第14話:紅蓮の魔法使い
N地区。
バーミンの侵攻を受けてからまだ復興ができていない部分が多くあり、かなりの数の廃墟、瓦礫が残っている。
荒れ果てた地、そこは再び戦場と化していた。
右手が鉄球となっている牛型のバーミンが、マスター目掛けてその右手を振り下ろす。
それをマスターが難なく回避すると鉄球が地面に当たる。
バーミンが鉄球を持ち上げると、そこにはクレーターが出来上がっていた。
反撃として地面から槍を生成して攻撃するマスター。
しかし、敵のバーミンの装甲は硬かった。身体を貫くことなく槍が砕け散る。
「チッ! 今回は結構やばいかもな」
明らかに分が悪い。自分の攻撃が全くと言っていいほど通用しない。
現れたバーミンのうち2体は倒した。
目の前の敵を含めてあと3体、どうしたものかと考え続けながら敵の攻撃を避けるマスター。
その時、最後に放たれた攻撃の振動で瓦礫が空から降ってきた。
「しまった!」
考え続けていた結果、周りへの警戒が弛んでいた。
落ちてくる瓦礫を避けきれずに足を挟まれてしまう。
「ちくしょう!」
足を引っ張るが深く挟まっているせいか全く動かない。
焦って引っ張り、傷ができるがそれはみるみるうちに治っていく。
目の前のバーミンは巨大な鉄球を振りかぶり、今にも自分の身体へ振り下ろそうとしている。
「こんなところで終わっちまうのかよ…」
マスターが悔しさからそう呟くと、横からエンジン音と女の声が聞こえた。
「マスター!」
別の瓦礫を踏み台に、一台のバイクがバーミンに激突する。
衝撃でバーミンは後ろに倒れると、バイクに乗っていた女がマスターとバーミンの間に降ってきた。
「マ、マスター! 無事ですか!?」
荒れ果てた戦場で、自分を助けに来た女。
それは来るなと命令を出していたはずのクロエだった。
何故クロエがここに? 理解が追い付かない。
しかし、間違いなく自分は今クロエに助けられた。
ただそれだけはわかった。
間一髪だった。
思いっきりスピードを出して走っていたらバーミンが見えた。
段々近付いていくとマスターを狙っていたから思わずバイクで体当たりしたけど……。
間に合ってよかった。
「お前、なんて無茶を!」
マスターが私に向かって叫んでいる。
無茶は承知の上です。
その結果身体中痛いけど、それよりも今はマスターを助けなきゃ!
「マスター、今その瓦礫どかしますから」
マスターの足に乗っかっている瓦礫をどかそうと手を掛ける。
あっ、すごく重い! でも動かないわけじゃない!
あの訓練って実は意味があったのかも?
「バカ野郎、俺にかまわず逃げろ!」
マスターはそう言うけど、その命令だけは聞けません!
「嫌です!逃げるならマスターを助けてからです!」
逃げるもんか。私だってあなたのような護れる側の人間になりたい。
「私もジアス国衛部、軍事課で、魔法使い見習いですから!」
その時、私の背後から大地を震わせるような大きな咆哮が響いた。
その咆哮を聞き、慌てて振り向くと敵はもう起き上がっている。
バイクでの攻撃は怯ませただけで、その身体に傷は付いていなかった。
私がみんなを守るんだ!
後ろでマスターが何か叫んでいるが聞こえない。
私はバーミンの前に立ちはだかる。
バーミンは私と目が合うと右手の鉄球を思い切り振り下ろす。私を殺すために。
私は腕を交差させて防御の体制をとる。
このままでは私はただ潰されるだけだろう。
鉄球の動きがやけにゆっくり見える。
死ぬ直前、景色がスローモーションに見えるってホントだったんだ……。
そう思って目を閉じると腕に鉄球の重みが伝わる。
しかし重みを感じたのは一瞬で、その後は何も触れた気がしない。
恐る恐る目を開けると想像もしていなかったことが起きた。
私の腕に触れたはずのバーミンの右手が無くなっていた。
その代わりにバーミンの足元には謎の液体が溜まっている。
「え?」
何が起こったのかわからない。
でも私の腕に触れた右手が無くなったってことはもしかして……!
「今のは、魔法!?」
驚きのあまり思わず声を上げる私にマスターが興奮交じりに叫ぶ。
「ははっ、マジかよ! こんな土壇場で?! そうだ!お前の腕に触れた瞬間、奴の腕がドロドロに溶けた!間違いねぇ、クロエそれはお前の魔法だ!」
私も魔法使いに……なれた?
まだ理解が追い付いていないけど、バーミンは待ってくれない。
今度は左手で私に攻撃を仕掛けてきた。
「…っ!」
マスターが言うにはさっきバーミンが私の腕に当たった瞬間、その部分は溶けた。
「ということは…!」
私はバーミンの攻撃をギリギリで避けると反撃で殴ってみる。
予想通りバーミンの腕は瞬時に溶けていった。
なんだか身体もすごく軽い感じがする。……もしかしてできるかも!
「はぁぁぁ‼」
すかさず私は近くの瓦礫を踏み台にして高く跳ぶ。
やっぱり! 魔法使いの能力、身体能力の向上!
勢いよく跳び上がったせいか、同じように勢いよく落ちていく私は、一度身体を丸めると伸ばすようにバーミンの頭めがけてキックをする。
ユウカ先輩がよくやってたドロップキック?の私バージョン!
バーミンの頭部がキックの当たったところから溶けて、バーミンは絶命した。
「や、やりました! 私やりましたよ、マスター!!」
残った身体が崩れ落ち霧散したのを確認すると、マスターの方を向きそう言う私。
それにマスターも笑いながら答えてくれる。
「命令を無視するなんてどういうことだ?だが結果として俺は助かった。お前はその力で確かに人の命を救った。よくやったな」
「へへ……」
初めて褒められた嬉しさに笑顔を隠せないまま、マスターの足に乗った瓦礫を溶かそうと手をかざす。
その時、背後から再び咆哮が聞こえた。
そうだ、ここに出てきたバーミンは5体。マスターが倒してなければあと4体はいるんだ。
「もうこれ以上こんな奴らに怯えるのはたくさんです! 私も戦います。だから見ててください。新しい私を!」




