ジオの夢 幕間九話
私と漣さん、堅田弁護士、片岡税理士が片方に座る。相手席に田中氏と塚本氏。
まだ紹介はしない。
『まず、私はこの病院での立場はどうなっておりますでしょうか?』と、私が聞く。
『はい、時生様は変わらず理事長のままでございます。と言うのも、お亡くなりになられたと云う事で、早急に理事長の選出をと言われ、安田弁護士を理事長にと云う事で届出をする予定でありましたが、時生様が戻られたというのが分かり、中止になりましたので、届出は出されておりません。』と田中氏。
『そうですか、では他の理事は、安田弁護士、墨田税理士でありましょうか?』
『はい。そうでございます。監査は斎藤事務長でございます。』
『なる程、で私は以前の記憶が曖昧なのはご承知ですか?』と私は二人の顔を交互に確認してみる。
『はい・・・その事は看護部長の高田さんが仰っておられました。』
『私は何処に倒れていたのでしょう。怪我とかは無かったのでしょうか?今は特に痛い所とかは無いのですが?』
『斎藤事務長に呼ばれ、駐車場の仕切りの花壇で倒れている時生さんを運んだ時には、怪我は見当たりませんでしたが、意識はありませんでした。で、内科の大久保先生が状態を確認され、死亡確認を為されました。家族が居られないのは承知しておりましたので、直ぐに、安田弁護士と、住田税理士、斎藤事務長で今後の打ち合わせをされた様です。』
『何故、私は病院に来ていたのでしょう。自分の部屋から出ない生活であった様に思うのですが?』
『それは、毎月の通常の理事会であれば、それでも良しとなるのでしょうが、二年の任期終了の件でお呼びしたと聞いております。』
『なる程、では何故、私が、今、ここに来なければならなかったかを説明いたします。』と、二人を見る。
二人は特に心当たりはない様な感じだ。
『実は、安田弁護士も住田税理士も連絡が取れなくなっております。荒井AWCはご存知ですか?』
二人は頷く。
『お二人は荒井AWCでも顧問をして頂いておりますが、最近、事務所を閉め、自宅も引き払われ、連絡が途絶えております。理由は、荒井AWCでの横領が推測され、調査の最中であったのです。』と、私は田中氏と塚本氏、二人の顔を見ている。
何と無くそうだろうという様な顔で二人が顔を見合わせる。
『でそれを調査して頂いているのが、堅田弁護士と片岡税理士の両先生になります。で、こちらの女性は、荒井AWCで私の補佐をされております、笛井漣さんです。もし、連絡が必要であれば笛井さんにお願い致します。』
私は更に続ける
『一つ質問なのですが、医者でも無い私が理事長をしているということの理由は何でしょう?』
『はい、それは持分割合が荒井家が全てお持ちなのです。で、病院を存続させるために許可が下りております。』と、塚本氏が言われる。
『なる程、分かりました。で、今回、社員と理事と監査の入れ替えをしたいのですができますか?』
『はい、その手続きは私の方で致します。』と塚本氏。
『では、この様に、顧問弁護士と顧問税理士を両先生に、それと理事、社員に就任いただくこと。更に、笛井さんも同じ社員、理事就任、それに田中さんを事務長に、更に、社員、監査に、それと医師の先生に、御一方入って頂きましょう。どなたが良いと思われますか?』と、二人に聞く。
二人は顔を見合わせる。
『時生様は福田先生をご存知でございましょうか?』と田中氏に言われる。
病院をネットで調べた時に、一面に出ていたな・・・心臓外科の世界では有名だと・・・
『ええ。勿論です。』
『福田先生は美苑先生の後輩に当たり、医学の後継者でもあられます。ですから福田先生をお願いしたいのです。』と、塚田氏も言われる。
『わかりました。では福田先生にお会いして、お願いしてみましょう。』と私。
随分と信望されているようだ・・・
『では、こちらのお二人の先生も色々質問があると思いますので、答えて上げて下さいますか?私は福田先生にお会いして来ましょう。』
『あの、事務長についてどうしたら良いでしょうか?』と田中氏の顔が引き攣っている。
『斎藤氏は勤務されて長いのですが?』
『はい。私は仕事を教えて頂きました。悪い方では無いのです・・・』と。
『・・・暫く静かに様子を見ましょう・・・もし、斎藤氏から連絡が有りましたら、私が心配していたと。母と仕事をされた方なのですから、蔑ろにするつもりはないから、ともお伝え下さい。』と田中氏を見る。
田中氏は、少しほっとしたように見える。
『私も一つ、お聞きしたいというか、今後の病院経営の計画についてです。』
と。塚本氏がA4の用紙、十枚程をまとめた報告書をテーブルの上に出される。が、私は見ない。
『これは先の理事会で決まった今後の経営計画なのですが、この中に医師や看護師、事務職の給与の削減から経費の削減目標、新たな設備投資の計画が盛り込まれております。これはこのまま実行すべきでしょうか?理事長の指示をお願いしたいのですが。』と、下を向いて言われる。
事務所内は、静かであったが多少の物音はしていた。塚本氏が今後の経営計画の話をされると、物音がとまる。紙の捲れる音さえしない。
これは、これは・・・皆が聞き入っているのか・・・
『この実行者は田中氏と塚本氏が実行者となるわけですね。』
二人が頷く。
『それはご苦労様です。しかし、申し訳ありませんが、その計画書はゴミ箱に捨てていただけませんか。』
二人が驚いている。
