表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
90/365

第二十ハ話 それぞれの戦い


 □■□■


 フタバが気を高めている。私は目の前の魔人をもう一度見る。やはりアイツだ。オオエヤマ家の里を滅ぼした魔人だった。オオエヤマ家だけじゃない。他の里も襲った。イクノブ家の人も襲った。多分ツカハラ家も襲っている。この魔人を討つ為に鍛練を積んだ。フタバとの稽古も積んだ。ヒトミ様にも稽古をつけていただけた。


 全てはこの日のため。今日ここで魔人を討つ。討ち取った後なら果てても良いと思っていたわ。でも帰る理由ができてしまった。オタミさんとの約束を果たす為にも、生きて討ち倒す。ムツミにも謝りたい。あなたに手を下したのは私なのよ。全てが終わった後には必ず。いいえ、まだよ。今は戦いに集中するのよ。私は気を高めていく。



 □■■□


 イノカお姉ちゃんの前に魔人が現れた。いくつもの光景が通り過ぎる。まだ全部じゃない。でも少し思い出した。この魔人は精霊様だった。私は巫女だった。私に憑いてくだった精霊様だ。でもひどいことをたくさんした。私の霊気を使って多くの人たちを手にかけた。イノカお姉ちゃんが止めてくれなかったら、もっと続いていたと思う。


 お姉ちゃん、あのときはごめんなさい。私にはどうすることもできなかったの。でも今なら少しはできることも増えた。ヒトミ様が教えてくだった。薄い赤色の光を集める。赤い光で風を作る。この風でお姉ちゃんを守るんだ。



 ■■□□


 体は思うように動かぬ。意識は少し戻った。自分の手足が勝手に動く。目の前に、あの少女と例の巫女がいる。少し背丈が伸びたのか。後ろには少女の妹だった精霊までいる。この姉妹はトミカの幼い頃と成長した頃に似ている。姉の背丈が伸びたせいか、ますますトミカと似ているように見える。だから斬れなかったのか。ならば良かった。魔人になっても一人は斬らずに済んだのだ。


 だが今はどうだ。自分はこの三人の誰も斬りたくない。手足が勝手に動く。二人で斬りかかってくるのを受けて返してしまっている。あのカタキの魔人の仕業なのか。どうすることもできぬのか。二人の技量は奥伝でも上の方であろう。だが足りぬ。勝手に動く手足は、力と速さで勝ってしまう。このままではいずれ二人を斬ってしまう。トミカ、自分はどうすれば良いのだ。



 □□□□


 瘴気が集まるたびに二千の光を放つ。それをひたすら繰り返している。体感では数時間経ったような気もする。まだ数分かもしれない。


『くかか、ねばりよる。だが人の意識ではそう長くは法術を放てまい。お前は面白いやつよ。仲間に加えてやろうか』


「お断りします」


『なぜだ。いずれ精も根も尽きて動けなくなるぞ。その前に魔人になれ。さすれば仲間にしてやるぞ。望みとあれば他の者も加えてやっても良い』


 えっ、いいの? いやいやダメでしょ。美少女の魔人でハーレムか。おっと、危ない。集中が切れるところだった。とりあえず二万の光を放つ。ふう、これで少しは休めるか。


『くかか、強情なやつよ』


 ダメだった。会話の合間にも二千の光は放ち続けている。


 フフ。フフン。変なテンションが上がって来た。この感覚は知っている、いや覚えている。周回ゲーでひたすら周回するときの感じだ。ザコ敵ばかりを作業的に潰すときにも似ている。体感的に百時間超えなんてざらにある。最長は千時間だったか。もう一桁上だったかもしれない。魔人さんをひたすら潰し続けるだけの簡単なゲームですワ。最長時間の更新を狙いますわヨ。私はテストプレイヤー・モードに入る。



 □□■□


 強い。皆伝のヨシノリ兄上並だ。もしかすれば、その上かも。イノカ様と二人がかりなのに、いっこうにスキがみえない。剣はイノカ様の太刀筋と似ている。技量自体はあまり磨かれてはいない。ただ速さと力がこちらに勝る。このままではいずれ斬られてしまう。


 ヨシノリ兄上よりも強い人を思い浮かべる。父上とヒトミは遥か上で真似できない。一度ヨシノリ兄上から一本取ったことがあった。あれはヒトミと出会う前? いや、ヒトミの影が初めて教えてくれた日だ。あのときの動きを思い出せ。昔の私でも届いた動きだ。魔人の太刀をさばきながら半歩下がり丹田以外の力を抜く。自然に歩くように近付く。振り出しと打ち込みの瞬間だけ力を込める。後は鍛練と稽古で身に付いた動きに任せる。


