ジオの夢 二十八話 大炎
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『コウキ。殺れ。』と、馬に乗った者が言う。
『はっ。』とコウキと呼ばれた者が返事をし、手を挙げる。
すると、後ろより弓隊が二人の前に出て並ぶと、矢を番える。
あらあら、矢で我々を゙討てるつもりかしら・・・
シュニッツァー殿を見ると、頷かれる。レーベン殿もシュニッツァー殿も中々に察しがが良い。坊の配下には感心させられる。
と、弓を始末せねば、被害が出るかもしれぬ・・・
弓を構える者共に礫を投じる。弓を構える者共との距離は近い。すべての者の顔に礫が当たる。弓を持っていた者達は顔を抑えて蹲る。直ぐに、馬車より弓隊の傍らに移動し、弓を折る。顔を押さえている人をそのままに、その後ろに立つ青二才の者を鞘のままの長剣にて、殴り倒す。馬の者が逃げようとするが、馬の扱いは不慣れなようで、馬に振り落とされる。
馬に振り落とされた者と、青二才を縛り上げる。
『メドラー、良い捕虜が出来ました。その先の者達は捨て置いて良いですよ。』とわたし。
『シンシア様、解いてやりますか。』とメドラー。
『メドラーは優しいですね。でも放って起きましょう。』
『はい。』
で、隊列を立て直し、進み出す。が、道の脇の斜面上から黒装束で、黒い布で顔を覆った男達数人が隊列を組んで向かってくる。先頭にいるメドラーを狙う。剣は鞘に収まったままだ。私も先頭の手練れに向かう。この男は中々の腕前だ。やっとまともな腕の男だ・・・縛り上げた男二人の奪還に現れたのだろう・・・
鞘のままの長剣を一閃、ニ閃し、手練れの男を仲間から遠ざけていく。メドラーの加勢にバルボアとバビアナ他も加わる。手練れの男は状況を不利とみたのか、手勢に合図を送り、自らも斜面上に動く。すると、男達も直ぐに道の脇、斜面上の手練れの所に移動する。判断も良い、が、手練れ一人では無理なのは理解したろう・・・諦めるだろうと思うが・・・
シュニッツァー殿を見ると、御者の振りをして小さくなっている。その姿を見て思わず笑ってしまった。シュニッツァー殿もにこにこされている。
二つの強い気配が近づいて来るのが分かる。シュニッツァー殿も真面目な顔に戻られている。
先程の手練れの男をみる。そちらに、黒髪を後で束ねた若い男と白髪を後で束ねた母と同年に見える男がいる。
『御婦人。その者達が何をしたかは、わかりませんが・・・謝れと言われれば、頭を地に付けて謝りましょう。金を払えと言われるなら、いくらでもお支払い致しましょう。その二人をお離しいただけませんか?』と、若い男が言う。
『青年。私事であればそうしてあげたい。この道に居るという事は、我らがどの家の者かお分かりでありましょう。その我等がこの立て札を見過ごす訳には行きませぬ。ましてや、我らに弓を向けたとあれば、この者どもも、この先どのような事態になるかは解って、しておりましょう。そして我等にあっては、この事の始末を我等が決めて良い事ではりません。わが当主がお決めになる事でありますれば、この二人を連れて帰るのは我らの責務なのです。』と、青年をみる。
青年は辛そうだ。
『確かに、御婦人の言われることは正しい。それが筋でもあります。しかし、その者の一人は私の弟なのです。理由はどうあれ、むざむざと目の前から弟を連れ去られたとあっては、わが家の者、延いては我等に従う民はどう思うでしょうか・・・また、宗家のご当主は・・・この者達を見れば、直ちに首を刎ねられるでしょう。それが分かっていて、何もしないわけにはいきませぬ。こ苦渋をお察しくだされ。』と言われる。
捕まっている男たちは、何も理解していないようだ。
ただただ、夏家の長だ。無礼だの、離せだの喚いている。
『では、力付くで取り返されたらよろしいのでは?』と私が言う。
『しかし・・』
