第ニ十四話 探索範囲
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「北に強い魔獣が、北西と南西に魔物がいます」
「うん」
「北西は私が行くかしら」
「北の強い魔獣はいただくわよ」
「南西は私が行きます」
あれから数日がすぎた。魔物退治も今日で一区切りだ。ここから先はイクノブ家が守護する地方になる。オオエヤマ家の里が滅んでから、イクノブ家とイブキ家が西側と東側の守護をしてくれていた。魔人を倒したら、イノカがお礼を言いに行くとのことだ。その後の守護はまた両家に頼ることになりそうだ。
この地方の里の守りは強化した。普通の魔物であれば霊刀でも足りると思う。もっと強い相手がでたときに専門家の助けが必要だと思う。イノカとムツミが残っても、ニ人で一つの地方全体の守護は難しい。ミツエとシノハはイクノブ家へ、私とフタバはツカハラ家へいずれ帰らなければならない。イノカとムツミのことはそのときにでも相談しよう。
ミツエが最後の魔獣を倒した。ミツエは小太刀と体術を上手く組み合わせている。手足の装備も神刀化している。強い魔獣相手でも余裕で勝てるようになってきた。
「今のところ他にはいません」
「うん」
「これで終わりかしら」
「ここから西はイクノブ家に任せておけば良いわ」
「後はときどき出てくる魔物や魔獣だけです」
「お疲れ様です。今日はコテージに帰りましょう」
有機ナノマシーンの探索エリアもこの地方全体をカバーできるようになった。獅子の魔獣と魔人は見付けられていない。おそらく北の山脈の上の方にいるのだろう。
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「みんなのおかげで、この地方もずいぶん安全になったかしら。ありがとう」
「うん」
「たいしたことはしていないわよ。それに私の鍛練にもなったんだから、気にしないで」
「はい、ミッちゃんの言う通りです」
「私とヒトミは最後までお付き合いします、イノカ様」
「ようやく監視できる範囲がととのってきたところですよ」
探査網のことはみんなに話している。シノハかムツミがデータを受け取り、他の人に送ることもできるようにしておいた。普通の魔物であれば探査網に表示される。強い魔獣の場合は信号が途切れる。途切れたところへ行くと、強い魔獣を見つけることができる。弱い魔物であれば里の人でも倒せるようになってきた。弱い魔物を浄化しないように風で運び、各里で何度か練習してもらった。
強い魔物や魔獣が出たら私たちが駆け付けるまで里の中にこもってもらう。念のため里を囲む木々の枝葉の先を神刀化している。最新式ではないが、強いハイブリッドを使った。里の中に小さめの鐘楼も設置しておいた。強い魔獣が出たり急病人が出たら鐘を叩いてもらう。そこから探査網の霊気に信号が伝わり、私たちまで届く。
有機ナノマシーンや無機ナノマシーンに比べると遅いが、ハイブリッドも時間があれば自己増殖する。時間がないときは普通のナノマシーンのデータに強引に上書きする。ハイブリッドの構成部品と同じ、有機ナノマシーンと無機のナノマシーンが周りにあると自己増殖しやすい。上書きも簡単になる。一度ハイブリッドにしておくとバージョンアップも簡単になる。有機と無機は増えやすい。二つを集めてハイブリッドのストックも作っておく。
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自分は今北の山脈の中ほどにいる。件の精霊が妙な霊気を周りに放ったためだ。その霊気は元々そこらの生き物が持つものと同じものだ。その霊気を使って何やら小さなものを作っていた。小さなもの達は特に変わったことはしていないと思っていた。せいぜい周りの小さなものに何かを伝えるだけだった。その小さなものが魔物を見付けると、周りのもの達に伝える内容が増える。それが順に伝わり、件の精霊がいる森にまでたどりつく。魔物の居どころを伝えているのか。小さなものに見つかった魔物はすぐに狩られた。
