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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
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第十六話 ミツエの成長


 □■□□


 ムツミ様が少しお話をされた。ヒトミ様が霊気で菓子を作りムツミ様に渡された。私もいただけた。甘酸っぱい! こんな菓子は初めて。データももらえた。後でミッちゃんと食べたいな。ミッちゃんは剣術の稽古をしている。普段より一生懸命みたい。ときどきミッちゃんの意識が途切れそうになる。ヒトミ様がお体をまといミッちゃんに付いてくれている。ミッちゃんの意識が途切れそうになるたびにヒトミ様が治療されているみたい。ヒトミ様はいつもお優しい。


 ──シ、シノ、そっちは平気?

 ──うん、へいきだよ。どうしたのかな?


 ──な、何でもないわ。ちょっと稽古が激しくなったぐらいよ。

 ──そうなんだ。がんばって、ミッちゃん。


 ──そ、そうね。やるしかないのよね。

 ──またヒトミ様においしい菓子をもらえたから、後で一緒に食べようね。


 ──そ、そう。シノが無事で良かったわ。

 ──ミッちゃん?


 ──いいえ、何でもないわ。シノもがんばって。

 ──うん、私もがんばる。


 私とミッちゃんの心でお話をする速さが上がった。そのときヒトミ様はとても慎重に様子を見られていた。いつも以上に優しく見ていてくださっていた。



 □■□□


『では次に、カメラを作ってみましょう』


「カメラでしょうか、ヒトミさま」

「うーん?」


『ええ、ドローンから見える光景を、離れていても見えるようにしたいのです』


「そのようなことができるのですか」

「うん?」


『ドローンが見た光景が、通信で伝わってくるようにしたいと思っています』


「通信でですか。わかりました、ヒトミさま」

「うん」


 通信を使えば離れていてもお話ができる。それを使って、ドローンが見た印象を伝えようとされているみたい。大きなドローンは鳥のような姿になった。トビのように羽ばたくことなく飛び続けられるようになった。そこにカメラを付けるみたい。


『レンズを作ってみましょう。データを渡します』


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 私とムツミ様はたくさんのデータと知識をヒトミ様からいただいている。データを受け取るためムツミ様と道を合わせる。レンズのデータが道を伝って二人に届いた。透明なものを丸くするみたい。丸くするだけなら私でもできるかな。


 透明なものはヒトミ様があらかじめ置いておられた。私とムツミ様ではまだ作ることはできない。窓にも使われているプラスチックというものみたい。黒いプラスチックもある。私たちは透明なプラスチックをデータ通りの形にしていく。レンズのデータは何種類もあった。一つずつ丁寧に作っていく。


『とてもキレイに仕上げてくれましたね。これならそのまま使えそうです』


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 ヒトミ様に褒めていただけたので嬉しくなる。ムツミ様もおんなじみたい。


『霊気の光を感じるところはわかりますか』


「はい、わかります」

「うん」


『ではそれを上にして、なるべくそろうように、ここに並べてみてください』


「はい、やってみます」

「うん」


 ヒトミ様が指されたのは先ほどレンズと一緒に作った黒い小さな板だった。私とムツミ様はその板の上に、光を感じ取る部分を上にして、霊気を丁寧に並べていく。


『とても丁寧に仕上げてくれましたね。これもそのまま使えそうです』


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 また褒めていただけた。嬉しい気持ちが増える。


『では今からレンズと板を取り付ける筒のデータを送ります。それを作ってくれますか。そこにレンズと板を取り付ければカメラができます』


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 ムツミ様と道をつないでデータを受け取る。筒は黒いプラスチックで半分ずつ作り、レンズと板を取り付けられるようになっている。レンズと板を取り付けたら半分ずつの筒を合わせるみたい。私とムツミ様で半分ずつを丁寧に作る。できた半分にレンズと板を取り付ける。データの中にレンズの並べ方もあった。順番通り取り付けることもできたと思う。ムツミ様が作られた半分を上から重ねる。レンズがずれないように慎重に行う。ピッタリ重なった。重なった部分が外れないように霊気でくっ付けておく。


『とても素晴らしいできばえです。筒の中の霊気からの信号を受け取れますか』


「はい。⋯⋯景色がとてもキレイに伝わってきます」

「う、うん」


 ヒトミ様が言われた通り霊気の信号を受け取ると、目で直接見るのと同じ、いや、それよりも詳しく遠くまで見ることができた。普段の霊気の信号は明るいか暗いかぐらいしかわからない。それがとても鮮やかな景色になった。遠くまでよく見える。


