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ジオの夢 参、ダイナと男

盗賊たちは酒場に入ると、宴会を始めているようだ。オレは白い外套のフードを被ったままゆっくりと酒場に進む。街長(まちおさ)は無理だから止めろと言っていたが、大丈夫だから任せておけと言っておいた。酒場の中に入ると、右にカウンター、真中に大きなテーブルがあり、回りに幾つもテーブルが有り、奥にもある。皆、席に座って飲んでいる。オレが入っていくと座って飲んでいた面々が一斉にオレを見る。オレはカウン夕ーに歩いて行く。


『ねえ、ここの首領さんに話があるんだけど・・・どの人?』とオレはカウンターの中にいる若い男にだけ聞こえる声で聞く。

男は恐る恐る目を向けて、

『ー番奥のテーブルの赤い帽子・・・』と小さい声で呟く。

『兄さん、これから一悶着あるから、巻き込まれたくなければ、その扉から出てたほうがいいよ。』とオレ。

その声を聞くと若い男はそそくさと出ていく。


『皆さん、多くの人を殺めたみたいですね。その責任はご自身に帰りますよ。と云うことで、これから皆さんの首を頂きますね。』と皆に聞こえるように言う。

そして、一本の六角形の棒を取り出すと、片端を抜く。抜いた先には刃がついている。その柄の先を抜いた鞘に装着する。更に、反対側も同じ様にする。それで一本の、両端に刃のある槍になる。


皆は何を言われているのかよく分からないようで、座ったまま笑っていたが、オレが槍を手に持つと、何か言い始める。面倒なので放おっておく。まず入口近くのテーブルの男たちの首に刃を入れて飛ばしていく。盗賊たちはその時に初めて何が起こっているのか理解したようだ。怒声をあげながら襲ってくる。剣を受ける事なく、躱しながら槍を回して首を刎ねていく。たまに狙いが紙数枚分ずれるのが分かる。まだまだ、だなあ。


強盗達の剣の振りはお粗末だ。ただ闇雲に剣を振るので、仲間を斬ったり、斬られたり、阿鼻叫喚だ。剣を受けると時間が掛るので、ひたすら躱し、両端の刃で首を落としていく。剣を首にしか刃を入れないからなのか、刃の打ちが良いのか、切れ味が落ちる事なく、首領一人残すのみとなるまで、首を飛ばし、または落としていく。


『首領さんおー人になってしまいましたね。ではそろそろ逝って下さいね。』と槍を振るう。首領の顔は怯えたままの表情で飛んでいく。


『人の首を切るのはなかなか難しいな・・・。祖父様が千人は切れと言われたのがよくわかる・・・』と一人呟き、首を振る。

槍の刃の血を布で丁寧に落とす。槍の刃を収め、短くして外套の中にしまう。


外套を見ると両肩から返り血で真っ赤になっている。

この血は落ちるかなと思いながら、面に着いた血を拭き取り、付け直す。遺体を踏まないよう気をつけ、扉から出ていく。


外に出ると、街長と酒場の男が寄って来る。

『だ、大丈夫なのか・・・』と街長が青褪めた顔で聞く。

『ええ、それ程強い方はいなかったので短い時間で終わる事が出来ました。人数は多いですが、人数頼みの方々でしたね。では料金を。』とオレ。


街長は一千万ギルの商符を五枚出して見せる。オレは一枚を貰うと、表を見て、裏を見て、一千万ギルの確認とワン家の印章を見て、懐にしまう。

『簡単でしたのでおまけしますね。酒場も血だらけだし、首も転がってますから。』とオレ。

『そうか・・・それは助かる・・・何せ、大金じゃからの。用意しておくようにと金額を言われた時は目が飛び出るかと思ったわ。』と街長が笑う。

『街長、何処の誰に頼みましたか?』

『終わったと報告しておきましょう。』とオレ。


酒場の若い男が酒場より戻ってくると、興奮して街長に何か話をしている。

その話を聞いて、街長がこちらに向かう。

『申し訳けない。確認をさせて頂いた。確かに、五十二人の遺体があった。・・・頼んだのは真夜中の黒猫と呼ばれている酒場の店主でな。この北方にあるダイナという街じゃ。』と街長が言う。


