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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
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第二十六話 おはぎ


 □□□□


 北の山脈の途中までドローンの探索エリアが広がった。その辺りのドローンはハイブリッドでできている。強い魔獣の瘴気だといくつかは侵食されて機能を停止する。分解され瘴気になってしまうものもいる。残りの大部分はそのまま活動を続ける。中継機もハイブリッドで作ったものだ。こちらも大部分はそのまま動く。減ってしまった分は、周りの瘴気を霊気に戻し、自動的に補充するように設定した。


 魔物は瘴気の濃いところで発生する。山脈のふもとに瘴気が溜まりやすいところがある。そこで発生する魔物はそれほど強くはない。小さな魔物なら里の人でも倒せるようになった。


 北の山脈は造山活動で作られたわけではない。見た目は岩を模している。実際に岩を貼り付けている部分もある。中は強化セラミックに覆われた重金属でできている。北からの放射線を遮るのが目的だったそうだ。ふもとの方なら徒歩でも登れる。中間ぐらいからはロッククライミングが必要になる角度だ。ツカハラ家近くの峠はその境目にある。元は点検用の通路だったと聞いた。


「北西に三匹、北東に一匹強い魔獣がいます」

「うん」


「北西は私が行くかしら」

「私も北西をもらうわよ」

「では私は北東に行きます」


 シノハとムツミからのデータを受け取り、イノカとミツエが北西へ、フタバが北東へ向かう。ふもとから見て三合目付近での討伐が増えた。この地方の、北の山脈の一番高い部分の半分ぐらいの高さを五合目と見立てている。三合目辺りで退治しておけばふもと近くの里も安全になる。


 もう少し高くなると瘴気が濃くなり過ぎる。ミツエとシノハの霊気は全てハイブリッドに置き換わっている。他の人は体表をハイブリッドでコーティングしている。私たちだけならもう少し高くても大丈夫だ。小さなドローンはその高さでは動かなくなるものが増えてしまう。周りのようすが分かるのは今のところこの辺りまでになる。


「ずいぶん慣れてきたかしら」

「神刀と装備のおかげでもあるわね」

「以前より戦いやすくなりました」


「今のところ他にはいません」

「うん」


「では一旦帰りましょうか」


 ここまでは飛行船で移動している。足場に不安があるときはエア・バイクに乗ることもある。今では全員がエア・バイクを操縦できるようになった。禍々しい魔獣と魔人はまだ見付けられない。ときどき信号が途絶える五合目にいるのだと思う。あの辺りは魔獣がいなくても信号が途絶えることもある。迎え討つならここが良い。



 □□□□


 帰りはいくつかの里をまわる。うまくいってない部分や不足があればととのえていく。何度か往復すれば全ての里を回ることができる。今日はオタミさんのいる里にも行く日だ。


「ふん、また来たのかい。まあ、上がっていきな」

「お体の具合はいかがですか」


「ああ、たいぶ良くなったよ。もう家の中のことはできるさ」

「⋯⋯また食料を皆に分けたのですか」


 オタミさんの家に置いてあった食料はすぐに他の人達に分けられてしまう。


「わたしだけ、良いもの食べるわけにはいかないさね」

「他の人の分も同じものにしておいたと、お話したと思いますが」


「そうかい、悪いね耳が遠くなったもんでね。それより、菓子を作り過ぎちまってね。腐らすのももったいないから、食べていきな」

「はい、いただきます」


 私たちが訪れるとオタミさんは毎回何か作ってくれる。今回はおはぎだった。餅米と小豆に砂糖と塩を加えた素朴なものだ。できたての暖かさだった。多分何日か前から仕込んでおいて、行きの飛行船が見えたときにでも作ってくれたのだと思う。素材はありふれたものないのに、いつも美味しく感じられる。


「かなりいけるわね」

「はい、とても美味しいです」

「うん」

「今度作り方を習いたいかな」


 この里に入るとイノカの口数が減る。原因はあの魔人絡みだと思う。無理に付いて来なくても良い言ったところ、断られてしまったことがある。イノカなりに向き合おうとしているのかもしれない。おはぎを食べていると、信号が途絶えた。ハイブリッドの辺りだ。信号が送られてこない場所がどんどん降りて来る。シノハとムツミも気付いたようだ。全員に情報を送っている。


