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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
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第十五話 三日で極伝


 □□□□


 防具がある程度そろった。剣術や体術の練習が始まる。


「ヒトミはツカハラ家に縁があるのよね」

「ええ、その通りです」


 体術の練習のときミツエが聞いてきた。私が「外の世界」から来ていることは、インナーボディーアーマーを配る前の日にみんなに話している。経路を使った通信を使うとイメージもいくらか伝えやすい。この世界であまり使われない言葉を使うときは、イメージも一緒に送っている。フタバ以外ではシノハとムツミも少し慣れてきたと思う。


「ツカハラ家の当主は強いと聞いたわ」

「フタバの父親のヨシヒデさんのことですか」


「そう、確かそんな名前だったわ」

「剣は極伝で実戦経験も豊富です」


「ヒトミは戦ったことがあるの?」

「ええ、一度剣の手合わせをしています」


「どれだけ強かったの?」

「剣に限ると、私とほとんど同じです」


「えっ! ヒトミと同じ?」

「ええ、私は他流も使えるので何とか勝てました。何度か試合を行うと負けることもあると思います」


「ヒトミの剣はイノカより強いのよね?」

「ええ、今のところはですが」


「やっぱり私じゃ⋯⋯いえ、いつかは届いてやるわ」

「ええ、技だけなら今からでもいずれ届くと思います」


「技だけ? ほかに何が必要なのよ」

「実戦経験です。こればかりは時間がかかります」


「そうね、そればかりはね。じゃあ技だけでも教えてくれる?」

「どのくらいのペースで教えますか」


「ペース? ああ、時のことね。なるべく早い方が良いわ」

「では三日ぐらいにしますか。少し体に負担がかかるので、おすすめできませんが」


「み、三日? 私はまだ中伝よ、少しの負担どころじゃないでしょ!」


「私とシノハで治療しながら、食事や睡眠を取らない程度です。疲労や骨折もすぐに治します。死線は何度かくぐるかもしれません。すぐに蘇生するので大丈夫ですよ」


「全然大丈夫そうに聞こえないわよ!」


「よく考えればそうですね。データではないので、さすがに三日ですべての技は伝えられません。同じことを十日か二十日続ければ、技の一部は身に付くと思います」


「そんなに長くなったら、シノも危ないじゃない!」

「では、いまより少しペースを上げますか」


「ほ、本当に少しよ」

「はい、一度も死なない程度にします」


「⋯⋯わかったわよ! それでお願いするわ!」



 □□□□


「この靴も良い感じかしら」

「トレッキングシューズと言います」


 剣術組のイノカとフタバには、軽量の登山靴を履いてもらっている。撥水効果を使った防水機能も付いている。通気性を優先することもできる。


「足場が悪くても踏みしめられそうかしら」

「すり足もできるようにしています」


 靴のゴム底は普段は地面をつかみやすくしている。すり足のときだけ一部が滑りやすくなる。布は同じものを使い衝撃吸収ゲルを多くしている。甲や爪先には固くて軽いプレートを埋め込んでいる。一度履くと脱げにくくなる。逆に脱ぐときは緩む。全体の動きはプログラムで制御している。手首までグローブみたいなものでおおい、手の外側は動きを妨げないようにプレートを付けた。内側の一部は薄くし、素手で握るのと近い感覚になるようにしておいた。


「じゃあ、今日もお願いするかしら」

「はい、わかりました」


 二人で木刀を構えて対峙する。イノカは一人で練習していた時間が長い。攻撃はかなりのレベルになる。防御は苦手みたいだった。イノカが打ち込んで来た。さばきながら反撃する。しっかり受けられた。以前のイノカはここまで反応できなかった。こちらから打ち込む。小手打ちでイノカの木刀を反らして振りかぶる。面を打つ動作から、抜き胴に変える。これも受けられた。