そうか、そんな組織があるなら会いに行ってみるか・・・外套の洗濯を頼み、似た外套を求め、直ぐに出かける。


ダイナの街は田畑に囲まれている。周囲を木の柵で囲われ、門に警備が置かれている。門から見る限り大きな街のようだ。


面を付けたオレが入れるのか。入れないと少々困った事になるな・・・などと考えながら、門を通ろうとする。

『おい、お前。何処に行く?』と配備の男に聞かれる。

『真夜中の黒猫という酒場へ』と答える。

『そ、そうか、行け。』と聞いた男が顔を背けて言う。

『どうも・・・』とオレは通って行く。黒猫の店主は街の顔利きらしい。店の詳しい場所は聞いているので真っ直ぐ向かう。


その場所は大通りから外れた、街の柵に近い通りにある、酒場が並んでいる所だ。まだ営業時間ではないからか、人気はない。十数軒ある店の中にその名前は無い。が、黒猫の絵が掲げられている店がある。ここか・・・


扉を押して見る。中に入れるようだ・・・扉を押して中に入る。店のテーブルに人が座っているのが分かる。店の中は男の前のテーブルに有る蝋燭の明かりだけだ

『失礼します。テンフォの街長の代理で参りました。依頼の件は取り下げるそうです。』とオレ。

『そう云う訳にはいかないと言ったら・・・』とやはり黒の面を付けた男が言う。

オレも、今は顔全てを覆う白い面だ。

『それは困りましたね。もう盗賊たちはこの世にいないのですが・・・。それでもですか?』

『誰がやった?』男が、オレを見て言う。

『勿論、私ですよ。斡旋すると云う方の顔を見にきたのですが・・・』と笑う。

『そう、そうテンフォの街には手を出さないで下さいね。あなたの首を取るのも簡単そうだ。』と。

『あんた、オレの首を取れるとでも・・・』と男が言う。

『腕の違いが分からないあなたとも思えませんが・・・』と言って、剣を一瞬で抜き、剣の刃を男の首に当てる。

『・・・凄いな。』と男が身を硬くしている。

『分かって貰えました?』とオレは笑って剣を鞘に収める。


男が身から力を抜いて息を吐く。

『ではテンフォの件、お願いしますね。』と言って、背を向け扉に向かう。

『分かった。なあ、あんた。今日はこの街に泊まるのか?』と男。

『そうですね・・・いいお店ありますか?』と聞く。

『ああ、右隣の店なら泊まれるし、飲めるぞ』

『飲めるより、飯の美味しい処はないですか?』

『なら、大通りのマーヤの店に行け。』

『どうも。』と手を振って店を出る。


マーヤの店は直ぐに分かった。店内は明るく活気に満ちている。一階は食事処で多くの席が並んでいる。二階が宿泊部屋のようだ。店に入ると店員の女性が直ぐに寄って来る。

『泊まりと食事は出来ますか?』とオレ。オレは面を目から顎までのに替えている。

『ー泊二食ね。湯処は必要ですか?』

『はい、使います。』


部屋に案内される。部屋は寝台と机が一つ。椅子はない。寝台に座れと云う事なのだろう。一人で使うには十分の広さで、簡素だが清潔だ。まず湯処に入り、汗と埃を落とし、湯に浸かる。夕食の時間迄にはまだ間が有るので一眠りする。


十分寝る事が出来た。食事処に降りていく。目立たない所に座り、夕食と酒を頼む。八歳なのに、酒は祖父に教えられた。男が勧めるだけあって食事は美味い。酒も店で薦められた名柄を飲む。これも美味しい。


