ジオ 第ニ部三話 スーフェンからチコへ
朝だ。陽が昇る。スーヘェンの街は地が広がり朝が早い。ウェーブは広間に居る。いつも居たハーもホーも居ない。これからどうなるか少々気になって考えている。
・・・二人になって五日になる。この広い敷地で二人は淋しい。それに坊はどうしたのだろう。ハー殿もホー殿も口を濁して何も言われなかった。坊は、こちらには何時来るのだろう・・・
敷地の中、玄関辺りが騒がしくなる。居間の扉が開く。
『ウェーブか、早起きだな。元気か?べレゲは居るか?』
と、ジオの一行が広間に入って来る。
『坊か・・・どうしていた・・・心配してたぞ。べレゲもそろそろ下りてくると思う・・・』とウェーブは驚き、ジオをじっと見ている。
まるで、考えていた事が伝わり、ジオか表れたような気がした。
『そうか。ハーとホーはもう教える事は無いからと言っていたぞ。凄いな。後でウェーブの打った白銀鋼の剣を見せてくれ。』とジオ。
べレゲが慌ただしく下りて来る。それを機に、ウェーブが広間を出て行く。
『坊か久しぶりだな。元気か?何かあったか?』と、ベレゲが椅子に座り、ジオに話しかける。
『ああ。色々、ばたばたしてた。』とジオ。
『ゼルトが一旦戻った後に、教会から使者は来たか?』と更に話す。
『ハー殿には来たな。アクトアスに戻っと言ったが・・・悪かったか?』とべレゲ。
『そうか。いや、構わん。』とジオ。
続けて、
『羊乳の美味しいのは無いのか?』
『あるぞ。新しい製品だ。飲むか?』
『ああ、飲んでみたい。』
『これだ・・・どうだ?』とベレゲ。
『おお、酸っぱくて旨いな。』
『皆も飲んでみろ。』
皆も、恐る恐る一口飲んでから飲み干す。
『なあ、、坊。空いてる所を借りたいと云う者が多数居るんだが、何とかならんか?』
『ああ、いいぞ。ベレゲにまかせる。しかし、家賃は最初の月から貰うぞ。』とジオが笑う。
『ああ、勿論だ。』とベレゲも笑う。
『細い事はチェンバレンと話してくれ。』
『チェンバレン、頼んでいいか?』
『勿論でございます。』とチェンバレン。
『坊、持ってきたぞ。』とウェーブが打った刀八本を持って入って来る。
『おっ、打ったな。』とジオ。
ジオは一太刀、一太刀、ゆっくりと見る。レディティアもサラもハーバーも順次見ている。
『段々良くなってるな。この二つは特に良いぞ。』と長剣と短剣を指す。
『ウェーブ、良ければこの短剣をくれ。いや、売ってくれ。』とジオ。
『授業料として渡すのは構わないが・・・どうするつもりだ。』と。
『ああ、ある者への送り物にするんだ。』とジオがウェーブをみる。
その言葉にウェーブは嬉しそうだ。
スーフェンの街は広い。白いテントが点在している。そして、昔は教会領と呼ばれた一角に石造りの建物が密集している。
その一角の広場に、ジオ、レディティア、べロニカ、サラ、ハーバーの五人が居る。
『ラグルドの奴は教会領の教皇塔にいるのか・・・馬鹿な奴だ。自分から災いを招きやがって・・・』とジオが教皇塔の前の、その広場から見上げながら言う。
教皇塔だけ飛び出て高い。その教皇塔にはチコに以前渦巻いていた同じ想いが取り巻いている。チコと違うのは、その想いの主達が居ない事だ。
・・・消すのは簡単だ・・・
とジオは思う。
『ジオ、教皇塔に住むのに不都合はあるのかしら?』レディティアが聞く。
『ああ、あそこはラングルトンの居場所だったからな。何が仕掛けてあるか、余程魔力が強うないとわからんだろう。』
『ジオなら分かるの?』
『ああ、大母でも分かるな。』
『ジオ、私に振らないでね。』とベロニカが言う。
『ああ、分かるかと聞かれたから答えただけじゃ。オレが始末する。』と、ジオが苦笑いだ。
ジオ達一行はレディティアを先頭に教皇塔の門に向かう。ジオはサラに抱かれている。
『ラグルドはいるでしょう。案内して。ノルデノルンのレディティアが来たわ。』と門の守衛に言う。
守衛は一瞬、躊躇したが、一行を通して、昇降機に案内する。
