第十七話 実地訓練
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自分は気になる精霊を見にきていた。本当に精霊なのだろうか。霊気の動きは精霊のものだ。だが何かが違う。その精霊や巫女のいる森は何かでおおわれていた。トミカほどではないが自分も霊気の動きがわかる。その森には入らず、別の森の小高いところから様子をうかがった。森の中にいつの間にか家と稽古場ができていた。
件の精霊はイクノブ家の巫女と稽古をしていた。いやイクノブ家だけではない。霊気の動きを辿ってみると、あの少女と例の巫女の近くにもいた。巫女と少し重なっているようだ。法術の鍛練をしている精霊達の近くにもいた。一体いくつの分け身を操れるのだ。体をまとい稽古をし、巫女に入って稽古をし、精霊達に法術まで教えている。その全てを同時に行っている。
イクノブ家の巫女と稽古を行っている分け身にそれほどの強さは感じぬ。だが本気を出しているようにも見えぬ。例の巫女に入っている分け身は奥伝ぐらいの力を出している。だがこれも巫女と少女に合わせているのかもしれぬ。法術を教えている分け身は何をしているのか見当さえ付かぬ。全ての力を合わせれば皆伝ぐらいか。だがそれでは自分と同じだ。あの強い魔人には届かぬ。
見ているうちにイクノブ家の巫女の力が上がった。どうやら稽古を厳しいものに変えたようだ。そのとき件の精霊の力がほんの少し上がった。ほんのわずかだ。だが非常に慎重に上げたように感じられた。まるで大きな樽いっぱいに入っている水を、小さな器に注ぐかのようだった。イクノブ家の巫女の力がまた上がった。どうやら件の精霊がうまく育てているらしい。教え方を見ても、ある程度の力はわかる。
その後イクノブ家の巫女は奥伝ぐらいの力に上がった。こんな短い間で中伝を奥伝に育てられる者は奥伝以上の者だ。件の精霊の力は皆伝はあるのだろう。だがまだ底は見えぬ。もしかして、その上やもしれぬ。可能性はある。だがどの技が優れているのかはわからぬ。体術と小太刀、剣術と法術を同時にこなしている。まさか全てが皆伝以上いうことはあるまい。
イクノブ家の巫女の力がまた上がった。今日一日でどれ程変わるつもりなのだ。見るとイクノブ家の巫女は、体術と小太刀をうまく混ぜている。その力が瞬く間に上がっていっている。自分よりはるかに格上の相手にうまく指導されると、驚く程伸びることがある。イクノブ家の巫女は「今」がその時期なのだろう。
良い師に恵まれたな。十分な鍛練を積み、良い師に恵まれ、時が合えばこういうこともある。鍛練だけでなく修羅場もくぐったに違いない。自分にもそんなことがあった気がする。しばらく見てみるか。イクノブ家の巫女ほどではないが、他の者の力も上がっている。他の者の力も合わせれば自分を超えるやもしれぬ。
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ヒトミを驚かすことができた。一回だけだけど。それでも、これで一歩近付いたわよ。
──ミッちゃん?
──心配させてしまったわね、ごめんシノ。
──ううん、怪我をしていないことは私も確かめたから。
──そう。ありがとう、シノ。
──ミッちゃんが急に強くなったことに、みんな驚いていたよ。
──いいえ、まだまだよ。
──ヒトミ様はそんなに強いのかな。
──そうね、信じられないぐらいの鍛練を積んでいるわ。
──でもヒトミ様はとてもお優しいよ。
──ええ、わかっているわ。ヒトミは優しすぎるのよ。
──うん。
──だからヒトミの手助けをできるぐらいには、二人とも強くなっておくわよ。
──うん、わかった。私もがんばる。
ヒトミを驚かすことはできた。ヒトミは布を緩めて体で私の攻撃を受けてくれた。私が実感できるようにしてくれたんだわ。本当、嫌になるぐらい。待ってなさいよ、必ず追い付いてやるんだから。
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──や、やりすぎたカシラ。
──うーん、どうだろう。
──ゲ、ゲーマー魂に火がついてしまったのですワ。
──ゲーマー?
