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ジオの夢 四十話 クラウス家の依頼

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今、クラウス家に向かっている。忙しいことだ。傭兵時代でもここまで忙しい事は無かった。そろそろ、休みたいものだが・・・しかし、暫くごたごたが続きそうだ。


今回、レイ様から依頼されたのは、クラウス家の当主の警護だ。目立つ指揮はメドラーが、副官はバビアナが行い、私を含めた他の十三人を引率する。私は他の者に隠れている・・・兵装も一般用に、髪も金髪にした。 


クラウス領に入る。クラウス家は広大な領地に穀物の栽培で裕福だ。北は夏家の森が見え、東は大草原の地だ。しかし、深い渓谷が遮り、それぞれの直接の侵略はあり得ない。唯一、南西がギレン領と街道だ。


クラウスの領都に入る。街は石畳の道が続く。建物も平屋か二階建ての石造りだ。クラウス家の屋敷が遠くからでも見える。クラウス家の屋敷は四階建てで、周りを見下ろしている。私は、気配を探りながら、付いて行く。


クラウスの屋敷に着く。壁はない。いきなり建物となる。メドラーが入口を守護する者に何かを伝える。

クラウス家とは話がついているのか、特に何を言われる訳でも無く、通される。そして、四階の大広間に案内される。そこには十五人が使える寝台と卓、そして大きな卓も置かれている。


クラウス家の家人が呼びにくる。皆が、当主の部屋へと招かれる。わたしは一番後ろに付いていく。

当主の部屋には、当主と後見人のオットー殿が居られる。

我等は頭を下げ、オットー殿の話を聞く。

傭兵時代の駆け出しの頃にも、こんな経験もした・・・あの頃の事が思い出される・・・腕では負けぬのにと悔しい思いもした・・・


・・・嫌な気だ、人を探り、弱いところを抉るような・・・近づいてくる・・・気配は消している・・・

後ろの廊下より人が二人覗いている。

『スヴェン、はしたない真似をするな。』

『伯祖父殿、すみませぬ。ご当主のご期限伺いをと思い参上致しましたが。伯祖父様のお声が聞こえたものですからつい覗いてしまいました。』と返している。

その間にもう一人の、濃い緑の外套のフードを被った男が探るような殺気を放つ。下を向き気配を消している私への殺気は通り越して行く。メドラーとバビアナバビアナは顔が歪がむ。その他の者はそれ程気にしていないようだ。


二人は笑いながら去っていく。

一人はクラウス家の一族か・・・何とも言えぬ男だ・・・家督争いでもするつもりか・・・それより、濃緑の男だ・・・導師と同じ臭いがする・・・

『一族の者が申し訳けない。』と、オットー殿が言われる。

『いいえ、なんてことはありませぬが・・・』とメドラーが冷や汗を流している。 

それを不審そうにオットー殿が見ている。

・・・まだ、修行が足りないな・・・バビアナは・・・バビアナも 息が苦しそうだ・・・


静かに、気付かれぬよう後に近づく。二人の背にそれぞれ、左右の手を添えて、気を送り込む。悪気を飛ばす。そしてまた、退く。二人は落ち着いたようだ。顔にも朱が戻っている。 

『不調法を致しました。では、そのとおりに明日から。』とメドラーが答える。

オットー殿も平静に戻られる。

そして、皆で部屋に戻る。私はベット脇の椅子に座っている。メドラーもバビアナも私の傍らを通り目礼をし、過ぎていく。

要は、当主の警護だ。再近、トウシュノ周りで不審なことが続いている、との


私は他の者に構わず寝台に横になる。私が動くのは夜半だ。


夜が更けて行く。一部の者は寝ており、別の者は当主の警護についている。私は部屋を抜け出すと、屋上に移動する。屋上というか、屋根の上だ。少し外に向かって下っているが、広い事は広い。深夜であるのに屋上からの街の眺めは、なんとなく分かる。屋内の灯りが漏れているからだろう。

周囲の動きの気配を探る。殺気が感じられるような事はない。ただ屋敷の中程の階だけ、やけに厳重な気配が有るが・・・無駄な事だ・・・おそらく知られているに違いない・・・


もう少しすれば空が黒から紫に変わるだろう。そうなれば、今日の襲撃はない。

と、僅かだが、殺気がこちらに向かって移動して来る。レイ様が言われた嫌な気だ。人を人と思わぬ、人を殺す事も命に従う事としか考えぬ狂信者だ。


その気配は三つが並び、一つは少し後にある。私の気配を感じる事が出来ず、屋上に上がって来る。私を目で捉えて、驚く素振りもなく、私の手に得物が無いのを見ると、いきなり三人が囲み、短刀で刺してくる。それを刺さった振りをしながら、刃の付いた手甲で受け、逆に急所を刺していく。私は、刺された振りをして転がっている。三人は立っているが、もう動かない。見張りの一人がなにが起こったのか、見に寄って来る。一人残った男が私に近づき、蹴ろうとする。私は咄嗟に起き上がり手甲で男の首を切る。男は倒れ動かない。