ジオ一行を乗せた昇降機は最上階に着く。 その部屋は大きな一部屋になっている。謁見の間として使われていた。この部屋は真ん中から六段の階段が在る向こう側が全体に高くなっており、登った処の真中に、豪華な椅子が置いてある。その椅子の後ろには御簾がかかっている。ジオ一行は、ジオの合図でその御簾をくぐる。
その一番奥に寝台が置いてあり、誰か寝ている。
・・・よくこんな だだっ広い部屋に寝ていられるな。余計に具合か悪くなりそうだ・・・
とジオは思う。
ジオはサラに下ろしてもらうと、寝台に近づく。
『ラグルド、具合が悪そうだな。オレの薬で他の者は治るが、ラグルドお前は完全には治らんぞ。何故此処に居る?』とジオ。
『ジオ殿か、わざわざ来たのか?此処に居れば他の者には移らんからな。好きで寝ている訳ではない。』とラグルド。
『だからフェルマンに任せろと言ったのだ。』
『・・・・』
ラグルドは何か言い掛けたが止めた。
『メイレンはどうした?』
『メイレンは消えた。』
『やった剣はどうした?』
『多分、メイレンが持っていった、と思う。』
『そうか・・・これをやる。今度は離すな。石に触れろ。』とジオ。
『・・・』
石に触れたラグルドが寝台から起き上がる
『気が晴れた・・・治ったのか?』とラグルド。
『ああ、病では無いからな。恨み、嫉み、憎しみそんな負の想いを浄化してやれば治る。』
『恨みか・・・』
『ああ、石を離すな。石が守ってくれる。次は無いぞ。』
『感謝する。メイレンはどうなる?』
『メイレンはもう居ない。今居るのは器だ。メイレンに固執するな。後継者は別を探せ。いいな。』
『それと、教皇塔は封印する。壊すわけにはいかんからな。』
『しかし・・・』
『不満か、ならフェルマンに相談しろ。此処はラングルトンの仕掛けがある。フェルマンなら消せる。オレ等が居るうちに退去はしろ。オレが居なくなればまた発動するぞ。後はしらん。』とジオ。
『わっ、わかった。・・・ラ、ラングルトンは消えていないのか?』
『ラングルトンは消えた。それは間違いない。メイレンを連れていったのは別の奴だ。安心しろ。』
ジオの一行は屋敷に戻って来た。
『ジオ、ラングルトンの仕掛けは消さなかったの?』とベロニカが聞く。
『いや、消してきたぞ。しかし、ラグルドは何をしでかすか分からんから、オレが細工をして来た。』
『相変わらず、人が悪いわね。』とジバが微笑む。
『ラグルドは、喉元過ぎれば熱さを忘れる、と云う奴だからな。ラグルドの為と言うより、周りに居る者たちの為かな・・・』とジオもニヤリとする。
『で、この後はどうする?』とハーバー。
『何だハーバー。退屈そうだな。暴れたいのか?』とジオが笑う。
『いや・・・そう云う訳では無いが・・・』
『次はチコに行く。取り立てだ。まだ暴れては駄目ぞ。いいな。』
『ふん、バカを言うな。』とハーバー。
『チェンバレン、細いところは済んだか?』
『はい、明日には終わる予定でございます。』とチェンバレン。
『分かった。』
『では明後日になったら行こう。 面白くなりそうだ。 フェルマンの奴、勝手なことをしおって。とっちめてやるわ。
』
とジオが笑う。
『ジオ、顔が悪いわ。昔はそんな顔しなかったわ。何処で覚えたのかしら?』レディティアがジオを睨む。
『母者、そんな悪い顔をしとったか?』
『その悪い顔はハーバーを虐める時と同じ顔ね。』とべロニカも呆れる。
『うん、うん。』とハーバーが嬉しそうだ。
『ちっ、オレは母者似のいい男のはずだぞ。』とジオが呟く。
『ジオ。以前に、ラグルドに渡した剣は放っておいてもいいの。』とべロニカ。
『 大丈夫だ。 』
『大母。オレがオレの知らんやつに使わせると思うか。オレはそれ程、お人好しではないぞ。与えたやつから 剣が離れれば石が剣を消す。そして、石も自壊する。』とジオがベロニカに向かって笑う。
『確かに。』とベロニカも笑って返す。
『皆も、気をつけろ。剣が一定の距離から離れると消えるぞ。常に、手元に置いておけ。』とジオ。
