ジオの夢 四十四話 トレドでの戦い
オレは今日も庭の吊り寝台だ。夢の事を考えている。
『こちらに漂っていたか・・・ここは順序が違う・・・仕方ない、一旦こちらを通してから戻すか・・・』と、聞こえていた気がする。
・・・まだ、死ぬ予定ではなかったか・・・誰か知らんが戻したのか・・・難儀な事だ・・・
『レイ様、ご気分は如何ですか?』と、ユリア様に聞かれる。
いつ来られたか気が付かなかった・・・
『ええ、すこぶる快調です。久々に長く寝ていたせいか、晴れ晴れとしております。』と笑う。
『次の戦には連れて行って貰えないようですが・・・』と、不満気のご様子。
・・・云い方を気をつけよう・・・
『今回は、電撃戦を想定しております。故に、アストリアスの一門と旅団を使います。で、レーベン殿とユリア様には夏をお願いしたい。』
『夏は来ますか?』
『夏は草原の民次第でしょう。草原の民が西方地域に拠点を置くような事になれば、夏も拠点を造りに動きます。その時に、制止出来るようにしておかねば、後に口実を与えたと、取られかねません。で、夏に実力を知られているお二方に居て頂きたいのです。』と。
『そう言うことであれば。』と、納得され、微笑んでいられる。
『レイ様はどうされるのですか?』
『ガイが来た時に私がいないと、がっかりするかもしれません。で、本隊にいるつもりです。』
『それは、お気をつけくださいね。』と言われる。
我らは、兵と共に進軍している。
『オーラン、進軍。』
の一報をうけ、我らも兵を進める。慣れない五十万の兵をトレド草原に進めるには、多くの時間を費やすだろう。我等は本隊三万、副指揮官にシュニッツァー殿、右翼にニ万、ジンツァー殿、左翼に二万、ミュンツァー殿を配置している。我等が先にトレド草原に布陣するのは確実だ。
トレド草原に入る。我らがトレド草原に兵を進めると、トレド殿とフーリンや他の方々が出迎えに来られている。
『レイ殿、此度は済まぬな。何せ人が少い。如何ともし難い。東より呼ぶわけにいかないからな。』
トレド殿には事前に打ち合わせはしてある。草原の民を入れない事。その代わりに、こちらで処理するからと。
『トレド殿、フーリン。約束した通り来ました。』とオレ。
『レイ、本当に大丈夫なのか?五十万だぞ。』と、フーリンが不安気にいう。
『フーリン。任せて下さい。草原の民や夏家相手でなければ、雑作も無いことです。』と。
フーリンは納得がいかないのか、不満気だ。
『フーリン、大丈夫だ。シレン殿も言っておられた。レイ殿は一騎当千らしい。』と笑われる。
『レイが兵を率いるのか?』と、更に不満気だ。
ヴァイスの兵が草原手前に集結し始める。まだ五十万の兵は展開していない。続々と続いてはいる。草原には侵入して来ない。こちらの準備は出来ている。中央におれとトレド殿が待つ。トレド殿は後衛、草原の民の侵入時に停めて頂く。右翼、左翼は敵の両側面を討てる位置にいる。相手方が草原に侵入しないかぎり、攻撃はしない。
ヴァイスの兵の右翼よりどよめきが上る。遠くに砂塵だ。黒い影の一団が、こちらに移動して来るのが見える。草原に遮るものは無い
『レイ殿。あれは?』とトレド殿が聞かれる。
『随分と大掛かりな一団のようですね。はて?』
と、黒い集団から離れた馬上の数人が、ヴァイスを避け、草原を此方に向かって走って来る。
オレもトレド殿をそれをじっと眺めている。その姿が大きくなる。黒い兵装だ。
・・・見たことのある黒い兵装だ・・・ガイか・・・助かる・・・
『レイ。来たぞ。』とガイが言う。
『ガイか。驚いたぞ。わざわざ済まないな。でどうする?』
『左翼と中央だな。移せるか?』
『ああ。わかった。』と、相手方の動きを見ながら、シュニッツァー殿の処へ向かう。
『どうされましたか?』とシュニッツァー殿。
『ガイが来ました。左翼を担当してくれるそうです。で、左翼を本体に、本体を右翼に。手はず通りにお願いたします。』
と、直ぐに合図が上る。
『ガイ、いいぞ。直ぐに動く。』
『そうか。では。合図だ。』と付き添いの者にガイが言う。
『ガイ。トレド殿だ。』とオレが紹介する。
『これは、ガイ。ロンバニア公の弟です。』と。
トレド殿が礼を言われる。