さて・・・どうするか・・・死体を残して置くのも問題があるが・・・


と、二つの気配が建物の中に現われる。知った気配が一つ。待つとするか・・・

『やはり、来て下されておりましたか?』と、オットー殿が微笑まれる。

『レイ様が姿を隠して於くようにとの指示でございましたので。』

『成る程。しかし、よく今日の襲撃がお分かりになられましたな?』 

『人は事前に用意をするものです。我等が参った初日に様子を見に現れました。その時に安心したのでしょう。』と答え、オットー殿の反応を見る。

オットー殿が溜息を吐くのがわかる。


『此れは、フランシスと申します。下の階におります。お使いください。』

『それは助かります。早速、急ぎ、遺体の始末を。』と私が言う。

『畏まりました。』と答えてくれる。

『もう一人、何者かが様子を見にきたようでございます。私は隠れている事に致します。』と、急ぎ建物に入る。

あの気配の者は誰だ?殺気はないが?建物の中で様子を見ているか・・・

その様子を見に来た者の気配は直ぐに消える。


静かに部屋に戻る。さて、返り血を浴びたか・・・

『湯殿が出来ております。着替えをこちらに。』とバビアナが近くで囁く。 

『済まない。』と短く感謝する。


湯殿にいる。湯殿は良い。レイ様がいればもっと良い。これが終わったらお願いしてみよう・・・二人も一緒に入りたいだろう。喜んでくれるに違いない・・・

明日は、当主が街に出る日だな。おそらく、仕掛ける筈だ。そこで失敗すれば、無理はせず逃げるだろう・・・

ーーーーーーーーーーーー


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やれやれ、最初は心配した。挨拶の時は、あの位の腕であれば家でも何とかなる。役に立ってくれるだろうかと・・・しかし、紅蓮殿が居たとは気が付かなかった。不覚だ。危うく、恥を曝すところだ・・・

フランシスが来たか・・・

『オットー様。始末が終わりました。』とフランシス。

『そうか、すまんな。』

『あの女性は何者でございますか?まるで気配が読めませぬ。』

『あの方は宗家に派遣して頂いた方だ。コンスタンチンに当主の代理で来ておられた。ロンバニアのワーレンが紅蓮殿と言うておった・・・』

『あの紅蓮殿でございますか・・・』 

『何だ知っておるのか?』

『いえ、噂ですが、あの方は、若いのに特級の間でも有名な方でございます。一騎当千であろうと。』

『そうか、一騎当千か・・・』

『おそらく、全て知られたように思いますが、よろしいので?』

『仕方ない。このままでは全てが失くなるのは目に見えているしな。あれにエンリケがいるのでは、我らにはどうにもならん。そうであろう?』

『エンリケ殿は何を考えておられるのでしょうか?』 

『わからん。』

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

今は街にいる。私は当主の一行には居ない。

昨日、湯殿から出ると、メドラーも戻っていた。二人に明日の手順を話した。駕籠を内密に用意させる。人の多い所で来るかもしれない。付き添う家の者にも注意を怠るな。当主の脇から離れるな。襲って来た後は当主を籠に入れ姿を曝させるな。後は、当主の部屋に戻らず、下のフランシス殿の処ヘ行く事。当主は危篤だと触れ回らせろ。


街の商店の数は多い。多くの店は多くの人で繁盛している。当主は楽しそうだ。部屋で見た感じとは随分と違う気がする。レイ様より上の筈だが・・・レイ様が大人びて見えるのだろうか?当主から付かず離れずについて行く。やはり、一行は混雑している方へと動かされているようだ。


混雑がましている。付き人の一人が着衣の内に手を入れ、短刀を握るのが見える。私は傍らにより、短刀を握った手を叩き、押して転ばす。

・・・香の匂いだ。どこでかで嗅いだ気がするが・・・

バビアナが短刀に気付き、短刀を拾う。と、通りの脇から緑色の作務衣の男たち十人程が押し寄せて来る。付き人は逃げて行く。

・・・まあ、よい・・・


皆、短刀を翳している。周囲の人々もそれに驚き、右往左往する。お陰で警護が少し離れる。その隙をついて、何人かの者が当主に短刀を当てようとする。


当主の後に入り込んでいた私が、手刀でその短刀のいくつかを弾きながら、当主の膝の裏を押ししゃがませると、羽織物を頭から掛ける。そして、短剣を奪うと、首をねらって振る。

