表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/87

第四十四話 ジオの眠り

ーーーーーー

昨日はテラスにテントを設置して寝た。坊と姉様は馬車から出て来なかった。

テントを仕舞い、朝食の準備をする。朝食はハーバー殿がトツクの料理を差し入れしてくれた。ハーバー殿も明るく笑っていたが、元気は無い。


私もベロニカ様もネティ様もテーブルの椅子についている。朝食の時間だ。

馬車の扉が開く。姉様と姉様に抱かれた坊が降りてくる。

『今日の朝食はトツクの料理か?』と坊が言うと、抱かれていた坊が席につく。

『おいしそうね。ハーバーの差し入れかしら。』と姉様も言う。

『姉様、先程までハーバー殿がいらしたのですよ。しかし、処置せねばならぬ事が色々あるからと、行って仕舞われました。』と私が告げる。

『そう、それは残念ね。』と姉様。

『ハーバーは慣れない事が多くて大変そうだ。』と坊。

坊も楽しげに食事をしている。皆も私もひと安心という所作で、ゆっくり料理に向かっている。


朝食は終った。皆ゆっくりお茶を飲んでいる。姉様もお茶だ。坊は姉様に膝の上で寝ている。

と、坊はゆっくりと顔を上げ、スーフェンの方角を見る。ネティ様も同じ方向を見るために動く。二人はどうしたのだろう?私にはまだ何も感じられない。姉様はゆったりと、おロにあった碗をテーブルに戻している。


『母者、何があっても何もするな。よいな。』と坊が言っている。

『皆、スーフェンに戻るぞ。』と坊。


全て片付け、盛り上がった地面も平地に戻す。ハーバーには何も言わず、馬車は来た時と同じ人数で、空を飛んでスーフェンに向かう。

『メイレンが来たわ。』と姉様が言う。

『ジオ殿、このままムエル夕へ参りませぬか?メイレンもムエル夕までは参らぬのではありませんか?』とネティ様が坊に言っている。

『ネティ、話は有り難いし、そうしたいが・・・先伸ばしにかならんと思う。要らぬ被害も増える。早めに片付けるのが良さそうじゃ』と坊が笑っている。

ネティ様は残念そうに頷く。

姉様は何も言わない・・・


馬車はスーフェンの上空に到着し、私々の敷地上空に向かい、敷地内に降りていく。


敷地の外、街道において多くの人々が集まって、何やら騒ぎが有るようだ。近づいくる馬車に気が付いた者々は、言い争いを止め、こちらを見詰めている。馬車が中庭に下りて扉が開く。坊が、真っ先に馬車を降りると、開いた門より外に出て行く。私々は慌てて坊の後を追う。


『チェンバレン、どうした?騒がしいな。』と坊が言っている。

『ジオ様、早いお帰りで。用件はお済みになられましたか?』とチェンバレン殿が坊に聞いている。

『ああ、トツクに逃げたクレメンスもヨキリも罰っしてきたぞ。』と坊が笑っている。

『そうでございますか。それはご苦労さまでございました。それで、実はメイレンという方が坊を出せと、参ったのですが・・・ここに今は居られ無いと言うのに、お帰りにならないどころかさわがれる始末。ほとほと困っておりました。挙げ句にラグルド様までお見えになり、混乱の局でございまして、お帰り頂き誠にほっと致しております。』とチェンバレン殿が話す。


坊はラグルド殿に向かって話し始める。

『おい、ラグルド。アーバンソーもドーレンもトツクが罰っする事で話しはついた。これで教会の件も片が付く。教会領をどうするか、お前が決めろ。』と。

ラグルド殿は不思義そうに聞いていたが、姉様が頷くのを見ると、安心したのか坊に向かい話す。

『わかった。感謝する。』と。

『ラグルド、感謝するならさっさと行け。この騒いでる女も連れて行け。オレらに用は無い。商売の邪魔をするな。させるな。いいな。』と坊は言うと門へ向いて歩き出そうとする。


『お前、老師に何をした?事と次第によっては許さんぞ。』とメイレン殿が言う。

『止めよメイレン、少年の責では無いと何度言わせる。行くぞ、メイレン。』とラグルドがメイレンの手を取ろうとするが、メイレンに払い退けられている。メイレンの形相が、皺が増え目が吊り上がっている。これが二十の女性の顔か・・・流石にラグルド殿も後退っている。