皆が自分の剣を確認して、安堵している。それを見ながらジオがほくそ笑んでいる。
『ジオ様、店舗は全て埋まりそうですが、よろしいので。』と、途中から広間に入って来たチェンバレンがジオに聞く。
『 一つあればそれで良い。 あとは皆に貸してやろう。管理はベレゲに任せてな。』とジオ。
『では、その様に。』
チコの街には屋敷がない。テントで入るわけにはいかない。故に、一旦アロンソの屋敷に入り、馬車に乗り換える。アロンソはジントの仕切りだ。だから今回は挨拶は、又にしようと決めて、直ぐに馬車を出す。
一行はアランとジントが加わって十人となっている。馬車は四頭引きの大型を使う。チコに通じる道の目立たない辺りで、馬車を地面に降ろす。
ジオの一行はチコの街に入る。ジオにとっては久しぶりだ。チコの街は美しい。中心から放射状に伸びている道は便利だ。また低く植えられた道脇の木々も美しい。
・・・ここはコメが上手い。ゼルトもここのコメは気に入っていたな。この街にはフェルマンが居る。母者一行が来た事は気が付いているだろう。取り敢えず、世話になっているコメ屋に挨拶に行こう。
『ジバ、米屋の商売は上手くいっているのか?』とジオ。
『ジオ、今では米屋なんて言ったら怒られるわ。レイトン商会と言うのよ。チコでは一番の商会になったわ。』とジバ。
『そうか、名前も知らなんだからな・・・で、オレ等は関係あるのか?』
『何言ってるの。出資してる共同経営者でしょう。』とジバが呆れている。
『ふ~ん、知らんうちに金持ちじゃな・・・』
『すこし、休ませて貰うとするか・・・その内に、向いが来るだろう。』と、ジオ。
この街にはフェルマンがいる。母者や大母が来ているのは気がついているだろう。
『ブラーエ、忙しいか?』とフェルマンがブラーエの執務室に入って来る。
『兄さん、珍しいな。この部屋にはほとんど来ないのに。』と笑う。
『ああ、領主の執務室だからな。儂には用は無いからな。』と、笑う。
『兄さんらしいか・・・』と、ブラーエは手を休めてフェルマンを見る。
『レディティア殿の一行が来た。今はレイトン家に入った。』とブラーエの顔を見る。
『レディティア殿か・・・確か、兄さんは籠もっていると言ってなかったか?』
『ああ、そうだったはずだが・・・一人会ったことのない人物が一緒だ。』
『そうか・・・その人が治したのかな・・・坊は居ないのか?』
『おそらく、坊は居ない。居ても分からんがな・・・』
『では、挨拶にいった方が良いだろうか?それとも迎えのの使者が良いだろうか?』とブラーエ。
『ああ、迎えがいいだろう。その一人が誰か分らないのではな・・・』とフェルマン。
チコ家の正式な使者の迎えがレイトン商会に来た。正式な使者である為、ジオ一行はその使者と共にチコ家に向う。一行はレディティア、ベロニカ、サラ、ハーバー、チェンバレンそしてジオだ。正式な招待である為、人員を絞る。
一行は部屋に通され、席に着き、チコ家を待つ。部屋は豪勢だ。装飾も華美であるが品がある。直ぐに、チコ家の二人が入って来る。
『レディティア殿、先般は・・・』と、ブラーエの挨拶が始まる。ジオは卓の席には付かず、後の席にチェンバレンと共に控えている。
紹介が始まると、ブラーエとフェルマンはベロニカとハーバーの立場に驚く。ベロニカはアクトの領主であり、ガンダルフ領主の姉である。また、ハーバーはトツク領主の弟である。驚かない訳が無い。その為かフェルマンはジオに気が付かない。
フェルマンは、ガンダルフのべロニカとトツクのハーバーが教会に対して怒りを感じているのは当然だし、教会に協力していたチコに対しても何らの意図があって来たのではと気にしている。チコをその様な状況にしたのは自分んだから、ブラーエの為に何としてでも穏便にとも考えているが・・・
ブラーエは兄のフェルマンが何も言わないので、ジオではないかと一瞬浮かんだが、特に気にしてはいない。
『レディティア殿、本日はべロニカ様とハーバー殿を伴っていらした理由をお伺いしたいが。』とフェルマンがブラーエより先に話し出す。