『力付くで。取り返されたのでは、わが当主も納得して頂けますし、力付くでも取り返せなければ、そちらの民も仕方ないと思うのではありませぬか?』と。
『仕方御座いません。その様にさせて頂こうと思います。お詫びは後ほどに。』と、鞘を抜き剣を構えられる。
それに倣い、老人と先程の手練れも構える。
メドラーではまだ足りぬか・・・さて、どういたしましょうかとシュニッツァー殿を見る・・・
『何か楽しそうでございますね。長。仲間外れは無いでしょう。出来れば私も加えて頂きたいものです。』と笑いながらタリオン殿が現われる。
これは助かる。タリオン殿であれば、手練れを押えられるだろう・・・
『メドラー殿、すまぬが替わって頂いてもよろしいか?』とタリオン殿。
メドラーは私を見る。私は頷く。
『かしこまりました。』
『楽しみをすみませんな。』と長剣を構えられると、
『長に母殿。私は黒い男を頂きましょう。』と。
『母殿は如何なされる?』とシュニッツァー殿。
『では、お言葉に甘えまして、青年を頂きましょう。大剣の方は久々で有りますれば・・・暫くはお相手出来ると思いますが、後は良しなに。』と笑う。
『まあ、私も同じ様なものですからな。』と笑われる。
それを青年が不思議そうに見ている。
『バビアナ。済みませぬが、私の大剣を。』
『はっ。此処に。』と私の大剣を渡してくれる。
私は大剣を構え、気を入れていく。
『ま、魔女殿か・・・』と老人が言われる。
『ほう、私の二つ名をご存知でありましたか・・・何処かでお会い致しましたか?』と嗤う。
『昔でございますが、遠目にて、ご拝見を。』と答えられる。
確かに、昔ならそんな時も有っただろう・・・
『大炎殿、これは簡単には行きませんぞ。』と老人が言われる。
『シンシア様。名が知れてしまいましたか?』とシュニッツァー殿が言われる。
『シュニッツァー殿、あなたも隠して置いては失礼でありませぬか?』と笑う。
『神槍シュニッツァー殿と言われるか・・・』と老人が驚く。
『神槍はお止め下さい。我が当主に比べれば赤子の様な技でありますれば・・・』と言われる。
確かに坊の方が上であろうが、赤子はないな・・・
流石に、シュニッツァー殿までいるとなれば、大炎と言われた方一人では奪還は無理と、老人と青年が話しているようだが・・・
『さて、ご用意は宜しいか』とシュニッツァー殿が問われる。
シュニッツァー殿はやる気満々であるようだ・・・
『よろしゅうはないが・・・』と、後ろから声が掛かる。
レーベン殿が慌てて来たようだ。
レーベン殿は大炎殿を見て、目礼をされる。
『大炎殿はレイ様の大切なお知り合いなのです。自分の知らない処で争ったなどと聞かれたら、大層悲しまれます。』とレーベン殿が言われる。
『確かに、しかしなあ、あの様な強者とやれる機会は早々にないからな・・・シンシア様もやりたいでしょう?』とシュニッツァー殿が誘うが・・・
『やりたいのは、やまやまですが、坊が何と言われるか・・・』
『取り敢えず、レイ様を起こします。』とレーベン殿
『レイ様。起きておられますか。起きていただけませぬか。レイ様?』
『・・・そのお声は、レーベン殿。何か有りましたか?』
『はい。少々面倒な事になっております。』
『分かりました。少しお待ちを。』と坊の声がする。
馬車の御簾を開け、坊が出て来る。寝ぼけた様な顔をされていたが、前に縛られている一人の顔を見るなり目が釣り上がる。坊のそんな顔を見るのは初めてだ・・・
坊は剣を握り、馬車から降りて来る。坊の目に立て札が止まる。更に、坊の怒気が上がる。流石にメドラーも落ち着かない。顔を伏せている。
『天円!今ここで首を落としてやる。周りの者にあの世で詫びろ。周りの者達も一緒に送ってやる。寂しくないようにな。』と、黒の長剣を抜かれる。
誰も坊を止めず、私を見ている・・・レーベン殿が起こしたであろうに・・・