『トレド殿は気にすることはない。レイと一緒に戦いを合わせて見たかったからな。』
『ふーん?ギル兄は何も言わなかったのか?』とオレ。
『兄からトレド殿に伝言だ。草原の民が来たとしても、草原から出すな、と。出せば、討つ。と。左翼は残る。ワーレンとシュバルツバルトだ。あの二人も容赦は無いからな。』と。
『勿論、我らも兵を残す。』とオレ。
『一族の事は、レイと約束した。任せろ。』と、トレド殿。
『そうか期待している。でないと兄が動き出す。それはさせたくない。兄が本気になると誰も止められないからな。』とガイ。
ヴァイスの兵が動き出す。
『おい。大丈夫か?あんなノロノロと・・・戦を舐めてないか?』と、ガイ。
そして幻馬に乗る。俺も幻馬に乗る。
『さて、ガイ行くか?』と笑う。
『ああ、俺らの戦いを見せてやる。しっかりと見ろ。』と笑う。
オレ等は、一気に兵を進める。
『レイ、陣形は何を使う?』
『ああ、オレ等は涙滴形だ。』
『なんだ、一緒か・・・つまらん。』とガイ。
『仕方ないだろう。最強の形だからな。では、後ほどな。』と。
お互い兵の所へ戻る。
あっと言う間に激突する。しかし、激突は無い。ただ、草を切り開くように進んでいく。
・・・手応えがなさ過ぎる・・・これでは訓練にもならん・・・と言うより兵は戦いたくないのだろう・・・
オレ等はただ無人の如く本陣に進んで行く。相手方の右翼も左翼も、もう形を成していない。五十万など、見る影もない。
全てが逃げている。本陣が真っ先に逃げた。それを見た兵たちが逃げる。そして、それが全軍に伝わる。皆、生きるのに必死だ。
オレ等はガイと兵を合わせ、逃げ出した本陣を追う。オレ等は陣形を崩さない。崩せば味方にも損害が出る。進軍中に向かって来る豪の者もいるが、二、三合打ち合えば、大概の者は諦めて去っていく。が、性根の悪い者もいる。その様な者は首を落とす。
街道をヴァイスの領内に入ってきた。兵も馬も疲れる。進軍を止め、休憩に入る。この辺りは穀倉地帯だ。今は刈られた後だ。五十万の兵を集めるのには刈り取りが終わったあとでなければ無理だろう。
『レイ。思った程の反撃は無いな。オーランとはこの程度の人物なのか?』と、ガイが側に来て言う。
『ユリア様が言うには、期待するとがっかりしますよ。と言われてきたからな、こんなもんだろう・・・』
『それにしても・・・だめ過ぎるが・・・』と首を振る。
誰だろう・・・
不用心に寄って来る者々がいる。カールとモトロフ殿、ジールマン殿は知っている。他二人は知らない。
『ガイ、レイ。元気か?暫くだな。俺を覚えているか?』
『ああ。カール、久し振りだな。』とガイ。
『カール。父親等の事は悪るかったな。』とオレ。
『いいさ。自業自得だ。・・・親父の死に際はどんな様子だった?』
『戦の最中だったが、宴会で楽しそうだった。』
『そうか・・・親父らしいな。』とカール。
『旧交を温めるなら、後にして貰いたいが・・・』と、声が掛かる。
知らない老人だ。横柄な奴だ・・・
オレは二人に背を向けその場を離れようと、歩き出す。
『お待ちを、レイ様。何かお気に触りましたか?』とジールマン殿
『気に障るも何も、ここは戦場。旧交を温めるなと言われては・・・他にする事は斬り合いしか有りませんが・・・ジールマン殿を斬る訳には行きません。ですからここを離れます。』と。
『レイ様。・・・戦を止めて頂くわけには行きませぬか?』
『私にも、その気はありましたが、今は失せました。』
『そ、それは何故でございましょう?』
『ジールマン殿ならご存じでは有りませんか?宗家の当主は、本来、人では有りません。人殺しなのです。人を殺すのに躊躇は有りません。しかし、上に立つ者として優しく見せてはいます。ただ、相手に寄ります。それに値しない者は、一顧だにも致しません。』
『レイ。あれはオーロフ家の先代だ。』
『ガイ。そうか・・・で、どうして欲しい?』
『いや、兄が何故か気にしていたからな。一応、伝えておく。俺はどうでもいい。』
『そうか。・・・その時は頭を下げるさ。』
『宗家の御当主とお見受けいたします。私、カトーと申します。ご無礼を。』と、気をぶつけて来る。オレはやり過ごす。
『カトー殿と申されたか。何か?』
