プロローグ
「親戚の再婚で増えた身内が推してるアイドルだった件」
以来の連載になります。
そこまで長くはならないと思います。
その昔、セカイには多くのヒトがいました。
彼らは時に協力し、時に争いながらも永く生きていました。
ある時、セカイに一つの大きな石が落ちてきました。やがてその石から幽霊が現れヒトを襲いだしました。
ヒトは皆で協力して幽霊に挑み戦いましたが、幽霊の未知の力を前にしてはまるで歯が立ちません。
どんどん仲間が減っていくのを見てヒトは恐怖を抱き、セカイは悲しみでおおわれてしまいました。
ある時、1人の若者がどこからともなく現れ、無数の剣を生み出す力を使い、幽霊たちを倒していきます。
その姿に勇気をもらったヒトは若者と共に戦い、世界を取り戻します。
そして、ヒトは若者を魔法使いと言う意味を持つ、ソーサラーと呼び称えました。
ヴァルヘイムという国に昔から伝わる伝説。魔法使いの話。
今、ヴァルヘイムの人々はその魔法使いが現れることを願っていた。救ってくれることを願っていた。
崩壊していく建物。いたるところから聞こえる悲鳴、銃声、爆発音……。
元は大きな都市だった場所はもはや見る影もなく地獄と化している。
その中を1人の少女は走っていた。
10歳くらいの小さな少女が走っているのは逃げるため。
住んでいた街を壊し、人々を殺めた脅威から逃げるためだった。
ただひたすらに、まだ無事であろう地区に向かって。
そこへ行けば皆が、親友が自分を待っている。
そう信じて瓦礫の山を越え、つまづき、転びながらも走った。
無我夢中で走り続けていると、周りの景色が地獄でなくなっていく。
ようやく被害が少ないところまでたどり着いた。
あと少しで皆の所へ行ける。
そう思った瞬間、すぐ後ろから轟音と衝撃が少女を襲う。
弾き飛ばされた身体が地面に強く打ちつけられ、視界が真っ白になった。
激しい痛みが身体に走り、少女は目を開く。
立ち上がろうとするも激痛で力が入らない。
視界も少しぼやけ、揺れている。
何が起こったのか、周囲を見渡してみるとすぐ近くに『怪物』が見えた。
ワニのように面長の顔で裂けた口。目は複数ついている。2足で立った手足の先には鋭い爪を有する。
異形の姿をしたそれはこの地を地獄に変えた脅威…バーミンと呼ばれる怪物。
バーミンは少女を視界にとらえると、ゆっくり少女の元へ向かう。
少女は逃げようとするも、激痛と恐怖で身体が動かない。
バーミンの目が赤く光り、その腕についた爪を少女めがけて振り下ろそうとする。
もう駄目だと思い目を瞑った。
しかし直後に感じたのは爪で身体を切り裂かれる痛みではなかった。
「危ねぇ、危ねぇ。ギリギリだったな」
すぐそばから聞こえる青年の声。
少女は恐る恐る目を開けると、少女は青年に抱えられ、その身体は宙に浮いていた。
「大丈夫か?」
柔らかい笑顔で少女にそう尋ねる、白いフード付きのコートを身に着けた端正な顔立ちの青年。
少し視線を移すと、先ほどまで少女がいた場所に爪を突き立てたバーミンの姿があった。
そこでようやく少女は青年に助けられたことに気付いた。
次は仕留めるとでも言っているようにバーミンは目を光らせ、爪を少女たちに向ける。
「このまま嬢ちゃんを抱えて逃げるっていう手もあるが、生憎俺はこいつらを片付けるのが仕事なんでね。悪いけどちょっとばかし待っていてくれ」
青年はそう言うと地面に少女を下ろしバーミンへ向け歩き出した。
無理だよ、一緒に逃げよう、と叫ぼうとしたが上手く口が動かず声も出ない。
ただ少女は青年の後姿を見ている事しかできない。
それでも青年は臆することなくバーミンへと向かっていく。
バーミンは咆哮し、青年に襲い掛かる。
素早い連撃を退けた青年が右腕を下から上に振り上げた次の瞬間、バーミンの下から無数の棘が突き出す。
そしてその全てがバーミンを貫いた。
「グギャアアアアアアア!」
バーミンの断末魔の叫びが空に響き渡ると赤い目から光が消え、息絶えた。
その身体はあっという間に崩れていき霧散する。
「ふぃ~。嬢ちゃん、もう大丈夫だ。よく頑張ったな」
振り向きざまに少女にそう言った男は再び宙に浮き去っていく。
後から調べてみると彼は魔法使い。
昔話に登場する英雄。少女を助けた青年はその魔法使いだったのだ。
少女にとっても彼の姿は英雄の姿に見えた。
彼のことを勝手に師匠と思い、マスターと呼ぶようになった。
いつの日か自分もそうなりたいと想うようになった。
私もいつか魔法使いに……、あの日助けてくれたマスターのようになりたいと。
そして何年かの月日が経ち、物語は始まる。
6月2日に第1話、6月3日に閑話を投稿したあとは6月8日の更新。
以降毎週土曜か日曜の更新を目指します。
よろしくお付き合いください。