・・・これでは首は落とせん、鈍らではないか・・・剣は大事だな・・・と思いながら、自分の剣に持ち変える。


襲って来た者達一人一人の腕は大した事は無い。混乱が収まれば、バビアナ達でも制圧は容易だ。制圧が終了する。メドラーを見る。メドラーが駕篭を連れて来る。

『失礼を。』と言った後に、当主を籠に乗せる。皆に合図をして、急ぎ引き上げる。


『フランシス、どうなっておる?』と当主が唸っている。

我等は当主が叫んでいるのは解っていたが、放ったまま屋敷に戻り、駕籠ごとフランシス殿に渡した。

フランシス殿が駕籠の戸を開けて驚く。私を見るが、私は目を瞑る。フランシス殿か溜息を吐く。


『お嬢様、いやご当主、どうなされましたか?』

『うん。街に居た。混んでいた。付き添いの一人が短刀を落として、転んだ。すると、道の脇から例の緑の衣類を着た者達が短刀を振り翳して向かって来た。すると、しゃがまされ、頭から布を掛けられた。しばらくして、駕籠に乗せられ、ここに来た。そしたらお前、フランシスが居た。お前が黒幕か?』と当主。

『滅相もありませぬ。今、オットー様をお呼びしますので・・・』と慌てている。

『冗談だ。呼ぶ必要はない。で、この後、どうする?

』と当主が言われる。

『はい。当主が危篤とあれば、本当の目的に動き出すのではないかと。で、それを早めに潰そうとお考えになられたのがオットー様でございます。』

『本当の目的とは何だ?』と、当主が聞かれる。


『・・・』フランシス殿は言わない。

『ユリア様はご存知で後座いますか?』と当主が私に聞かれる。

当主を見る。声で気が付かれたか・・・

『おそらく、クラウス家を滅ぼしクラウス領の占領、更に、ギレン家も同様にと考えておるかと・・・』と私が答える。

フランシス殿が疑問の顔をなされる。

『さすがにスヴェン殿はそこまでお考えになってはいないかと・・・』と言われる。

『スヴェンがしたのか・・・』と当主殿が言われる。

フランシス殿様がしまったという顔をなさる。

せっかく名を出さずに話したのに・・・口にするとは・・・


『スヴェン殿が何を思い、何をしたいのか、そして何をしたのかは知りませぬ。ただ・・・あの緑の者たちがご当主を謀殺の手段に出たのは、その犯人をギレン家とし、ギレン家への侵攻をさせる為ではありませぬか?』

『短刀を握った付き人から香の匂いが致しました。あの香はコンスタンチンに来られた方々にも漂っておりました。あの付き人はギレンの出身でございましょう。』


『レイ様は、クラウス家とギレン家の仲違いを気にされておりました。故に、その種が蒔かれていないかを気にしろと。ギレン出身の付き人がクラウス家の当主を襲った。誰がさせた?ギレン家であろう・・・では討て・・・こうなります。』


『エンリケ殿はご当主を娘のように可愛がっておられたと聞きます。そのエンリケ殿がご当主を狙った者をどう思われ、どう行動されるか・・・』


『しかし、エンリケはスヴェンの元へ行ってしまいました。昔のように私を心配してくれてはいないのです・・・』

『こ当主、男とは嫉妬深く、猜疑心が強く、女々しく、それでいて気位いだけは高いのです。全ての男とは申しませんが、私の傭兵時代にはそんな男が多くいたものです。エンリケ殿の事情は知りませぬが、色々な感情が渦巻いてそんな行動を取られたのではありませぬか?』

フランシス殿が嫌な顔をなされるが・・・


『そうでしょうか・・・ではどうしたら良いでしょうか?』

『ご当主。自信をお持ちになり、きっぱりと叱責為さいませ。お前は当主の私を蔑ろにし、勝手な事をするのかと。色々文句が有るなら何故私に言わない。私とお前の仲ではないか。しかし、他との兼ね合いで駄目な物は駄目と私は言うかもしれぬがな。家を立てて行くには、私一人でも駄目だが、お前だけが居ても駄目なのだ。多くの才ある者が必要なのだ。その一人がフランシスだ。お前が一番となって私を助ける見本を示せ。と。』


『分かりました。その様に言って見ます。しかし、エンリケが行けば、ギレン家は引くか、逃げるのではないでしょうか?』

『ご当主。クラウス家にエンリケ殿、フランシス殿がおりますように、ギレン家にも人はおります。エンリケ殿にも相対できる、ウスラという方がいると聞いております。相手も知らずに戦などしてはなりませぬ。』


レイ殿なら何と言うのだろうか・・・

と、オットー殿が入って来られる。

『ユリア殿。危惧が当たるようです。スヴェンがエンリケと共に兵を出すようです。ギレン家を討つと息巻いております。愚かな者達で御座います。』と言われる。

『緑の衣装の者達も一緒でございますか?』と私が聞く。

オットー殿が首を横に振られ、溜息を吐かれる。

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