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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
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第十ハ話 エア・バイク


 □□□□


「ヒトミ様、先に近くの魔物の数を減らしておきたいかしら」


 イノカは強い練習相手でなく、この地方の人々の安全を優先したいようだ。


「そうね、そうの方が良いと思うわ」

「各家のつとめでもあります」


「はい、私も気になっていました」

「うん」


 みんなも賛成している。フタバは戦いが近付くとツカハラ家での口調に戻る。それだけつとめを果たそうとする気持ちが強いのだろう。ツカハラ家以外でも北の山脈に近い各家の者は人々を守ろうとする気持ちが強いようだ。


「では、そのようにしましょう」


 地図を見ると、オオエヤマ家が守っていた地方は東西で30kmぐらいあった。南北は10kmぐらいだ。付近には小さな里も多い。今は、東側はイブキ家が西側がイクノブ家が守護をしてくれている。それぞれの家から離れている。どうしても手薄になりがちだ。飛行船で移動し、里の周辺の魔物を狩ることになった。飛行船は里の近くに降ろし、そこからは徒歩か乗り物になる。


 人を乗せる大型のドローンも作った。大型と言っても馬よりは小さい。それに人を乗せて浮かべるにはもっと大きくする必要がある。人を乗せて完全に浮かぶ飛行船と違い、ヘリウムの気のうで得られる浮力はエネルギーの節約のためだ。残りの浮力や推進力は管に入れたドローンの風で得ている。操縦はコマンドで行う。今のところ操縦できるのは私以外ではシノハとムツミだけになる。


 二人乗りにしておいた。いざというときは六人全員が乗れる。布と同じようにコマンドで色も変えられる。遠目からは草木のように見せることもできる。前後にヘリウムの気のうをつめた膨らみがある。間に人が乗れる。乗るところはオートバイのようにした。席の前にハンドルがある。ここからコマンドを入力して操縦する。単純な動きならハンドルを動かすことでもできる。


 エア・バイクと呼ぶことにした。



 □□□□


「北と南西に魔物が、北西に魔獣がいます」

「うん」


 シノハとムツミから地図データに魔物の場所と数を書き加えた画像データが送られてくる。


「北は私が行くかしら」

「魔獣はもらうわよ」

「南西は私が行きます」


 イノカ、ミツエ、フタバがそれぞれの方角へ走りだす。私とシノハとムツミは前後が膨らんだエア・バイクに乗っている。ヘリウムを使い少し浮いている。浮力だけでは人を運べない。飛行船と同じく表面に細い管が多数付いている。管の中のドローンが風を出し浮力と推力にあてる。乗り物の細かい制御はプログラムで行う。操縦者が簡単なコマンドを伝えるだけで前後左右に進める。上下方向は少し動ける程度にしておいた。


 エネルギーは周囲のナノマシーンから少しずつもらうように設定している。ナノマシーンは普段から化学エネルギーや電気エネルギーをためている。余った分は周囲のナノマシーンに渡す。木々などを構成するナノマシーンは主に葉でエネルギーを得る。それを他のナノマシーンに渡して全体が活動する。


「こちらは終わったかしら」

「一人だと多少の鍛練になるわね」

「こちらも終わりました」


「ここより南では見付けられません」

「うん」


「では一度近くに集まり、西へ行きましょう」


 東側から魔物を狩ることになった。シノハとムツミは数を絞ればトリ型のドローンを2km先まで飛ばすことができる。南北へ移動しながら少しずつ西へ進んで行く。やがて一つの里にたどり着いた。



 □□□□


「ありがとうございます。これで皆も安心できます」


 五十戸ほどの里に入った。里に入るときは全員徒歩になる。魔物を退治する装備を見て、こちらがやろうとしていることを察したようだ。魔物や魔獣の脅威があるので、この世界は人同士の争いが少ない。盗賊や山賊などはほぼいない。北の山脈に近い各家は盗賊や山賊の捕縛も行っている。


