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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
93/365

第三十一話 自信はない


 ■■□□


 あの者らは、なぜ自分にトドメを刺さぬのだ。


 カタキの魔人の分け身は消えた。魔人の本身にも攻撃が届いたようだ。自分の手足を抑えやすくなった。件の精霊が法術を使ってやってくれたのだ。あれは本当に法術なのか? 自分の記憶が全て戻ったわけではない。だがあのような法術は知らぬ。トミカは霊気のかたまりを放っていた。トミカには及ばぬが自分にもできる。二人とも治療は苦手だった。


 件の精霊も霊気を放っていた。数と強さがケタ違いだ。あれで霊気を使い尽くさぬのか。速さも尋常ではない。目で追うこともできぬ。カタキの魔人も同じ速さだった。自分では届かぬはずだ。件の精霊がいなければ全員倒されていただろう。件の精霊は分け身を消したあとこちらへ向かって来た。


 自分には目もくれず、仲間の治療を始めた。自分の魔核にはひびが入っている。勝手に動く手足を何とか抑えている。トドメを刺すのはたやすかろう。だが自分には目もくれぬ。仲間の治療を優先している。例の巫女もそうだ。幼い精霊と共に少女の治療を行っていた。


 離れたところで獅子の魔獣と戦っていた二人も同じだった。巫女と精霊だが姉妹のように似ている。獅子の魔獣を倒したが瘴気に侵されてしまった。精霊が負った傷も深い。あの精霊は人だった頃の記憶が多いのだろう。その傷だけで倒れてしまった。巫女をかばって受けた傷だ。


 あの者らは互いを思いやる気持ちが強いのだろう。互いの傷を癒すことしかせぬ。件の精霊も同じだ。自分には目もくれず仲間の治療を始めた。それにしても何と大きな力だ。北の山脈全てが光に包まれているやもしれぬ。緑をおびた光だ。その光からは暖かさと優しさ以外は感じられなかった。



 □□□□


 北の山脈に散布した全てのドローンがやって来る。


 近付いて来るドローンを順に神刀化していく。瘴気を浄化しながら逆位相の信号を伝えさせる。ドローンは小さい。すぐに侵食されてしまう。侵食されたドローンにコマンドを伝える。ウィルスが増殖し活動を停止する。幸いある程度やることが決まってきた。こちらはどうにかRPA化ができそうだ。RPAのパラメータの最適化に集中する。


 イノカの瘴気の浄化は進んでいる。だけど治療はまだできていない。そちらに回すリソースが足りない。ミツエとシノハの浄化が遅い。強いハイブリッドの瘴気だからだ。二人の霊気の緩みを治すこともできていない。フタバとムツミの緩みも大きい。このままでは全員間に合わない。


 トリアージしかないのか。誰かに集中すれば助けられるかもしれない。いや、絶対にあきらめない。何か方法はないのか。必死に考える。もっと強い霊気が必要だ。そこで気付いた。ミツエとシノハを侵食している瘴気は強い。いくつかは霊気に戻せている。


 その霊気を「見る」


 その霊気の信号を伝える力は強い。だが霊気自体はそれほど強くない。侵食する力は強かったが霊気に戻せた。これを強くできないか? 霊気の中にある無機と有機のナノマシーンの改良にとりかかる。リソースはぎりぎりだ。余計な思考にすら回せない。今よりもっと集中を深くするんだ。


 デバッグ・モードを更に強化した。


 思考加速とRPAは継続させる。他のデータは全て省く。アバターからのデータも省く。画像データすら入ってこなくなる。目の前のハイブリッドのデータだけが認識できる。パラメータを最適化させる余裕もない。何かあっても対応できない。時間はない。急げ。だが焦るな。失敗したらやり直している時間も多分ない。余計な思考も省く。ハイブリッドの強化だけに集中する。有機ナノマシーンの修復回数を増やす。無機ナノマシーンの修復回数も増やす。互いの連絡回数も増加させる。


挿絵(By みてみん)


 ⋯⋯できた。周囲からのデータ入力を再開する。周りのようすがわかってくる。辺りは緑をおびた光に包まれていた。光はハイブリッドで作ったドローンだ。ハイブリッドの上書きはハイブリッドのデータでないと難しくなる。普通のナノマシーンをハイブリッドのデータで上書きするにはかなりのリソースが必要だ。


 周りのあるのはハイブリッドだ。上書きデータもハイブリッドだ。一気に上書きを行う。神刀の修正プログラムを送る力が一気に増加した。ミツエとシノハの瘴気が次々に霊気に変わっていく。イノカの瘴気はもうなくなりかけている。まだ気を抜くな。イノカの治療に取りかかる。他の四人の緩みを治していく。どうにか間に合った。一人も欠けていない。