『というのは、その計画書の件はいつ決まったのか、計画書の目的は、その根拠は、実効性はというところが、今の私に決断はできません。私は理事長であっても病院の何も知らないわけです。まして、計画した者が不在な今、確認が出来ませんからね。』
『中には必要な計画も盛り込まれているのでしょうが、一旦白紙で、お願い致します。』
『畏まりました。』
二人は多少は安堵したのか、頷きながら、返事をする。
『もしかして、資金が足りませんか?』
一番怖れている処だが・・・
『はい、実はそのこともあって計画を作られたのですが・・・』と田中氏。
『それは困りましたね。では、理事の方々も報酬なしで働いて頂いていた訳ですね。』と私。
二人が顔を見合わせ、塚本氏が自分の机に戻り、ファイルを持ってくる。それを私に見せる。
『いえ、これが理事たちの報酬となっております。』
『これは随分と高いですね。これが通常なのでしょうか?』
『おそらく五割り増しくらいかと・・・』と、塚本氏が言いにくそうだ。
『私も貰ってますね・・・』
塚本氏と田中氏は無言だ。
『笛井さん。私の申告に理事長報酬がありましたでしょうか?』
『いえ、時生様のご収入は株の売買益のみでございました。荒井AWCの報酬も受け取っておられませんでした。』と、笛井さんが怪訝な顔で述べられる。
『そうですよね。そんなお金があればデイトレなんて一生懸命しないでしょう。』と苦笑する。
室内も、ざわざわしている。
『しかし、この口座に振り込んでおります。』と塚本氏が振り込みの控えを見せてくれる。
『知らない銀行ですね。後ほど、問い合わせをしてみましょう。もしかしたらお金が残っているかもしれませんね。楽しみです。』と笑う。
皆も苦笑している。
『細かいところは、両先生と打ち合わせをして下さい。私と笛井さんは福田先生にお会いしに行きますから。こちらに看護部長か看護師長は居られませんよね。』と、見回してみる。
『佐々木と申します。看護師長をしております。看護部長は先日、一身上の都合ということで退職希望を出されておられます。』と、四十代くらいの女性の声だ。
うん、元気で、頼もしい。
『では、看護師長もご一緒に行きましょう。福田先生に話すことが同じか確認をお願いいたします。』
『はい。畏まりました。』
佐々木看護師長が外科病棟の心臓外科へ連れて行ってくれる。
心臓外科の診察室の廊下で待つ。
『福田先生は、間も無く回診が終わり来られるとの事です。』と看護師長が病院用のPHSで連絡をとってくれる。
白衣の三十代後半の男性が廊下を歩いてくる。
『時生君久しぶりだね』と声をかけてくれる。
『先生、ご無沙汰いたしております。』
病院のホームページに載っていた人に間違いない。
『そうだよ。何年振りかな。会うのは。もっと病院に来てくれないと寂しいじゃないか。』と言われる。
『で、改めて話とは何だい?』と。
で、先程の話を掻い摘んで話す。
『で、先生には理事をお願いできないかと思いまして。お忙しい中大変だとは思うのですが。それに今は理事の報酬も気持ち程度しか出せないですが・・・』
『報酬の額は皆と同じならいくらでもいいよ。』
『そうだ。看護部長も入れられないかな。やはり病院事だろう。彼女も美苑先生の薫陶を受けた人だからね。』と福田先生が言われる。
『先生。高田部長は一身上の都合により、退職願を出されておりますが、ご存知ではありませんでしたか?』と佐々木看護師長が言われる。
『そんな・・・どうしたんだろう。時生君さえ良ければ説得してみようかと思うんだが、どうだろう?』
と先生が言われる。
この先生は本当に何も知らないのか・・・
『それは構いませんが、先生は私が入院していた事は聞かれておりませんか?』
『うん?入院していたのかい。だったらここに入院すれば良かったのに・・・で、何処に入院していたんだい?カルテを取り寄せておくよ。』と難しい顔だ。
『先生。理事長は理事長室に入院されておられた様です。で、一度村田先生が死亡宣告をされたのですが、三日で戻られた様なのです。その時看護に当たられたのが、高田部長で、我々にも知らされる事はありませんでした。で、今理事長からお聞き致し、それが辞める原因ではと・・・』看護師長が話してくれる。
『そんなことが・・・』
『先生、私は看護部長に蟠りがあるわけではありません。まして、母と長らく仕事をされてこられた方です。もし、まだここにいる気がお有りであるなら、これからも頑張って頂ければと思いますが。』と私。
『うん、では一応聞いてみるよ。』と。
福田先生はこれから手術があるから、済まないと言って去って行った。私達三人は事務室に戻る。途中、看護師長に聞いてみた。
『看護部長は、あなたから見てどんな方ですか?』
『はい、全ての看護婦にとって、仕事に対してとても厳しい人です。しかし差別はなさらないし、普段はお優しい方なのです。』と看護師長は言われる。
事務室に戻ると、まだ、四人で打ち合わせの最中だ。私と漣さんは、特にする事はない。で、声を掛けて、帰る事にする。
事務室の皆さんにも挨拶をする。皆も会釈をしてくれる。
漣さんの運転でマンションに向かう。
私は応接間のソファーにいる。
『漣さん、今日はお疲れ様でした。疲れたでしょう。』とキッチンにいる漣さんに声を掛ける。
『いいえ、知らないことばかりで、とても興味深いです。』と漣さん。
『でも、私などを病院の理事にしてよろしいのですか?』と心配顔だ。
『ええ、理事は理事長の家族が成るのが普通のようですよ。漣さんは私の家族ではありませんか。』と微笑む。
『そのように仰って頂いて有難いです。』と笑ってくれる。