「オオエヤマ家の者として、当然のつとめです」

「うん」


「おお、オオエヤマ家の方々でしたか。しかしあそこは確か⋯⋯」


「はい、私が最後の生き残りです。この子は精霊になります」

「うん」


「私たちはイクノブ家の者よ」

「はい、これも家のつとめです」


「私どもはツカハラ家から参りました。都の学園で縁ができ、こちらへやって参りました」

「ツカハラ家の者も民を守るためにあります」


「⋯⋯そうでしたか。この辺りはイブキ家の方々がときどき魔物の退治に来てくださります。それほど多くはありませんので、このたびは助かりました」


 オオエヤマ家の話をするときイノカの表情が少し陰った。他の者が話題を変える。里の人も合わせてくれたようだ。


「この里の武器を霊刀にしておきたいのですが、よろしいでしょうか」

「霊刀でしょうか」


「はい。普通の獣に対して効果はありませんが、魔物から身を守りやすくなります」

「おお、それは助かります。魔物以外の獣であれば里の者でも何とかできます」


「では、主だった武器を集めていただけますか」

「はい、すぐに持ってこさせます」


 里にある武器を集めてもらう。自分たちで作った武器が多い。木を削っただけのものもある。使われている金属は少ない。石で代用しているものもある。この世界の冶金や農業は早くに再現された。山奥の里までは十分に普及していないのだろう。田畑の実りも少なそうだ。森の果実などで補っているのだと思う。集まった武器の穂先を霊刀化していく。穂先にナノマシーンがないものは、薄く塗ってコーティングしておく。これで少しはマシになったと思う。もう少し手を入れたい。


「武器に使われる石を集めるのに決まった場所はありますか」

「は、はい。里の近くの川原のものが多くなります」


 川原に案内してもらう。小さな川なので川原といっても広くはない。地中のナノマシーンにプログラムを入力する。採取されたものから順に霊刀化するように設定しておく。周囲の木々を構成しているナノマシーンにも同じプログラムを入力しておく。木々が枯れても地中から再入力されるようにしておく。ついでにセラミック製の刃物や農具の先も作っておく。刃物は霊刀化しておく。農具の先には別のプログラムを入力する。セラミックを作るときに周りのナノマシーンを動かした。


 川原が薄い緑をおびた光で包まれる。


 農具の先には肥料を集めるプログラムを入れておいた。これで耕すと地中のナノマシーンにコマンドが伝わって肥料が集まる。肥料が増えすぎないように調整しておく。これで先の心配が少し減る。今の田畑や周囲の果樹の状態もととのえる。少し成長がよくなるようにしておく。遠くの木々をほどいて小麦粉や砂糖も作っておく。里の家も少し補修しておく。山全体が薄い光におおわれる。


 少しやりすぎたようだ。気が付くと里の人達が集まって来ていた。なぜかこちらへ向かって手を合わせる人までいた。里に入るときに皮を被った。何か勘違いでもさせてしまったのだろうか。皮を被った私の所作や表情は非常に洗練されたものになる。数々のゲームのデバッグやテストプレイで身に付けた。天女か女神クラスになれる。VRに限るけど。


 いや、リアルの私も美少女だ。あまり他の人を見たことがない人々にとって、目の毒になってしまったに違いない。フタバは快活で健康美にあふれている。体つきも程よい。


 日焼けし過ぎていたように見えたミツエも今では健康そうに見える。私とフタバより少し年下だが、出るところは出ている。シノハはミツエと似た体型だ。最近は減ったが、少し儚げなところも良い。ときどき魅せる幼さと相まって、思わず守ってあげたくなる。


 イノカは背が高くモデルみたいだ。イロイロな服を着せてみたくなる。カチューシャにはウサ耳も収納されている。バニー何とかの格好が似合いそうだ。ムツミはまだ幼い。将来はイノカと同じようになりそうだ。ムツミは精霊なのである程度外見を変えられる。今度シノハとムツミにイロイロなデータを渡してみよう。それで、みんなと一緒に。


 ──ヒトミ?

 ──お、お話でもしようと思っただけですワ!


 ──お話だけで良いのかな。

 ──えっ、え、ええ。もちろん最初はお話だけですワ。


 ──最初だけなのかな。

 ──え、えーと、その、ですワ!


 ──ふふ、ヒトミ。今夜はシッカリお話をしようね。

 ──も、もちろんですワ、オホホ。


 フタバさんとお話をする約束をした。

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