『座っていいか。』と男がいう。

『横に座るならいいですよ。』とオレ。

前に座られると飯が美味しくない気がする。

『テンフォに行って来た。あんた凄いな。予想以上だ。』と男が言う。

オレは顔を上げて男の顔を見る。男は面を付けていない。俺も面を付けていない。男がオレの顔を見て驚く。


『あんた何歳だ?』驚いた顔で聞く。

『一応十二歳ですが・・・』念の為、年を上げて言っておく。

『十二歳で人の首を飛ばすのか?』と、オレの手元の酒を見る。

『酒も飲むのか?』

『家の家系は人殺し稼業の家系ですから。父も祖父も、八歳から殺しと酒をやってますよ。』とオレ。

『そうなのか・・・』


『少年、一つ、出来たら頼みたいが?』

『首を飛ばす事なら請負いますが・・・。それには飛ばされても仕方ない人でないと駄目ですよ。報酬は高いですが。』と食べながら答える。

『随分、自身満々だけど内容を聞かなくてよいのか・・・』

『現場で、不可能と思われる時は破棄しますけどね。でも私で無理なら、個人では難しいと思いますよ。』

『どっからそんな自信が来るんだ・・・』

『父と祖父には、我らより強いのはこの大陸にはいない、と言われてますから。』と笑う。


『一応説明すると、標的はここの領主だ。警護が五人いる。五人の中には毒使いもいるようだ。領主は何者かに操られている。すっかり人が変わってしまった。』男が言う。


『・・・あなたの事は何と呼べば良いですか?』とオレが聞く。

『オレの事は猫で良い。少年の事は虎で良いか?』

『猫さん、申し訳ないですが、殺る、殺らないの判断は当人を見てになります。警護の人間は排除しましょう。それで良ければ。』


『標的を判断するのは当然だ。しかし、護衛を排除してくれるのは何故だ?』と猫が聞く。

『猫さん、警護をするというのは、生き死にの覚悟を持っていると云う事ですから、必ず殺り合いになります。まあ、逃げれば追ったりしませんけど・・・』とオレが言って笑う。

『分かった・・・、しかしその笑い顔、十二歳とは思えない程怖いぞ・・・』と猫が苦笑いしている。

失礼な・・・折角の愛想笑いを。


『猫さん、何時行けます?』

『明日まで待ってくれ。急いで調べてくる。』と言って、慌てて席を立って店を出ていく。


ゆっくりと食事を続けながら酒を飲んでいる。祖父は酒が好きだ。好きというより趣味にしている。色々な酒を飲むのも゙好きだ。これを持っていってやりたいな、と思いながら飲む。

『食事はいかがですか。』と女性が聞いてくる。

『猫さんの知り合いみたいなので声を掛けさせて頂きました。店主のマーヤと申します。』と笑う。

オレが顔を見せて会釈しながら言う。

『ご丁寧に有難うございます。猫さんからは虎と呼ばれてます。』

店主のマーヤさんは驚いておれオレの顔を見てから笑う。

『お若いですのね。びっくり致しましたわ。同席しても良いかしら?』

『ええ、美しい方と飲むのも楽しいです・・・』


『姉さん、随分酔ってますね。そろそろお開きにしませんか?』とオレが、目を閉じたまま卓に肘をついているマーヤさんに言う。

『少年、ごめんなさいね。嫌なことがあって飲み過ぎたわ。また、金を寄越せって領主が言うのよ。腹が立つわ。もう店も続けられないのよ。借金だらけよ。』と泣いている。

『姉さん、大丈夫ですよ。きっと明日になれば、良い事が有りますから。』とオレが言う。

『そうね、そうよね。ねえ、少年一緒に寝てくれるかしら。』とマーヤさん。

『添い寝だけですよ。』

『当たり前でしょう。十もいかない子に何もしないわ。』

『あっ、バレてました?』

『今はいないけど、同じ年の子供がいたからね。』

『・・・』


裸の姉さんに抱かれたまま寝てしまったな。母が元気なら、あんな感じなんだろうな、と考えながら、マーヤさんが用意してくれた朝食を食べている。何故かマーヤさんはご機嫌だった。昨日の涙は泣き上戸所以かなと思う。


店内は朝食の時間も過ぎ、宿泊客も居なくなり閑散としている。オレは窓際の席で通りを行き交う人を見ている。人の往来が意外と多い街だな、などと思う。

『少年、酒は言われた所に送る手配をしておいたわ。』とマーヤさんが寄ってきて言う。

『遠い所から来てるのね。』

『内緒ですけど、今はナーランダで学んでいるんです。』と笑う。

『猫さんにも内緒ですよ。知られると面倒なので。』と片目を瞑って見せる。

『確かに。・・・猫さんはこの街では知られた方だけど、本職は能く分らないのよね。』


暫く、マーヤさんと他愛もない話をしていると、猫さんが男と連れ立ってこちらへ来るのが見える。目から下の面を付けて待つことにする。マーヤさんが面白そうにオレの顔を見ている。そして、猫さんの連れの男を見ると、急いで帳場方へ歩いていく。マーヤさんが会いたくない男か。