『何故・・・』とカトー殿が絶句される。
・・・そうか舐められていたか・・・
『馬鹿な事を・・・宗家の当主が、そなたの相手になるなどと思うのか・・・』と、ジールマン殿の声がカトー殿に向かう声が聞こえる。
『レイ様、大事ないとは思いますが。』と、ミュンツァー殿が笑いながら現れる。
『ミュンツァー殿。特には何も。』とオレも笑う。
『ミュンツァー殿はカトー殿をご存知ですか?』とオレは聞く。
『腕前であれば。』
『どの辺りでしょうか?』
『四候辺りかと・・・で、よければ私がお相手を。』と私を見られる。
『任せます。』
ミュンツァー殿が気を上げられて行く。
カトー殿は驚かれるが・・・
ジールマン殿が
『ミュンツァー、止めてくれ。』と、声を掛ける。
『これはお懐かしい。お元気でございましたか?』と、微笑まれる。
『止めろと言われましても・・・』とミュンツァー殿がオレを見られる。
仕方なく、オレは頷く。
『あの気を上げたのは誰だ?』とガイが聞く。
『あの方は、オレの影だ。』と笑う。
『そうか宗家と当主に付く影か。もう一人も来ているのか?』
『もう一人は草原に居る。』
『そうか・・・お前の処の者は気配を落とせるのか?』
『ああ、皆できるぞ。ユリア様も同じだ。』
『そうか、だから兄が、気に入っていたのか。うっかりしてたぞ。』と、顰めっ面だ。
オーロフ殿もカトー殿も困っているようだ。二人は今後どうするか考えておられるようだが・・・カールをちらっと見たのが目に入る・・・
『レイ。いいか?』とカール。
『ああ、いいぞ。』
『家の兄も、本当はやる気はないんだ。だから、この辺で止めてくれないか。勿論、金は言いなりで、出す。』
『カールがそう言うなら。しかし、カール、おかしな策を弄するな。今度策を弄したらのらんぞ。』
『オレが仕組んた事だと・・・』
『ああ。ガイ、幾らいる?』
『五十億だな。』
『じゃ。百億出せるならいいぞ。』
『分かった。』
カールとオーロフ殿、カトー殿それにモトロフ殿は帰っていかれた。モトロフ殿は流石にオーロフ殿達に怒っておられた。
ジールマン殿は帰りしなに、
『レイ様、ご機嫌お直しを。』と微笑まれる。
『ジールマン殿、宗家の当主とは意地の悪い者です。』と微笑む。
ジールマン殿は頷くと、帰っていかれた。
『レイ、オーロフ殿事はどうする?』とガイ。
『無かった事でいいだろう。あれは、カールに頼まれたのだろう。レイは大した事ないから、少し脅してくれ、すれば安く交渉できるから、とか言われて。その結果がとんでもない事になったとでも思ってくれれば、行く行くは少しは良い方向に行けばな。』とオレ。
『兄には話すぞ。』とガイ。
『勿論だ。隠し事はするな。後が怖いぞ。』
『だな・・・』
『ガイ、来てくれてよかった。済まなかった。』
『ああ。』
ガイも兵を引き連れて、戻っていった。オレは、ミュンツァー殿に兵を任せると、急ぎトレドへ戻る。
トレド草原では兵が睨み合っているとの連絡が入っている。
やはり、トレド殿だけでは無理か・・・
草原の民の十数万とロンバニアと宗家の連合の兵達が、先程の位置を逆にし、対峙している。
オレは本陣に到着すると、シュニッツァー殿等から詳細な報告を受ける。やはり、強硬な連中は何処にでもいる。
オレはロンバニアの二人、宗家の二人を連れ、対峙している先頭に向かう。見た処、一触触発の様な感じで対峙している。
『トレド殿はおられますか?』と聞く。
『トレドはおらん。ここの指揮はおれだ。』と出て来る。
ふん、弟か・・・相変わらず馬鹿だ・・・
俺を睨んでいる。
『弟、相変わらず馬鹿だな。兄が泣いているのがわからんのか?』
『お、お前・・・』
『俺はお前に忠告しただろう。戦は勝てると分かった戦しかするなと。お前、オレに勝てるのか?二百人相手でも負けないオレだ。お前はシレン殿より強いのか?』
弟の顔は真っ赤だ。下を見て我慢しているようだ。
『弟、仕方ない。俺が相手してやる。それで負けたら帰れ。』と。
『俺が勝ったらどうする?』と弟が言う。
『お前がったら十億やる。それでどうだ?』
『本当に十億くれるんだな。寄こさなけりば攻めるからな。』
『ああ。好きにしろ。ただし、木刀だ。オレはお前の兄に恨まれるのは嫌だからな。』