小さなものは瘴気に弱い。生き物を作るぐらい多くが集まれば少しは強くなる。小さなままでは瘴気に負けてしまう。強い魔獣の居場所は伝わらぬか。そう思って見ていると強い魔獣まで狩られるようになった。気が付くと小さなものはそこら中にいた。瘴気に負け伝えが途絶えることで、その場所がわかるようだった。
自分の瘴気も強い。あのカタキの魔人に勝つため、多くの魔核を取り込んだ。かなり強い瘴気を放つ。抑えることもできるようになった。四六時中抑えることはまだできぬ。北の山脈の近くになれば瘴気は濃くなる。自分が居る山脈の中ほどまで来ると、濃くなるだけではなく、強い瘴気も増えてくる。この辺りまではさすがに小さなものもやってこれぬようだ。
強い魔獣は以前のものとさほど変わらぬように思える。記憶がすべて戻ったわけではない。昔の自分であれば逃げることしかできなかったようだ。だが何かが違う。強い魔獣が放つ瘴気は、カタキの魔人が放つ瘴気に確かに似ている。だが異なるところもあるように感じられる。あの魔人が直接魔獣にしたものではないのか。
眷属でも作ったのやもしれぬ。ならばこの違和感にも説明がつく。自分が求めるのはカタキの魔人だ。その眷属ではない。だが眷属を倒せば魔人が出てくる可能性はある。ほかに手掛かりはない。自分は魔人の眷属を探すことにした。
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この辺りの安全性は上がったと思う。有機ナノマシーンで作るドローンの探索エリアはこの地方をカバーするまでになった。残っているのは瘴気が強い北の山脈の近くだ。今のドローンは近付くだけで瘴気に負けてしまう。瘴気に負けると機能を停止するか、ドローンの有機ナノマシーンが瘴気になってしまう。
ハイブリッドが必要だろうか。今も改良され続けているハイブリッドなら瘴気に対する耐性はある。古いバージョンのハイブリッド相手ならほぼ負けない。逆に相手のバグを直せる。ハイブリッドで小さなドローンを作り散布すると、北の山脈の途中ぐらいまでなら探索できると思う。それ以上は瘴気が濃くなり厳しい。
一つ一つのドローンは弱い。多くのドローンを作ることで必要な機能が得られる。有機ナノマシーンで作ったドローンの探索エリアも同じだ。強い魔獣の瘴気に負けることで信号が途絶える。途絶えた信号の場所から強い魔獣の場所を推定することができる。ハイブリッドでドローンを作り同じ働きをさせることはできる。魔人の情報がなければそうしていた。魔人の中には精霊と同じことができる者がいる可能性がある。
世界に還った精霊は日々ナノマシーンのバージョンアップをしてくれている。この世界の生き物は世代ごとに瘴気に対する耐性が強くなる。ツグミさんのような精霊達がバージョンアップしてくれているからだ。瘴気も強くなる。最初のバグが原因かもしれない。他にも原因があるかもしれないと教授に聞いた。他の原因があるのだとすれば魔人の可能性が高い。
小さなドローンで新しいバージョンのハイブリッドを散布すると、こちらのデータだけが魔人に渡る可能性がある。戦いの場であれば互いのデータが得られる。先にこちらの手の内をさらすのは避けたい。いくつかの案は考えた。実行可能で効果がありそうなものに絞る。そのうちの一つは比較的簡単にできる。
教授のフィルタを越えることよりは簡単にできると思う。以前あのフィルタは不自然なほどセキュリティ・レベルか高かった。今は日々あからさまになってきている。それほどまでして何から守っているのだろう。以前のレベルであっても、どの国から攻撃を受けても破れないほどだったと思う。とはいえ世界は広い。あのフィルタを破れるような人物も何人かはいるに違いない。
一度フィルタを破られると、何やかんやの証拠が世に出てしまう。罪の意識はあまりなさそうだ。研究時間が減るのが嫌なのだろう。まあ私にはあまり関係のないことだ。この世界のシステムの維持さえしてもらえれば良い。せいぜい頑張って自分の身は自分で守ってもらおう。