──育成シミュレーションですワ。
──育成ってなにかな。
──ひ、人を強くすることでしてヨ。
──それは伝わってくるよ。でもそれ以外の感じもするかな。
──き、気のせいですワ。
──他の人のことは、あまり見て欲しくないかな。
──私にとっての一番目はフタバさんに決まっていますワ!
──ふふ、ありがとヒトミ。今から優しくしてくれるかな。
──も、もちろんですワ。
──うん。じゃあ、お願いね。
フタバが身を寄せてきたので、そのまま優しく包み込んだ。健全な耳そうじですワ。
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「そろそろ近場を探索しましょう」
装備も整って来たので、実際に使って慣れてもらうことにした。
「私はそれで良いかしら」
「うん」
「そうね。力も付いてきたし、実戦で試したかったところよ」
「ヒトミさま。どのように分けますか」
うーん、どうしようか。フタバ、イノカ、ミツエは実戦もしたいだろう。シノハとムツミは後衛向きだと思う。私が間に入って、何かあればフォローすれば良いかな。通信が届くのは今のところ1kmぐらいだ。みんなが経路のあつかいに慣れればもっと延ばせると思う。中継用のドローンを多めに浮かべれば通信距離も延びる。必要があればそうする。シノハとムツミも森の外に出て、近場の探索の間に装備と外での使い方に慣れてもらう。危険そうなときは下がってもらうつもりだ。
「シノハとムツミはドローンで魔物を探してください。魔物が見付かれば、その場所をみんなに教えてください」
「はい、ヒトミさま」
「うん」
シノハは五機、ムツミは三機のトリ型ドローンを同時に扱えるようになった。魔物を見付けたら、地図に印を付けた画像データを送ることもできる。ドローンとは通信でデータの送受信を行う。コマンドを伝えて動かし映像データを送ってもらう。シノハとムツミはコマンドの入力やデータの受信に慣れている。扱うドローンの数を減らせば、もう少し遠くでも動かせる。ドローンを使って周りのナノマシーンにコマンドを送ることもできる。慣れればドローンから風も送れるようになると思う。
「魔物の位置がわかったら、三人で倒しに行ってください」
「ええ、ヒトミ様」
「わかったわ」
「ヒトミはどうするのかな」
「私は二人の護衛と何かあったときのフォローをします」
最初はこれでやってみよう。
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「北東の岩陰に魔物が何匹かいます」
「うん」
「ええ、わかったかしら」
「じゃあ、行くわよ」
「はい」
シノハとムツミが画像データを送ってくれた。魔物の大まかな特徴までそえられている。地図データに重ねているので場所もわかりやすい。データは全員が受信している。イノカ、ミツエ、フタバの三人がそちらへ向かう。私はドローンを使いそのようすを見る。
「触れただけで魔物が消えたかしら」
「これが霊刀の力なの?」
「神刀はもっとすごいですよ、ミツエ様」
霊刀で触れると魔物が消えたように見える。魔核があると効果が薄れてしまう。神刀であれば魔核ごと霊気に変えることもできる。
「そこから西の森の中に魔獣がいます」
「うん」
次は魔獣だった。前衛の三人がすぐに向かう。
「ずいぶんあっさり倒せたかしら」
「これじゃあ鍛練にならいわよ」
「それだけ強くなったのです」
今回は霊刀を使ってもらっている。魔核が少し大きくても三太刀ぐらいで倒せる。みんなの実力が上がったこともあり歯応えを感じなかったようだ。爪や牙が魔核になる魔獣は滅多に出ない。あの禍々しいトラの魔獣なら、数十年に一度ぐらいだと思う。
「今のところ近くにはいません」
「うん」
うーん。装備には慣れてもらえたと思う。ただこのままでは練習相手がいない。ツカハラ家の近くか、北の山脈の上の方へでも行ってみるか。みんなと相談してみよう。