『虎殿、待たせた。今からでも良いかな?』猫さんが聞く。

『ええ、何時でも。』とオレ。

『料金は幾らになる?』と男が聞く。

おとこは上等な上着を羽織っている。内の衣類も高そうだ。

『一人一千万ギルかな。相手が弱ければ負けますよ。』

『・・・そうか。』と男。

『では行きましょうか。』とオレ。

『そんな簡単で、大丈夫か・・・』と猫さん。


この街の領主館入口にいる。先程の男が領主に会えるよう段取りを付けている。白い土壁が館の周りを囲んでいる。入口は木造で衛士が一人たっている。その入口から先程の男がでてくる。

『入れる・・・頼む。』と男が言う。

『首を落として良いのですね。』オレは男に念を入れる。

『ああ。』と男。

オレ等三人は衛士の脇を抜け、館へ入る。男が先導する。館は三階建てだ。玄関を入り、直ぐに扉がある。男が扉を開けて入っていく。そこは大広間になっており、奥に人が見える。


『魔草の匂いがします。吸い込まないほうが良いでしょう。』と二人に注意する。

二人は慌てて口と鼻を布で塞ぐ。オレの面は毒が入らない布が付けてある。


オレは二人を制すると、一人で奥へ進む。奥には長椅子に寝そべった男、その左脇に座る若い女がいる。女は薄く、短い着物で胸を殆ど露わにした格好で寝そべった男に品垂れ掛かっている。女の右手に煙管。そこから魔草の匂いがする。その吸口を寝そべった男に吸わせている。女は笑っている。

成る程、魔草で操っているのか・・・。男は大分やられている。顔が土気色だ。もう長くないな・・・


その反対側に男が一人。前に男が三人。男は全て、頭は剃っている。着ているものは緑の作務衣。なかなかに、腕が立ちそうだ。殺気で俺を睨む。


『何の用だ?弟の頼みだから、会ってやったんだ。早く言え。』

『領主様、魔草にて、もう長くないようでいらっしゃいます。苦しまずにお送りせよと。』

『もう長くないか・・・』と領主。


その言葉が終わらない内に、オレの無防備な様子を見た三人が剣を突いて来る。手馴れた、連携の取れた攻めだ。


前の男の抜いた剣を、オレは左からの剣を右に弾きその剣を真ん中の男の首を貫かせ、真ん中の男の剣を弾き、左の男の首を刺させる。右の男の剣を躱して、その男の首を左から飛ばす。真ん中の男の体を後ろの作務衣の男に突き飛ばし、後の男がそれを躱す間に、その男と、領主の首を飛ばす。


それを見ていた女は口から含み針を飛ばしてくる。それを外套の左裾で払い右手より首を落とす。その一連の動きは傍から見れば、ただ舞を舞っているように見えると思う。


念の為、首を落としていない二人の首も落としておく。それを見ていた猫さんが聞いてくる

『首を落とすのは難しかろうに・・・何故首なんだ?』

『首であれば、苦しまずに逝けますから。それに、屍人使いに使われないです。』

『屍人使いか・・・』


少し返り血を浴びている。困ったな。

オレは六千万ギルの商符を受け取ると、一人、マーヤさんの店に向かう。店の入口にマーヤさんが居る。

『只今戻りました。』とマーヤさんの顔を上目遣いで見る。

『お、お帰り・・・』と呆れた顔でオレをみる。

『湯処を使う?』と聞いてくれる。

『はい、有難うございます。是非。』


湯処で湯に浸かるのは気持ちが良い。ただ、マーヤさんも入ってきて、洗ってくれたのは有り難いが、何故だ。外套はマーヤさんが洗うのでまた来るように言われた。マーヤさんに感謝して、街を出ていく。テンフォに寄って学院に戻らないと。父や祖父への文をマーヤさんにお願いしている。父と祖父の感想はどうだろうかと考えながら道を進む。








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