「オタミさん、ご馳走さまでした。そろそろおいとまします」

「⋯⋯そうかい」


 オタミさんに、何か気付かれたようだ。いつもと雰囲気が違う。オタミさんには、イノカを真っ直ぐに見た。


「オオエヤマの嬢ちゃん」

「は、はい」


「わたしは、あんたを憎んでいたよ。あんたが現れなきゃ、うちの亭主と息子もまだ、と思っちまってね」

「⋯⋯はい」


「筋違いなのは分かっちゃいるさ。ただ心が言うことを聞きやしなかったのさ」

「⋯⋯はい」


「ふっ、もう憎んじゃいないよ。ヒトミ様のおかげさね。ただ愚痴ぐらいは聞いて欲しいね」

「は、はい」


「明日以降でいいさ。ヒトミ様とそこの小さな娘さんも連れてきちゃくれないかね」

「はい、この身に代えてでも必ず」


「馬鹿いうんじゃないよ。わたしはあんたに愚痴を言いたいのさ。あんたも必ず来な」

「っ、ありがとうございます」


「愚痴をありがたがるなんて変な嬢ちゃんだね。まあいい、これから私も忙しいんだ。さあ、とっとと帰んな」


 私たちはオタミさんの家を出ていく。



 □□□□


「生き残りを集めて魔人に挑んだ話はしたかしら」


 飛行船に乗って山脈へ向かう途中、イノカが過去の話をし始めた。


「そのときにオタミさんの夫と息子が付いてきてくれたのよ。その二人だけでなく、あの里に残っている人の家族も多かったわ。私がその人達を⋯⋯」


「違いますイノカ。みんな自分にとって大切な人を守りたかったのですよ」

「そうですよ、イノカ様。私たちで必ず魔人を討ち、これ以上民を傷付けさせないようにしましょう」


 私とフタバがイノカの言葉を遮る。本当のことは分からない。でも多分そうだと思うことを言った。誰かを守りたいという気持ちもあったはずだ。


「そうよ、今からできることをすれば良いのよ」

「はい、私もそう思います。イノカ様」

「うん」


 ミツエとシノハもそれぞれの気持ちを述べる。ムツミも同じ意見のようだ。


「⋯⋯みんな、ありがとう。ヒトミ様にはことのほか感謝しております」


「たいしたことはしておりません、お気になさらず」


「そうね。ヒトミにとってはこれが普通なのよ」

「はい、ヒトミさまはお優しいですから」

「うん」


「それほどではありません。私は模範的な人間ですが、そんなに善良でもありませんよ」

「うーん、確かにヒトミは善良という感じではないかも」


 ちょ、フタバさん?


「そうね。私たちを見るとき、ときどき妙な気配を感じるわ」


 ミツエまで、何のことカシラ。


「そ、そうなんですか、ヒトミさま」

「うん?」


「え、えーと、な、何か勘違いでもされているのではないでしょうか」


「そういえばヒトミ様、新しい世界というものはどうなったのかしら」

「うん」


「新しい世界って、シノも誘われた?」

「はい、誘っていただきました」


「ふふ、ヒトミ?」


 このタイミングでか! 自業自得という言葉が浮かぶ。


「ほ、ほら、もうすぐ着きますよ。皆さま装備の準備はととのっていますか」


 今は戦いに集中しましょう。話題そらしではありませんワ。


「もうできているかしら」

「さっき戦っていたときのままよ」

「はい、私たちも準備は終えています」

「うん」


「ふふ、ヒトミ。まだ時間はあるみたいかな」


「え、えー、残弾の確認とか、武器や防具の具合を確かめるとか、ありませんカ」


「『ざんだん』って何かしら」

「武器や防具は自動的に直ると言ってなかった?」

「時がかかるようなことはお聞きしました」

「うん」


「いえ、まあ、その、そうなんですが、一応念のためにと思いまして」


「私は確認したかしら。念のためにもう一度ぐらい見ておこうかしら」

「そうね、もう一度ぐらい確かめておいても良いかもね」

「私とムツミ様はエア・バイクに乗っていました。そちらの確認も必要でしょうか」


「え、ええ。あくまで念のためにですワ」


 早く魔人のところに着きたい。

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