 あと一つやることが残っている。



 □□■□


 大きな悲しみを大きな優しさで包み込む少女がイノカ様を助けてくれた。私とムツミ様は自分の霊気を使い尽くしかけていた。そのときできた霊気の緩みも治してもらえている。


 ──遅くなってごめん。

 ──ううん。


 ──フタバ、手を貸して欲しい。

 ──うん、わかってる。


 その少女がやろうとしていることが伝わってくる。少女は周りの人を放っておけない。手が届くなら、届いた分だけ助けようとする。私にできることは少ない。少女の望みを手伝えるのなら、やれることは全てやりたい。



 □□■■


 ヒトミがシノを助けてくれた。私の緩みまで治してくれている。フタバ達も無事だ。誰も欠けていない。ヒトミの気配からずっと戦っていたことが分かる。ヒトミは自分の速さを上げられる。何日か戦い続けていたんだわ。しかもかなり強い相手だ。戦いが終わったらすぐに来た気配がする。休みもせずに私たちを助けに来たのね。


 ヒトミはかなりの無理をしている。私たちの無茶は止めるくせに、自分の無理はやめようとはしない。今もまだ何かやろうとしている。あんたは欲張り過ぎなのよ。一人で何もかもを救うことなんてできないわ。ああもう、わかっているわ。私とシノが手伝えば良いんでしょ。



 □■□□


 ヒトミ様がミッちゃんを助けてくださった。私の侵食も治してもらえた。世界の声は大きくなっていない。とても喜んでいるみたい。ヒトミ様が何かされたんだ。あれだけ強かった瘴気が浄化されている。今も他の瘴気を霊気に戻されている。獅子の魔獣もほどけていく。


『シノハ、よくがんばりましたね。体の具合はどうですか』

「はい、ヒトミさま。もう大丈夫です。ミッちゃんを助けてくれて、ありがとうございます」


 ヒトミ様から通信が届いた。


『疲れていると思いますが、シノハとミツエに手伝ってもらいたいことがあります』

「はい、ヒトミさま。私たちにできることでしたら、何でもします」


『な、何でも、い、いえ。二人でこちらまで来てもらえませんか』


 ──ミッちゃん?

 ──私はもう動けるわ。シノは?

 ──うん。私も大丈夫みたい。

 ──じゃあ、行くわよ。


「はい、ヒトミさま。すぐに参ります」


 私とミッちゃんはヒトミ様のもとへ向かう。



 □■□■


 ヒトミ様に助けていただけた。まだムツミと一緒に過ごせるのかしら。ムツミの霊気も治してくださった。すぐに還ることもないみたいだわ。ムツミとはたくさん話をしておきたい。今まで少し距離をおいていた。これからはもっと近くにいたい。また仲の良い姉妹に戻りたい。今はムツミの気持ちも少し伝わってくるかしら。イクノブ家の二人には及ばない。ヒトミ様とフタバのようになれるのはもっとずっと先かしら。


 いつかはあんな風になりたい。ムツミの記憶が戻ることに怯えなくて良い。お互いのことをたくさん話したいわ。精霊様はいつかは還られる。その前にできるだけ一緒に過ごしたい。今はまだやることが残っている。そちらが先だわ。ムツミを通してアイツの記憶が伝わってきた。


 アイツ⋯⋯トウジさんも大切な人を失った。トウジさんがやったことを許せるかしら。やったことは許せない。私がムツミにしたことも許せない。でもムツミは私を嫌わないでいてくれた。オタミさんも憎しみを捨ててくれた。トウジさんがやったことは許せない。でもトウジさんを憎むことならやめられるかもしれない。


 

 □■■□


 ヒトミ様がイノカお姉ちゃんを助けてくれた。イノカお姉ちゃんは私のことを怒っていなかった。ずっと大事にされていた。これからも一緒にいられる。言葉も思い出せた。記憶も戻ってきた。イノカお姉ちゃんとたくさん話したい。私は精霊だからいつか還る。世界の声はとても小さい。ヒトミ様がそうしてくれた。イノカお姉ちゃんと一緒にいられる時を長くしてもらえたんだ。


『ムツミ、聞こえますか』

「う、は、はい、ヒトミ様」


 ヒトミ様から「つうしん」が届いた。きちんとお話できるのは初めて。


『体の加減はどうでしょう』

「はい、だいじょうぶです。ありがとうございました」


『ムツミにお願いしたいことがあります』

「はい、何でしょう」


『ある人のことを許して欲しいのです』

「⋯⋯トウジさんのことですか」


『ええ。彼が行ったことは許してはなりません。ただ彼自身への憎しみを忘れてはもらえないでしょうか』

「⋯⋯はい、できると思います」


 本当は自信がない。魔人となってしまったトウジさんの記憶が伝わってきた。トウジさんがやったことは許せない。でもトウジさんを憎むことはやめられるかもしれない。

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