ジオの夢 五十話 停戦
ヴァイス家の大広間に来た。多くの家を束ねているだけあり、大広間は半円のすり鉢状に造られ多くの者が入れる様になっている。
我等はレーベン殿、ユリア様。それにガイとワーレン殿で来た。ざわざわとうるさい中に、直線の壇上には、モトロフ殿、クラウス家のハイデナリー殿の代わりにオットー殿、ギレン殿がおられる。アラゴン家とヴァイス家は来ていない様だ。オレらも、空いている場所に陣取る。勿論素顔は見せない。白い外套にそのフードを被り面をつけている。ユリア様は、流石に今日は面無しで赤い髪を外に出されている。オーロフ家は来ていない。
ざわめきが収まる。壇上にアラゴン家当主、それにオーラン、車椅子に座るヴァイス家当主とカールが現れる。
『お待たせ致した。では今回の調停の件の話し合いを始めたい。まず、不幸な事で戦いになってしまった事をアラゴン家の代理としてお詫びしたい。』とオーラン殿が言う。
会場がざわめき出す。
『あいつは何を言ってるんだ。』
『おい、そんな事で収まらんだろう』
あちらこちらで様々なこえが聞こえる。
ふーん、面白いな、たしかに、あれは詐欺師の部類だ・・・
と、ガイが立ち上がり、大剣を鳴らす。周りが静まる。
『おい、オレはガイウス・ロンバニアだ。オーロフの当主は消えたぞ。ロンバニアが欲するのは、アラゴン当主、ヴァイス当主、コンテッサ当主、そしてオーランの首だ。それで領地は保証してやる。オレらはコンスタンチン回廊にいる。嫌なら兵を出せ。その代わり今度は略奪では済まさんぞ。人も家も全て焼き尽くす。』
『宗家当主、あとは任せる。俺はコンスタンチン回廊に戻る。ワーレン始末を確認しろ。』
『はっ。』
それだけ言うと、ガイはオレを見て出て行く。
勝手なやつだ。仕方ない・・・
俺は剣を抜くと、壇上に向かって歩き出す。ユリア殿もレーベン殿も同じく剣を抜き付いてくる。
ワーレン殿は後ろにいるようだ。
『レイ、取り敢えず、兄を紹介する。会った事はないだろう。』と壇上のカールが言う。
『カール、悪いが首を落とす者を紹介されても寝覚めが悪い。だからいらん。カール、何故領地から出て来た?お前の首も落とさねばならなくなった。オレに容赦は無いぞ。ガイも承知のことだ。』
『・・・』と、黙っているカールは表情を変えない。
『宗家御当主、再度お話をさせて頂くわけにはいきませぬか。』と、モトロフ殿。
『モトロフ殿、降伏されると言うお話であったと思いましたが、違いましたでしょうか。』
『確かに、オーラン殿が降伏すると申しておりましたが・・・』
『なる程、先ほどのオーラン殿のお話では、降伏という感じではありませんでした。それで、ガイウス・ロンバニアが切れてしまったのでしょう。あの者も兄のロンバニア公と同じで、切れるとこおうございます。まあ、嘘つきには首を差し出してもらいましょう。それで、ガイも落ち着きましょう。』
『オーラン殿。さあ、私と一騎討ちを致しましょう。逃げますれば、一生臆病者の名がついてまわりましょう。良いのですか。』
とオレはオーラン殿を見る。
『馬鹿な奴だ。お前など俺が出るまでも無いわ。許してやるから、さっと行け。さもないと兵を向けるぞ。』
『困った御仁ですね。では私がそちらに行きますよ。』と、ゆっくりと壇に上がりオーラン殿の前に立つ。
オーラン殿はオレを見ているが動かない。流石に歴戦の者か、気配だけでは軽々しく動かない。慎重だ。
仕方ない隙を見せるか・・・
オレは右に動く。と、躓いて前にのめる。剣を落とす振りをする。と、オーラン殿の大剣が頭に振り下ろされる。オレはその一撃を、体を捻って躱し、体を元に戻す。
『オーラン殿。残念でした。唯一の機会でしたのに。では、あの世でまた会いましょう。』と、剣を一閃させる。
オーラン殿の首が飛ぶ。体が倒れる。
場が静かになる。
その光景を見ても、アラゴンの当主もカールも表情を変えない。ヴァイスの当主は顔を背けている。
『ヴァイスのご当主。嫌なものを見せてしまいました。』とオレは声を掛ける。
『いや。聞いてはいたが、見事なものだ。しかし、私には性にあわないようだ。』
『はい、本来、人であれば当たり前なのです。しかし・・・』
『宗家の当主。もう、気になさるな。行く処まで行ってしまった者達だ。それより、これを。これがすべてだ。これで収めてくれぬか?』と、ご当主がワン家の商符を二枚出される。金額は十分だ。
『よろしいのですか?』
『ああ。私はもう長くはないからな。ここで最後まで過ごしたい。』
『わかりました。しかし、お一人で大丈夫で御座いますか?』
『ああ。妻もいるし。あれは少し変わっているが、私を大切にしてくれる。』と。
脇より女性が出て来ると、カールを突き飛ばし、車椅子に寄り添う。そして、オレを見られると、オレの手を取って何か言おうとする。しかし、必死のお顔が、何かわかったかのように微笑まれる。
それを見ていたヴァイスのご当主が安心したように言われる。
『レイ殿と言われたか。レイ殿は優しいのだな。これに笑いかけられる者は殆ど居ない。カールも昔はそうだった。しかし、今は見ての通り・・・』と、カールを見られる。
カールは人形の様に、立っている。
『最後に会えて良かった。』と手を振られ、女性の顔を見られ、車椅子を押して貰い、出て行く。オレはそれを目で追っている。
ヴァイスの当主は出来た人だ・・・何処でこうなった・・・
アラゴン家の当主はいない。カールも出て行った。
『モトロフ殿、オットー殿、ギレン殿、有難う御座いました。お蔭で落とし処が出来、助かりました。』
『いや、お役に立てて良かった。』とそれぞれ仰って下され、帰って行かれた。
ワーレン殿が各家の方々と話をし帰らす。我々も、ワーレン殿と共にそのまま、引き上げる事にする。
『ワーレン殿、ご苦労さまでした。これをお渡し下さい。』とワン家の商符の一枚を渡す。
『これはまた、とんでもない金額でございますな。持って逃げたくなりますぞ。』と困った顔をされる。
『ギル兄が怖ろしく無いのであれば、それもよろしいのではないですか。』とオレ。
『いや、聞かなかった事でお願い申す。』と苦笑される。
オレ等も兵を引き上げていく。オレはゴドロノフにむかう。
いつも思う・・・戦は嫌だ・・・戦を起こそうとする者は人の命を何とも思わないのだろうか・・・
おそらく、自分や家族の命は大切なもので、他の人々にも命があると思った事は無いのだ。
どんなに高邁な目的を掲げ、人々にその目的の遂行を強いても、それは、自分や家族の命を捧げるに値しないのだろう・・・
・・・馬に揺られて、うとうとしている。
どこかの戦の夢を見た・・・多くのひとが瓦礫の下に倒れている・・・オレも同じ人殺しだ・・・
『レイ様、どうされました?泣いておられますが・・・』と、ユリア様に起こされる。
『泣いておりましたか・・・悪い夢を・・・戦の夢を見ました。戦が無くなればよいですね。』
『はい。レイ様が無くして下さると思っております。』と微笑まれる。