『それがカメラというものです。これで遠くのものも見分けられます。二人がとても丁寧に仕上げてくれたので、ここまでキレイに見られるようになりました』


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 これがあれば遠くの魔獣や魔人も見付けることができる。ミッちゃんや他の人も対応しやすくなる。通信と大きなドローンを使えば、もっと広い範囲も見えると思う。ヒトミ様は最初からそのおつもりだったのだと思う。ヒトミ様はいつも私たちのことを考えてくださっている。本当にお優しい。カメラを上手に作れたからと言って、また菓子をいただけた。とても甘くてヒトミ様みたいに優しい味だった。



 □□■■


 ヒトミが鬼みたいに思えた。いいえ、違うわね。これだけの力がありながら、普段それを全く感じさせない。どれだけ周りの人を大切にしているのよ。ツカハラ家当主の話をしてから、ヒトミが「少し」力を込めた気配を感じたわ。それだけで私の意識は何度も刈り取られそうになった。ヒトミはこれでもずいぶん加減をしてくれているみたいだわ。もし本気で法術も使えば、この森ぐらいなら簡単に吹き飛びそうだ。


 それだけヒトミは強い。


 うっかり力を込めただけで、周りの人が怪我をしてしまうぐらい。でもヒトミは誰も傷付けない。それどころかそばにいてくれるだけでみんな安心する。もし私が同じぐらい強かったら、イクノブ家の人を大勢傷付けてしまったと思う。シノの緩みが治らないと言われたときには、多分そうなっていた。学園でもイノカやフタバとの稽古中に、つい力を込めてしまったことなんていくらでもあるわよ。


 ヒトミはそれさえしない。いえ、多分できないんだわ。優しすぎるのよ、ヒトミは。この調子だと魔人でさえ助けかねない。ああもう、わかったわよ。私とシノがその分強くなれば良いんでしょ。とりあえず、この稽古を乗りきってやるわ。小さな目標だけど、まずはこの一歩をやりとげる。いずれ必ず追い付いてやるんだから、待ってなさいよ。



 □□□□


 ミツエの気配が変わった。練習が始まるとき、極伝のヨシヒデさんを目標にすると言っていた。私はほんの少しいつもよりレベルを上げてみた。ミツエは元々体術に長けている。剣術もやりたいとのことだった。小刀ではなく小太刀の木刀を使ってもらっている。


 いきなり太刀の長さにする前に、慣れてもらうためだ。両手持ちの方が良いが、小太刀なら片手で扱うこともできる。体術と組み合わせるなら太刀より小太刀の方が良いと思う。小太刀で慣れたあとはそのままでも良いし、太刀に変えても良い。ミツエに合う方を選んでもらうつもりだ。


 極伝に興味があるようだった。さばくときの反らしや打ち込む力を少し強くした。これ以上強くすると怪我をするかもしれない。ミツエにとっては強すぎたようだった。何度か意識を飛ばしかけていた。そろそろやめようと思ったときに、ミツエの気配が変わった。動きも変わった。剣術はまだ基本しか教えていない。


 その剣術と体術が、カチリと組合わさった。ミツエの剣をさばくたびに手足が飛んでくる。こちらの打ち込みを受けながら肘や膝をカウンター気味に返してくる。ミツエは「今」伸びている。ふふ、楽しくなってきた。ここでやめるのはもったいない。もうひと伸びすればイノカやフタバと並ぶ。ミツエに怪我をさせないように気を付けながら、もう少し力を込める。動きも速くする。


 対応してきた!


 人が成長するときはそれぞれのタイミングがある。私のようにデバッグとテストプレイをやりすぎると、成長する楽しみも減ってしまう。自分が成長できなくても、相手が成長してくれるのは嬉しい。ある種の育成シミュレーションだ。久し振りにゲーマーの血が騒ぐのを感じる。ミツエを伸ばすにはどうするのが一番良いのだろう。体術と剣術の連携はできている。剣術がまだ弱いか。なら剣術を使いやすいように受けていこう。体術は起こりを抑えて、剣術の技に集中してもらう。


 体術が抑え切れない!


 剣術の動きの中に体術の動きを混ぜて、両方で攻撃してくる。剣術は習いたてでまだ未熟だが体術のフォローでそれが感じられない。ならこのまま伸ばす。両方の動きや繋ぎがよくなるように受ける。以前のようにさばく方向を誘導する余裕もない。しばらく何合か受けているときにそれが起こった。


 エンヒ!?


 私が復元に協力した小太刀の技だ。教えてもいない。見せてもいない。ミツエはそれを使った。正確には細かい動きは違う。だが本質は同じだ。おそらく練習の中で編み出したのだろう。ミツエの小太刀は私のアバターの腹部を貫いていた。ミツエの集大成とも言える技だ。ボディーアーマーは緩めた。しっかりこの身で受けたかった。


 とうとう限界になったのか、ミツエが倒れる。私はミツエを風で包み、怪我をさせないようにした。そのままシノハにも手伝ってもらって、コテージの部屋へ運ぶ。ミツエの寝顔は満ち足りていた。


挿絵(By みてみん)

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