『お前、ラングルトンか・・・メイレンとかわったのか?』と坊がメイレンを見て言う。

『何を言っている?』とメイレン殿。

『そうか、お前、オレを消しにきたのか・・・ラングルトンに言われたな。』

『そうだろ・・・オレがいたのではラングルトンが復活しても直ぐに消されるからな・・・ラングルトンめ、何回同じ事をした?』

『千年も生きておるのにまだそんな事をしておるのか・・・』


『メイレン、ラングルトンが何をしてきたか教えてやろう。』と坊が話し始める。


『砂漠のイランジャの覚書に、最初のラングルトンの事が記してある。ラングルトンとイランジャ、アレンは魔導師ファラーの弟子だとある。』


『アレンは苦しむ人々の苦しみの軽減、救いに傾注していた。反面、ラングルトンは自分の事、特に、いかに寿命を伸ばすか、としか考えていないとある。』


『また、アクトの蔵書にアクトの初代の日記がある。そこには、アレンを売りに教会を作った者達が居るが、その者達の裏にラングルトンがいる、と書いてある。教会はラングルトンの体の確保のためにつくられた、ともある。』


『それから二百年後、第四代イスランの日記に、ラグルトを警戒していると書いてある。

何故、ラグルドは多大な損害を与える侵略を始めたか、その侵略は砂漠にまで及ぶのではないか心配したとも。その侵略は一部の地域のみで突然終了した。その理由を調べたともある。その侵略が終了したのは、ある高位の者の為の遺体を得たからだ、と記してある。その後のラグルドの侵略の様相を見れば、ラングルトンの代替の身体を求めてというのがよく分かる。』


『ラングルトンの求める身体はなかなか見つからない。協会では神眼の者達を狩り、ラグルドには他領に戦をさせる。それでやっと見つかるのだろう。奴のせいで何れ程の人が不幸になったか、お前にそれがどういう事か理解できるか?』


『最近ではトツクと共にガンダルフに戦を仕掛け、負けると分かればガンダルフを封鎖する。また、砂漠が荒れると知っていても、協会を作り奴隷市場をつくる。そのような者が何時までも生きていられる訳が無いであろう。よく千年も生きれたものだ。』と坊が怒っている。周りの聞いている皆々も驚き、呆れている。


『今の話を聞いても、お前は何も思わんだろう』と坊がメイレンを見ている。

『当たり前です。老師様はまだまだ生きておられなければならない、神に等しい方だったのです。お前ごときに何がわかるのですか。』とメイレン。


『と言うことらしい、ラグルド。メイレンを消すぞ。』と坊が言う。

『少年、止めてくれ、勘弁してくれ。』とラグルド殿が懇願している。


『生意気な奴だ。出来るものならやってみろ、この化物め。』とメイレンが人が変わったように怒鳴る。

私の心にも怒りが湧いてくる。

打ってやろうかこの女・・・

私以外は皆悲しそうな顔でメイレンを見ている・・・

姉様、ベロニカ様、ネティ様、何故そんな悲しそうな顔をなさるのです


『確かにオレは化物だ。ラングルトンやメイレンお前も化物の一員だ。魔力の使えない人から見たら、魔力使いは皆、化物にしか見えん。』と坊が言う。

『メイレン、お前二十年生きてきて人の為に何か成したか。お前のような傀儡はラングルトンに言われて、ラグルドや教会と共に、人を害したり、人が不幸になるような事ばかりしてきたのだろう?』と坊が怒っている。


『ラグルドは領主だ。だから行った事に対して領民から末代までラクルドとして責を取らされる。それはラグルドのみに向かう。』と坊。

それを聞いてラグルド殿は項垂れは後悔しているように見える。

そう見えるのは私だけだろうか・・・


『しかし、お前は魔力使いだ。お前のした事で人々の怒り、憎しみは全ての魔力使いに向かう。お前や力の強い魔力使いはよい。しかし、怒りや憎しみ、妬みの矛先は、力の弱い魔力使いに向かうぞ。それが迫害だ。そして、全ての魔力使いが否定される。この世界は魔力使いがいて成り立つようにできておる。それを人は知らん。故に魔力使いのいないこの世界は人が住めん世界となる。それは全てお前とラングルトンの責だ。わかるか?この愚か者めが・・・』と坊が激している。


『ジオ、お願い、興奮しないで。』と姉様の声が聞こえる。


『ラングルトンは千年も生きて来たが、何の為に生きたかったかは知らんが、今は自分が生きる事が目的で、隠れて、人を使って人に仇をなし、自分の替わり身を探しておる。くだらん男だ。千年も生きて人の為に何もしておらん。自分の生きる事のみじゃ。』と坊が吐き捨てるように言う。


『老師をくだらん男とは何様だ?』とメイレンが言う。


『もうよい。話は終りだ。オレの母者や仲間に仇為す奴をオレが放っておくとでも。メイレン全力でこい。ラングルトンの力も使わんと消えるぞ。』更に坊が続ける。


その直後に、空から雷、風、水、炎、石の礫と我々の頭上に出現するや降り注ぐ。しかし全て当る事なく、一定のきょりで消えて行く。

『メイレン、オレ以外の皆やラグルドまで撃つのか?お前性根まで腐っているのか・・・』と坊の苦渋に満ちた顔が見える。


私々を襲っている雷の発生する位置より雷が光り始める、と、一筋の太い光がメイレンに落ちる。光に浮かび上がったメイレンの姿は一瞬仰け反り、硬直し、崩れ落ち、地面に横たわるのが見えた。


