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第9話

先週はすいません!

主催イベントで疲れ果てて更新できませんでした!

 今日もここに来いと言われたから、8時50分にカードキーをタッチして会議室に入る。

 会議室の空調と照明のスイッチを入れるとカードキーのタッチ音が聞こえた。

 あ、マスターが昨日言ってた別の講師の人かな? そう思って振り向くとそこは胡散臭い髭のおじさんが。


「Salut. Enchanté.」


  スーツみたいな服に帽子をかぶった胡散臭い髭のおじさんが笑いながらそう言う。

 あ、これシャンゼの古語? こういう時は確か……


「Bonjour. Enchantée de faire votre connaissance.」


 だったよね? おっかなびっくりそう返すとおじさんが少し驚いた顔をする。


「ふむ……、お若いのによく勉強してらっしゃる。講義開始のちょうど600秒前にこの部屋に来て、585秒前に照明をつけ、580秒前に空調のスイッチを入れる。そして、570秒前に到着した私の挨拶に560秒前に丁寧に返してくれた。流石はジアスの社員。そして次代の魔法使い候補。と言っている間に510秒前になってしまった。……愚かな提案があるのだがどうだろう? 君さえ良ければ今日やることを200秒後に早めたい」


 えっ? えっ? どういうこと? 胡散臭いっていうか怪しさがすごいんだけど本当にマスターの言ってた講師の人なのかな? そうしてかなり私が戸惑っていると胡散臭いおじさんの後ろに見慣れた姿を見つけた。


「……探したぞ、クリストフ」


「おお、わが友アクセルよ。君の呼びかけに答え、久しぶりにここに来たが随分と様変わりしたようだな」


 マスターの声かけに振り向くと、笑顔で話しかける胡散臭い髭のおじさん。クリストフさん。


「お前はまず俺んとこに顔出してからここに移動するぞ、って言ってあっただろう」


「いや、すまない。久しぶりにこのスウィーテストシュガーいちごミルクが飲みたくなって、自販機にいったんだ。そうしたらすぐ近くだということに気付いてな」


 そういうと会議室の奥、昨日はマスターが座っていた椅子に腰かけるクリストフさん。

 手で私に着席を促すと、マスターはクリストフさんの横、私はクリストフさんの向かいにある椅子に座る。


「……まだ名乗っていなかった。私はクリストフ、クリストフ・トワイライト」


「そして、多くのバーミンを屠り、人々を守ったのち、引退した魔法使い。かつての名は黄昏」


 クリストフさんの自己紹介に合わせて、マスターが情報を追加してくれる。


「ああ、魔法使いという呼び名が私は好きではない。呼ぶのなら賢者(サヴァン)、と呼んでくれ」


「黄昏の……サヴァン?」


「ああ、そうだ。人々の悲しみを分解し(バラし)、幸せの数を求める答えを導く者、この生業にぴったりだと思うがね」


「相変わらずだなぁ、お前は」


「アクセルよ、君も似たようなものではないか。私みたいに引退して穏やかな日々を過ごせればいいが、その力が君を戦いから離さない。……私の力は戦い向きではないからな、引退できてよかったよ」


「嘘つけ。その目単体だけなら確かに後方向きだが、もう1つの力はかなりエグいじゃねえか」


 苦笑交じりにそう言うマスターと穏やかな顔で軽口をたたき合うクリストフさん。

 ああ、確かに2人は戦友なんだなぁ、って思ってしまった。

 あれ? もう1つの力?

 そんな私の疑問を察してかクリストフさんが、口を開く。


「我々賢者は高い治癒能力と不老、身体能力の向上が共通して発現し、取り込んだバーミンの異能を使うことができる。その中で、ごく稀にバーミンの異能を2つ使うことができる者が現れる。それが……」


「俺とクリストフってわけだ」


 へ~、そうなんだ。……待って、もしかして私も2つ使えるようになるかもってこと?!


「さて、お嬢さん。私の自己紹介は終わった。次は君の名前を教えてもらえるだろうか?」


 あっ、そうだ! 私まだ名前名乗ってない!!


「あ、私クロエ・F・ティソーナです! よろしくお願いします!」


「そうかそうか、クロエ。愚かな提案があるのだがどうだろう? 今日は君の話し相手になりたい」


「もちろん!」


 そこからマスターも交えて3人で色々な話をした。

 クリストフさんはとても面白く、とてもためになる話もしてくれた。

 そんなこんなでお昼のチャイムが鳴った時、マスターがこう言った。


「……よし、クロエ。今日はここまでだ。帰っていいぞ」


「えっ?! いいんですか?」


「ああ、今日は特別だ。明後日くらいから俺も訓練で忙しくなるからな。準備もしときたいし、早あがりでいい」


「ありがとうございます! お先に失礼します!!」


 そう言って会議室を出ていく私。

 やったやった! 夕方には売り切れちゃうあそこのパン屋さん寄って帰ろ~!

 あれ? でもカウンセリングとか講義とか一切なかったような……。





 クロエが帰宅して少し経った頃、会議室には真剣な顔をしたマスターとクリストフがいた。


「……どうだ?」


「……おそらくだが今異能が発動しても彼女の身体は耐えられない。まずは実戦向きの身体を作ることが大事だ」


「そうか」


「あとは彼女の未知なるものへ憧れる気持ち。それ自体はとても良いものだ。しかし、キラキラとしたものに憧れているだけではきっと後悔する。英雄としての賢者……いや、魔法使いではなく現実を見る必要があるだろう。それでも進むのであればきっと彼女は力を得て、生を愛してくれると思うがね」


「……助かった。おかげで何をすればいいかわかった」


「こちらこそ礼を言おう。よき次代に会わせてくれた。それに私の眼はまだ衰えていないとわかった」


「じゃあ、俺はそろそろ行くわ。久しぶりに食堂でメシでも食って帰れよ。話聞きたいお偉方もいるだろうし」


 そう言って、部屋から出ようとするマスター。

 その背中に向かってクリストフは声をかける。


「……時が経った。力を得て、伸ばし続けた。信じることが怖い、傷付くことが怖い、失うことが怖い。それでも君は人々のために笑って戦い続ける。だからこそ私は君の話し相手になりたい。いつでもいい、また連絡をくれ」


このあとまた夜にも第10話更新いたします!

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