 ダメだ。届かない。あのとき何を直された? 思い出せ。



 □■□■


 フタバの動きが変わった。まるでヒトミ様のようだわ。ヒトミ様は影との戦いに集中されている。目でも追えない速い攻撃を続けておられる。今できることは何? ムツミが風を送ってくれている。ヒトミ様からいただいた防具もある。この二つに守りを任せれば、あの技が使える。相討ちでも構わないと思い磨き続けた技よ。


 私が魔人の太刀を受け流したとき、フタバが斬りかかった。あと少しで届いていた。でもフタバの太刀を受けるため、少しこちらから目線が外れた。左上段から太刀を引き寝かせる構えを取る。切っ先は魔人の方を向いている。



 ■■□□


 巫女の動きが変わった。無駄のない静かな動きだ。打ち出しと打ち込みのときだけ力をのせている。くっ。また手が動く。今の太刀が何度か続けば、自分に届くやもしれぬ。少女の構えも変わった。守りを防具に任せ、太刀だけに集中するようだ。だが危うい。自分の太刀は瘴気をまとっている。防具だけでは貫くやもしれぬ。このようなとき、どうすれば良いのだ。


 周りに意識を向けると幼い精霊が目に入った。自分は一度その体に憑いたことがあった。あのとき幼い巫女は自分の動きを止めたはずだ。あのようにできれば良いのだ。幼い者でもできたのだ。やってやれぬこともないであろう。自分は剣気を練り始める。

 


 □■□□


 ミッちゃんが獅子の魔獣の攻撃を避け続けている。ミッちゃんを通してなら魔獣の動きもわかる。ときおり炎や氷が当たる。ミッちゃんも小太刀で傷を負わせている。このままならいつか倒せるかも。次の瞬間ミッちゃんが後ろに飛んだ。あまりにも速かった。風が遅れてしまう。


 ──ミッちゃん?

 ──シノ、来るわよ!


 ミッちゃんは何か気配をつかんだみたい。急いで風をまとわせる。そのとき、魔獣の瘴気が膨れ上がった。



 □□■■


 獅子型の魔獣の気配が膨れ上がった。


 ≡≡ 緊急 侵食されました ≡≡


 盾にしていた左手が黒ずんできた。私たちの体はすべて強い霊気に置き換わっている。他の人でなくて良かったわ。これだけ強い瘴気なら私たち以外ならすぐ全身が侵食されていたわね。獅子の魔獣がヒトミたちの方へ行こうとしている。させないわ。侵食は始まってしまった。この左手はくれてやる。だからこっちを向きなさい。


 瘴気を少しでも避けるため、姿勢を低くして駆ける。魔獣が気配に気付きこちらを振り向こうとする。遅い。魔獣の横腹に小太刀を突き刺す。魔核に触れた。だが浅い。魔獣は身をひねって、私の左首を噛み砕こうとした。左手だけじゃ足りないかもしれない。


 そのとき、シノが体をまとった。防具も着けていない。簡単な服だけだ。シノは私と魔獣の間に現れた。魔獣の牙がシノをとらえる。叫びたいのをこらえ、小太刀を更に刺し込みねじる。魔核が砕ける感触が刃を伝わってくる。残心も取らず、シノを抱えて後ろに飛ぶ。


挿絵(By みてみん)


「シノ!」

「ミッちゃん⋯⋯」


「あんたが無茶してどうするのよ!」

「私は精霊だから、大丈夫じゃないかな」


 シノの侵食が始まっている。周りには青い風がまだ残っている。私に法術が使えれば。いや、今使えるようにすればいい。血止めだけでもいい。あとは、あの欲張りが何とかしてくれるわ。シノが普段やっていることを必死に思い出す。霊気を動かす? でも霊気の場所が私にはわからない。


 そこで最初にヒトミの法術を見たときを思い出した。あのとき、シノはすごく驚いていたわ。ヒトミは体の中の霊気を使わなかった。そうよ、私にもわかる場所に霊気があった。意識を体内に向ける。もっと集中するのよ。シノはもっと深く集中していたわ。意識を研ぎ澄ませる。


 ⋯⋯あった。かすかに霊気の存在がわかった。でも足りない。いやそこにあるはず。ヒトミに教えてもらったやり方でコマンドを伝える。動いた。まだぼんやりとしかわからない。でも確かに動かせた。これを使って、周りの霊気にコマンドを送れば良いのよ。怪我を治すプログラムならこの中にあるはず。周りの風はまだ少し残っている。ここに私の霊気を注げばシノを治せるはず。


 ──そんな使い方はミッちゃんがほどけちゃうよ。

 ──そのときは、二人で精霊になればいいのよ。


 意識を更に集中させた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