 命令違反よ。罰としてあなた達が所属している8番隊は本日を以って解体します」
…え?解体ってことは私達クビ?
驚きのあまり声が出ない。それは2人も同じのようで驚いた顔のまま固まっていた。
「お、おい。ちょっと待て。確かに命令違反は重いけどよ、いきなりクビってことはねぇだろ?」
マスターも流石にひどいと思ったのか私達をかばってくれる。
「何言ってんのよ。クビにするとは言ってないわ。最後まで話を聞きなさい」
そう言って咳払いをすると、社長は話を続ける。
「明日からあなた達はここ、1番隊所属になるわ。今までより遥かに扱うものも責任も重くなるの。十分に覚悟を決めなさい」
…えっ?嘘。私達が1番隊に?
「ちょっ、ちょっと待て!こいつらが1番隊に来るってことはもしかして…」
「ええ、あなたの肩書も1番隊所属から1番隊隊長、に変わるわ。せいぜい部下を死なせないように頑張りなさい」
慌てるマスターと意に介さない社長。
2人のやり取りを見ても未だに実感がわかないけど、これってすごいことだよね…。
「あれ? 8番隊が無くなる代わりに1番隊所属になる? ってことは隊長手当がなくなる?!」
「風見君! わかる、わかるぞ! 手当が無くなるのは嫌だろう! そこでだ、君には俺の代わりに1番隊の隊長をだな……」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。元々あんた達魔法使いのための部隊じゃない。あんたが頭張らなくてどうすんのよ。あと風見君、1番隊所属ってのはね伊達じゃないのよ。クロエさんの基本給でも、あなたの今の手当込みの給料の1.5倍あるのよ? ということはベテランのあなたなら……?」
「……に、2倍?」
「2.5倍。なんか文句ある?」
「いいえ、まったく! アクセル隊長、よろしくお願いします!!」
なんてマスター、社長、隊長のやり取りを見ていると、ユウカ先輩が話しかけてきた。
「まさかクロエが魔法使いになるなんて、びっくりしたです」
「……私もです」
「魔法使いだろうがなんだろうが、クロエは私の後輩です。これからせいぜいパシってやるのです」
「えぇ……、それはちょっと」
3対2、でわいわいやっていると社長が手を叩いてこう言った。
「はい、お遊びはここまで! このあと総務と人事が来てあなた達の新しい机をここに置きに来るわ。元8番隊は8番隊室に戻って書類とかをまとめて社内宅配物集荷スペースに持っていく! そしたら今日は終了。明日は13時に1番隊室にくること。いい?」
「「「はい!」」」
あの後、正式な辞令を紙でもらった私達8番隊の3人は荷物を取りにお世話になった8番隊の部屋に来ていた。
「まさか…俺達が1番隊なんてなぁ」
ソファに座った隊長、いや風見さんが天井を見上げぽつりと呟く。
「全く思ってもみなかったのです。いよいよクビ切られたかと思って絶望したのです」
と机の引き出しから書類を出して箱に詰めるユウカ先輩。
「2人はそこそこ長くいるからある程度大丈夫だと思いますけど、私なんて入社してまだ半年も経ってないですからね?」
2番隊、でさえハードな訓練をこなした精鋭から更に選ばれないとなれない特別な部隊って言われてる。
それを超える1番隊なんて言ったらもうとんでもないことだ。
「おい、ユウカ。そろそろ終わったか?」
せっせと箱に詰めるユウカ先輩に声を掛ける風見さん。
「これで終わるです。待たせたのです」
そう返事をすると、ユウカ先輩は社内宅配物集荷スペースにさっきまで書類を詰めていた箱を置く。
「さて、行きますか」
風見さんが立ち上がると、それぞれ後を付いて部屋を出ていく。
最後に風見さんが部屋のプレートを外すと、これで8番隊は終わったことになる。
「じゃあ、また明日な」
「初日に遅刻なんてこっぱずかしいことしないように気を付けるですよ」
「お疲れ様でした!」
そう言って別れると各々の家路につく。
私もライムが待つ家に早く帰ろう。
バスを待つ間、何から話そうかワクワクしながら考える。
……あれ?何か大事なことを忘れてるような気が……。
次回、最終回です。




