第13話
「役立たずかぁ……」
確かに魔法は使えないし、兵士としても未熟だ。
それでもはっきり言われると凹む。
どんよりとした気持ちを抱えながら私は家に帰った。
「……ただいま」
「ん、おかえり」
帰るとライムがリビングでタバコを吸っている。
いつもなら文句を言うところだけど今は正直どうでもいい。
そのまま私はキッチンへ行きコーヒーを淹れた。
「なんか妙に沈んでるけど、なんかあったの?」
カ ップに入れたコーヒーを持ち、ぼーっとしていたらライムに話しかけられた。
「別に……」
話す気にはなれなかった。
未熟な自分のせいという理由があるし、もし話したらそれはただ泣きついているような気がして。
なんだか情けなかったから。
「じゃあ当ててみよう。N地区でバーミンが出たって言ってるけど、アンタが帰ってくるってことはマスターあたりに『足手まといだから来るな』って言われたとか?」
……そうですよ。完璧に当たっていますよ。
「……え? 冗談で言っただけなんだけど、マジなの?」
なんで冗談が完璧に当たるのよ。
すこしムッとしながらも私は頷いた。
「あー……、そうなんだ」
しばしの沈黙。気まずい空気が流れる。
「……でも別に良かったんじゃないの?」
不意にライムはそう言った。
「……え?」
「危ない目に遭わないで済むわけだしさ、生きててナンボっていうか、憧れていた仕事っていっても死んだら元も子もないじゃない。別にいいじゃん。自ら危ないことすることないって」
ライムの言っていることは間違っていない。
自分の命を大切にすることは当然だ。
けどそれは私にとっては違う気がする。
「……よくない」
「でも、何もできないじゃん。何もずっと現場に出ない方がいいってわけじゃなくて。もっと実力がついて、大丈夫になったら行けばいいじゃん」
それも間違ってない。
でも私が現場に行くことで、戦わなくても助けられなかった人が1人でも助けられた。
そしたら私がいる意味はあるはずで。
「N地区なんて今じゃほとんど人が住んでないヴァルヘイムでも端っこの方じゃん。ここには来ないって」
来ない? そんなことはない。
だって、あいつらはどこから来るのかわからないんだから。
あ、そっか。そうだ。私は何のために必死になってジアスに入ったのか。
……訓練ばっかで忘れかけてたけど、今はっきりと思いだした。
「私だって死ぬのは怖いよ。でもそれ以上にライム達が死んじゃう方がもっと怖いの。だから私は皆を守りたくてこの仕事を選んだ。あの日助けてくれたマスターみたいになりたくてね? ……そっか、ここで逃げたら私は多分一生後悔する! ありがと、ライム!」
そうだ。
たとえ役立たずと言われようが私は戦いたい。
私の行動が誰かを守る何かに繋がると信じてるから!
「バイク借りるね!」
ライムのバイクの鍵をリビングの机からひったくるように掴み、勢いよく扉を開け飛び出した。
「あ、ちょっと!」
制止しようとしたライムの声が聞こえたが気にしない。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね!」
聞こえるはずはないのにライムに向かってそう言うと、私はバイクに跨りエンジンを始動させる。
よし、しばらく乗ってなかったけどちゃんと覚えてる! いける!!
そして私はアクセルを吹かして走り出した。
自分のバイクに乗り、走り去っていく同居人の姿を見たライムは少し呆然としていた。
「…まぁ、いっか。ちょっとはマシな顔になったし」
クロエが何かを吹っ切ったみたいだ。
沈んでいる顔よりも、そっちの方がクロエらしい。
大人しく帰りを待つためにコーヒーを淹れ直すライム。
「無事に帰ってきなさいよ」
自分以外誰もいない部屋で、誰に向けるわけでもなくそう呟くと再びタバコに火を付けた。