『坊、怒りはご尤もです。しかし、お知り合いがお見えですよ。その前では、流石に悲しまれます。領内に連れて参り、身代金を要求するのです、で身代金が届くまで折檻したらよろしかろうと思いますが、折檻は私がいたしましょう。死んだ方が良かったと思わせるくらい、いたしますから。今は手をお止め下さい。それに領内の方々も、坊が人の命を取るより、身代金で美味しい物でも馳走して貰ったほうが喜ぶのではないでしょうか?』と、必死に話をする。
『母様。母様にその様な事をして頂いては心苦しゅうございます。もう、大丈夫でございます。起きぬけで、感情が立ってしまいましたが、今は収まりました。』と笑って振り返られる。
『母様、身代金は良うございますね。母様、顔が怖うございますぞ。』と更に笑われる。
『坊が怒られるのを初めて見ましたぞ。』と。
『子供が怒るのです。大した事ではありませぬ。お気になさらず。』と斜面を見上げられる。
『大炎殿。ご無沙汰致しておりました。何故にその様な所に?此方へお越し下さい。』
『レイ殿、何せそちらは宗家の地でございますから、中々に怖ろしい方々おられる故・・・』と笑われる。
『まあ、そう仰っしゃらず。』と坊も笑っておられる。
『今回の件でありますが、どの様に解決致したらよろしかろう・・・何せ、大炎殿は市中の方でありましょう・・・解決致そうにも、夏には話せる相手がおりませぬが・・・』と坊が、青年を見詰めている。
坊に見詰められていた青年が溜め息をつくと、
『テイザン居るか?』と呼ばれる。
『此処に。』
『天円は宗家の領地を侵し、宗家の者に斬られた。よって、夏朝はオレが継ぐ。良いか?』と青年が言われる。
『畏まりました。その様に。』と、言われた者が後ろに下がる。
『レイ殿、これで良いか?』
『はい。十分でございます。では、この方々をお引渡しいたしますが、引取代金は如何ほど頂けるのでございましょうか?』と真面目に聞かれる。
まあ三十億もあれば十分だろうが・・・
『テイザン。今いくらある?』
『百億は大丈夫でございます。』
『うん・・・では八十臆で手を打って頂ければ有り難い。』
『畏まりました。金額は良うございます。それと、かのお二方は、領内から出さぬように。もし出された事が分かれば、次は生かしておきませぬが、よろしいですな。』
『分かった。』
『さすが、大炎殿。太っ腹でございます。では一つ土産を差し上げましょう。』と坊。
『何かな・・・』
『草原の方々が戦の準備に入られているようでございます。おそらくは乾坤一擲に近い覚悟ではと考えます。』と。
こちらにお教えするのか・・・シュニッツァー殿もレーベン殿も緊張されているように見受けるが・・・
『レイ殿。それを教えて下さるのか?』と大炎殿。
『大炎殿。私は草原の民、特にアイリーン様には良くして頂いているのです。此度はアイリーン様も従軍されるでしょう。出来れば争って頂きたくはないのです。』と坊。
『レイ殿は、女性からの人気は絶大だからな。』と大炎殿が笑う。
『はい、有難いことです。』と坊も笑っている。
『で、戦の前に話し合いを持たれて欲しいのです。』
『私は構わぬが、先方はうんと言うだろうか?』
『大炎殿が言われるのであれば、嫌とは言わないのではないでしょうか。良ければ、私も文を認めましょう。で、私の八十億にて、和解もしくは不戦の約束をして頂けませぬか?』
坊はなんて事を言い出される・・・シュニッツァー殿もレーベン殿も流石に驚かれている。大炎殿も私を知っている老人も声が出ない。
『本当にそれで良いのか?レイ殿にはなんの得も無いだろうに・・・』と暫くして、大炎殿が言われる。
『私は八歳の頃より、腕を磨く為に人を殺めて参りました。相手に殺られる理由が在りましたとしても、人として良い事ではありませぬ。故に、私が止められるかもしれない戦であれば、止めたいと思うのです。戦で人が亡くなるのは可哀想にございます。』と坊が言われる。
本当に坊は辛そうだ・・・
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