「イノカ、守りがずいぶん上達しましたね」

「ヒトミ様とフタバのおかげかしら。それに頭に着けているこれのおかげで、頭の守りを意識しすぎないのも良いかしら」


 頭にはカチューシャのようなものがある。


 ヘッドバンドや首周りと同じように、展開してヘルメットにもなる。それ以外に周りのナノマシーンを使って、自動的に頭部や顔をまもる風を作るようにしている。ある程度衝撃は伝わる。防御を装備に頼りきるのも危ないと思う。普段はしっかり防いでもらう。カチューシャは補助ぐらいに思うよう伝えている。カチューシャに各種のケモ耳を生やすこともできる。こちらはみんなにも内緒だ。



 □□□□


「ヒトミさま、大きくすると飛ばしにくくなります」

「うん」


『先ずは飛ばしやすい大きさで良いですよ』


 シノハとムツミにドローンを大きくしてもらっている。ナノマシーンは小さいから浮かせやすい。小さなドローンも同じだ。大きなドローンにすると動かすのに大量のエネルギーが必要になる。ナノマシーンは疑似葉緑体で作るデンプンと光電素子で作る電気エネルギーがたくわえられている。一つ一つは微量のエネルギーしかたくわえられない。小さなドローンは動かせる。大きなドローンになると厳しい。


 うーん、コテージみたいに光電素子を並べようか。コテージのエネルギーは光電素子を並べソーラーパネルのようにしている。電化製品がない世界なので普段はそれで足りる。コテージ全体の温度管理や照明なら間に合う。シノハとムツミに作ってもらうドローンは電子機器を積載してもらう予定だ。浮遊にエネルギーを使う余裕はあまりない。明るいときにしか使えないけど光電素子を並べれば足りると思う。


「ヒトミさま、飛行船のようにはできませんか」

「うん」


『できると思います。もっと軽い気体にできれば効率がよくなると思いますが』


「軽い気体ですか。水素というものはどうでしょう」

「うん」


 シノハとムツミにデータを渡すとき知識も伝えている。ある程度のことは知っている。飛行船を作るときシノハとムツミの顔色がよくなかった。水素の可燃性を危惧したのだと思う。飛行船はヘリウムの気のうで浮かんでいる。人が乗るので安全性を優先した。無人のドローンなら水素で良いかもしれない。更に大きくして乗り物にすることも考えている。そのときはヘリウムを使おう。


『わかりました。それでやってみましょう』


 シノハとムツミがやる気になっている。水を差すようなことはしない。熱電素子で空気中の水分を凝結させる。地中から塩化ナトリウムを抽出し薄い食塩水を作り陶器に入れる。陶器に炭素電極を取り付ける。ナノマシーンを直列につなぎ3V弱の電圧をかける。ナノマシーンにたくわえられている電気エネルギーがなくなると、交代するように設定しておく。シノハとムツミにデータを渡し、同じものを作ってもらう。食塩水の電気分解なので水素と塩素が発生する。塩素は風で飛ばし水素だけを集める。


「匂いのある気体が出てきます」

「うん」


『そちらは吸わないようにし、人のいない方へ風で飛ばしてください』


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 塩素ガスは危険だ。空気で希釈してから生き物のいない方へ風で飛ばした。水素は一度陶器の入れ物で集める。水上置換という集め方をする。一つの装置では集まる量も少ない。シノハとムツミにも手伝ってもらい、多くの装置を作る。塩素の発生が終わった。食塩水が水酸化ナトリウム水溶液になったようだ。塩素の代わりに酸素の発生が始まる。電圧を少し下げる。発生した酸素も集めておく。水酸化ナトリウムも残しておく。水をつぎ足せば水素と酸素が作れる。


 水素が集まってきた。気のうに充填していく。一つの気のうの直径は10cmぐらいにしておく。いくつも作りドローンの中に入れる。少し浮力が得られた。完全に浮かぶわけではない。浮力に回すエネルギーの一部を別のことに使えるようになった。ついでにドローンの形も変えておく。


「鳥でしょうか、ヒトミさま」

「さか、な?」


『色々試してみましょう』


 トリ型やイルカ型も作る。エネルギーに余裕があれば羽ばたかせれても良い。グライダー型が一番安定しそうだ。索敵や周囲の警戒を任せるつもりだ。しゃべってくれたので、お菓子を作ってムツミ渡す。シノハも欲しそうにしていた。シノハにも渡す。ラムネ菓子にした。

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