『フェルマン殿、そちらの件では御座いません。』とレディティアが微笑む。
『ジオ、隠れてないで話しなさい。失礼よ。』とレディティア。
『ちっ、フェルマン、惚けたか。オレが分からぬのか。お陰で母者に怒られたではないか。母者がオレが居ないのにわざわざ出向いて来る理由なかろう。馬鹿が。』とジオ。
『ジオ様、些か言葉が過ぎませぬか?』とチェンバレン。
『チェンバレン、いいんだ。あいつ等はオレに貸しが有るくせに、返せないからな。』
『ジオ、これ以上は駄目よ。母が笑われるわ。』とレディティアがジオを手招きする。
『そうか・・・母者が、笑われるのは困るぞ。』と、ジオがレディティアに抱かれながら言う。
フェルマンは、その会話を聞いて呆気に取られていたが、気を取り直す。
『ジオ殿、お元気であったか。それは良かった。』
『ああ、何とかな。フェルマン。心配するな。べロニカ様はオレの祖母じゃ。今は、ガンダルフとは関係無く、暇だからオレと一緒にいる。ハーバー殿はトツクにいるのが嫌で、オレと母者の用心棒をしてくれている。安心したか?』
『お二方は家を代表されておらぬのか?』とフェルマン。
『ガンダルフは弟が致しております故、それに今はジオにアクトの領主をやらされております。暇ではありませぬが、口の悪い孫が心配でございまして。』とべロニカが笑う。
ハーバーも、
『はい、嫌ではありませぬが、トツクのことは預かり知らぬ事でございますれば、以前お会いした時と立場はかわりませぬ。お気になさらず。』と応える。
『ジオ殿はお会いせぬうちにお口が一層回られるようになられたな。』とブラーエが笑う。
『ああ、戻るのに苦労したからな。ブラーエも苦労するな。兄が至らないと。』とジオが笑い掛ける。
『ジオ殿、確かにジオ殿から見たら至らない兄かもしれませぬが・・・何かありましたか?』
『ああ、何故うちの薬剤を教えた?フェルマン、お前なら直してやれただろう。なのに、それで放っとくつもりだったのか?』
『嫌、時間が欲しかったのだ。だから、頼むようにと・・・直ぐに行くつもりであったが・・・・』とフェルマンが天井を向く。
『なあ、フェルマン。何を感じた?お前が慄れるとは何だ?』とジオが睨む。
・・・成る程、だからあれ程、フェルマン殿を苛めたのか、相変わらずジオは怖い・・・
とべロニカは思う。
『ジオは、それが何か想像はしているの?』とべロニカ。
『ああ、大母。しかし想像ではな。確証がないとな。』とジオ。
『あれはアレン様の気配で在った・・・』
『そうか、やはりな。』とジオ。
・・・ラングルトンにアレン。千年の昔の人が生きているなど本来なれば夢の戯言のはずが・・・
と、べロニカは思う。そして、ジオを抱いているレディティアを見る。
・・・レディにとってはどうでも良いことなのか、ジオが元気であれば。私もそうなりたいが・・・
ベロニカが思いに沈む。
『坊、アレンは死んだと言っておりませんでしたか?』とサラが聞く。
『ああ、本来は死んだ。しかしラングルトンがアレンの魂の一部を保存したのだろうな。故に、アレンで有って、アレンで無い物だな。』
『イランジャ様はどうなのでしょうか?』
『それが出来たのはラングルトンだけだから、可能性は低いとしか言えんな。』
『フェルマン、アルタミラは元気か?』とジオ。
『ああ、今は他に興味を持たせているが・・・』と気を取り直したフェルマンが答える。
『そうか。アルタミラを取られるな。取られれば戻せんぞ。』
『ああ、分かった・・・』とフェルマンが答える。
『ではオレ達は行くが、呼んだ用件は済んだか?ブラーエ?』
『ジオ殿が居られないのに、どの様な用事であろうか気になっただけだから、特には無かった。済まないな。』とブラーエが言う。
『分かった。何かあればレイトン家に言ってくれ。それで伝わるだるだろ。』
『そうだ。フェルマン、これは貸しだ。忘れるな。』とジオ。
レディティアが溜息を吐く。
・・・ジオを睨みたいが・・・
ジオを抱いている。