ラグルド殿が近付きメイレンの上半身を起こす。生死を確かめている。

小さな声でラグルドが言う。

『少年、感謝する。』と。

『メイレンに魔力はもう無い。だからラングルトンも復活しない。普通の人として送らせろ。』と坊の暗い声。

坊は俯いたままだ。

『解った。』とラグルド殿はメイレンを抱き上げ去って行く。


坊は動かない。何も言わない。ただ立っているだけだ。


ーーー ちっ、動ごかん・・・見えん、真っ暗だ・・・駄目か・・・くそっ、引っ張られる・・・駄目か仕方ない・・・ーーー


坊の苦しそうな呟きが聞こえるとともに遠ざかっていく。


姉様は固まっている。ベロニカ様もネティ様も目を見開いている。

坊は倒れそうだ。坊の脇に寄って坊を抱く。坊は目を閉じている。心臓は動いている。姉様は顔を手で覆い声をあげずに泣いている。ベロニカ様もネティ様も顔を伏せている。

どうしたのです?坊は生きているのに。ねえ坊・・・


坊が目を開ける・・・

坊には魔力が無い・・・

今までの坊の気配とは明らかに違う・・・


ベロニカ様が私に近付いてくる。

『坊を立たせて。』とベロニカ様が言う。

私は抱いている坊を下ろし、立たせてみる。坊は一人で立てるようだ。それを姉様以外が見ている。姉様はいない。屋敷に入ったのだろうか?

ベロニカ様は腰を落とし顔を同じ高さにして、坊に尋ねる。

『おしゃべり出来る?』と。

坊は和やかにベロニカ様を見ている。ベロニカ様の言葉には反応していないようだ。


そして坊はしゃがむ。地面に指で何か書いている。その字は、もしくは絵は何を意味するのだろう。

ーーーーーー


ーーーーーー

『お父様、よろしいかしら?』とエレノアが入ってくる。

『エレノア、どうしたのかな?今、少々忙しいが・・・』と私は文書に目を落としたまま言う。

『お父様、ジオが消えてしまったようですの。』とエレノア。

『消えた?ジオ殿はいつも消していたのではなかったか?』と顔を上げてエレノアを見る。

『お父様、今回は違いましてよ。』


『ジオは気配を表してトツクのダイトに入りましたわ。そこで魔力を使って暴れておりましたの。

それからスフェーンに移動してメイレンと撃ち合いになりましたわ。


二人の全力の魔力の撃ち合いは、それはそれは凄いものでしたわ。決着は一瞬でつきましたの。でもその気配は二人の凄さが伝わり震えが来ましたわ。ジオはメイレンの魔力を全て出させ、空のまま封印出来たようでしたわ。ただ、メイレンを後押ししていた者が居たような気が致しましたわ・・・』


『で、その後にジオの気配が消えましたの・・・』


『ジオ殿が自ら消したのではないかな。』

『お父様、もし気配がー瞬で消えたのなら、お父様の言う通りですわ。でも先程の消え方は徐々に徐々に薄くなって消えましたの。もうこの世にいないのではと・・・』

『それに、その後直ぐに悲しみの気配が強く流れておりますの。』とエレノアが泣いている。


『そうか・・・エレノアがそう言うなら・・・正しいのだろう・・・』と私。

魔力の使えぬ私には、坊の気配が消えたという事の実感は解らぬが、エレノアが泣いているのを見るのは辛い・・・

ーーーーーー


ーーーーーー

『兄上、お呼びですか?』と兄フェルマンの部屋に入る。

『すまんな。今、動く訳にいかなくてな。』と兄上。

『ジオ殿が逝ったようだ。その周囲に悲しみが満ちておる。』と兄が続ける。

『ジオ殿はメイレン嬢と争ったようだ。メイレン嬢の脇に老師の気配もあった。が、老師の気配ごと封印が成ったようだ。』

『老師を封印したのですか?』

『ああ、メイレン嬢に老師は隠れていたが、ジオ殿に見つけられ、メイレン嬢の魔力ごと封印じられた。』と兄上。

『しかし、わからんのは何故逝ったのかという事だ。メイレン嬢と老師であってもジオ殿に傷ーつつける事は無理なはず・・・』と兄が首を傾げる。

ーーーーーー




第一部の終了です。拙い文章をお読み頂いた皆様、ありがとうございます。

引き続き第二部へ移ります。少々構成を変えてみます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