第12話
奇跡の2日連続更新!
「今回も随分と派手にやってるわね」
変わらず塀の上から3人の様子を眺めるマスターの元にヒルデが立ち、話しかける。
「いいのか? お忙しい社長さんがこんなところにいても」
ヒルデの方を向くこともなく答えるマスター。
それに対していたずらっぽい笑みを浮かべてヒルデが言った。
「部下の様子見るのも立派な仕事よ」
するとヒルデはスーツの胸ポケットからタバコを取り出し、火を付け吸い始める。
「で、どうなの、調子のほどは?」
ふぅ~、と大きく煙を吐き出すとヒルデが本題を切り出す。
「さっぱりだ。クリストフの見立てだと身体が耐えられないからってことで、ひとまず限界まで追い込んで鍛えた。その中で自分や仲間の命に関わるようなことが起きればあるいは、と思ったんだがな……。こいつはハズレなんじゃないのか?」
思ったまま、これまでの訓練の結果を踏まえた所見を言うマスター。
続けて鉄パイプを持ち、果敢に戦う風見を指さしてこう言った。
「こういう時は風見の方がよっぽど伸びてる。いや、実力を隠してるだけか?」
マスターの疑問に対し、ヒルデはタバコをふかすと端末を操作しながら答える。
「彼が強いのは当たり前よ。だって彼は元々2番隊の特殊行動班の班長だったもの」
「はぁ? 2番隊の元特殊行動班班長?! ってエリート中のエリートだろ? 次期2番隊隊長が約束されてるようなもんじゃねぇか。なんでまたこんな閑職に回ってんだ?」
経歴を聞き、驚きを隠せないマスター。
ヒルデは端末を操作しながら話を続ける。
「最初、特殊行動班が8番隊になるはずだったのよ。でも8番隊としての活動が始まる直前、風見君以外が全員戦死したわ。新しく人員を補充して始めようにも、特殊行動班ほどの練度を持った人間がいなかった。それにね、自分が突っ込んだ結果、周りがカバーせざるを得なくなってみんなが死んだ。自分が殺したようなもんだ、ってトラウマが自ら戦いに向かうことを拒むようになったの。じゃあひとまず風見君を教官として、見込みありそうな人間を1から育てて、特殊行動班を復活させればいい。でも、その間実働部隊である他の部隊にも欠員が出るから仕方なく異動させる。それを繰り返した結果、新兵を育てて2から7までの隊に回す役目になっちゃったわけ」
「ということはこのままダメでも、ユウカもクロエもいずれはどっかに異動になるわけか」
彼の強さに納得したマスター。すると現在従えている部下についても気になってくる。
「クロエさんは適正テストの結果でいくと地域の治安を守る5番隊かしら。でもユウカさんは8番隊のままよ」
「そりゃまたなんで?」
「あの子もうちに入って長いんだけど、性格に難があってね。どこの部隊に行ってもすぐ隊長と喧嘩しちゃうのよ。その度に風見君が頭を下げて、引き取って、下につけてるからかろうじてクビにはなってないけど」
ヒルデがそう言い終わった瞬間、ついに隊長もユウカも力尽きたのか戦闘を止めてキバオニくんから逃げ出す。
「思ったよりは粘ったが…そろそろだな」
誰かが斬られるまでそんなに時間はかからない。
そう判断したのかマスターは塀の下に降りるための階段へと向かう。
その背中にヒルデはこう言葉をかけた。
「とにかく、まだ決めつけるには早いわ。もう少し様子を見てから決めましょ」
「し、死ぬ…」
「チェーンソーの刃は偽物だって最初から言っておいてくれよ」
訓練開始から2時間。私達は逃げ回り、最後に斬りつけられて訓練は終わった。
正直本当に死んだかと思った。
「それじゃあこの訓練の意味がないんだよ」
マスターが淡々とそう言うと、ユウカ先輩がいつものように毒を吐く。
「ボンクラが最初から本気で戦っていればもっと早く終わったです。無能なのです」
「ああん? 何言ってんだ。お前が俺の狙ってた右肘にしっかり弾撃ち込んでたら、弾切れになる前に行動不能にできたんだよ」
配属されてから毎日見る小競り合い。
最初のうちは止めてたけど、ただじゃれてるだけだとわかってからは放っておくことにした。
「おい、お前ら。いつまでもじゃれてないで次の訓練に……ちょっと待て。通信だ」
休憩の終わりを告げようとしたところで、マスターの通信端末に通信が入る。
それに出たマスターは深刻な顔になった。
2言、3言くらいだろうか、言葉を交わすと通信を切り、私達の方を見ずにこう言った。
「N地区にバーミン5体が出現した。2番隊だけじゃ厳しいみたいだ。俺にも出動命令が下った。お前達はここで解散だ。帰って休んでろ」
いくら怪物とは言え、通常バーミンは2番隊だけで対処できる場合がほとんどだ。
それなのにマスターのところへ命令が下りるということは今回のバーミンは相当の強敵なのだろう。
「わ、私も…」
「来るな。足手まといだ」
私達は魔法使いの支援部隊だ。戦えなくても手伝えることはあるはず。
そう思い、マスターに進言したがばっさりと切り捨てられた。
「で、でも援護くらいは」
なおも食い下がる私に対して返ってきたのは厳しい現実だった。
「役立たずのお前らを守りながら戦う余裕はないんだ。繰り返す、帰って休んでろ」
そう言うと、通信端末を操作しながらマスターは演習場から出て行った。
マスターが演習場から出ると、入り口横の壁にヒルデがもたれかかってタバコを吸っているのが見えた。
「キツい一言ね」
ヒルデはマスターの姿を確認し、そう声を掛けるとマスターは立ち止まり答える。
「なんだ、まだいたのか」
声のする方向へ顔を向けると、いつものようにタバコを吸う姿が見えた。
「何か都合が悪かったかしら? それより今のやり取り聞かせてもらったけど、もっと他に言い方ってもんがあったんじゃないの?」
あくまで上司として指摘するヒルデ。
マスターはどこか寂しそうにこう言った。
「いいんだ……。死なれるよりずっといい」
「死なれるって、あんたねぇ……!」
そこまで言って気付いた。
マスター、アクセル・ブリューナクという男はバーミンと混ざることによって力を得た。
その中に強大な治癒能力と不老の力がある。基本的に死というものからかけ離れているのだ。
今までクリストフが魔法使いを育て、アクセルと共に戦い、そしてその死を看取る。何度も繰り返された日々。
今度はアクセルが育てる側も受け持ったが、そうさせてきたのは誰でもない、ジアスのトップである自分だ。
「俺がもし死んじまって、魔法使いがいなくなったらどうなる? その後、他に魔法使いが出なかったら? バーミンが5体同時なんて初めてだ。……しかもアニマルで5体だ。周りに湧いたドールは2番隊が命がけで片付けてくれた。幸いにも死人なしでな。でもなにかあって俺という確実性がなくなっても、クロエっていう未来への可能性は残すべきだ。そうだろ?」
マスターの目には覚悟があった。強い意志を表す目で柔らかく笑い、マスターは言う。
「大丈夫だ、俺もそう簡単に死にはしねぇ。俺は伝説の魔法使いだからな!」
軽くジャンプするとそのまま宙へ浮かび、飛んでいくマスター。
それをヒルデは見送ることしかできなかった。
執筆段階での明日明後日はイベントのスタッフ、1日休養にあてて、またその次の日お外なので。
うまいこと書き溜めできればお盆中に完結できそうですが、こればっかりはわかんねぇ!笑




