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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
76/365

第十四話 探索の準備


 □□□□


「ドローンですか、ヒトミさま」

「うーん」


「ええ、なるべく大きいものです」


「大きいものかしら」

「何か考えがあるようね」


 ここはコテージのリビング。探索方針についての話が続いている。私は皮を被るのはやめた。よく考えてみたらミツエとイノカ以外とは普通に話すことも多かった。少し上品な話し方になってしまうのは、元々私が上品だからだ。本当ですワ。


「シノハとムツミなら、霊気を動かすとき、いくつかの霊気を組み合わせて動きやすくしているのがわかりますか」


「わかります、ヒトミさま」

「うん」


「それを大きくして動かす練習をして欲しいのです」


「大きくして動かせば良いのですか」

「うん」


「最初はそうです。そのうち色々やってもらうつもりです」


「わかりました、ヒトミさま」

「うんうん」


「ヒトミ、私たちはどうすれば良いのかな」


「風以外の防具と装備に慣れて欲しいと考えています」


「装備かしら」

「そうね、防具はわかるけど、どんな装備なのよ」


「先ずは通信です。ミツエとイノカの経路も繋いでおきたいと思います」


「ムツミにしてくださったようなことかしら」

「私はシノのように法術が得意じゃないわよ」


「法術は使えなくても構いません。装備を扱いやすいようにしておきたいのです」


「ヒトミさま。コマンドの入力でしょうか」

「うん?」


「コマンドかしら」

「シノならできるでしょうけど」


「イノカ様、ミツエ様。私もできるようになりました」


「ええっ、フタバもかしら」

「フタバにできるのなら、私たちにも可能性はあるわね」


「両手を空けたまま、色々なことをできるようになってもらいたいのです」


「手がふさがらないのは、ありがたいかしら」

「そうね、攻撃力を下げたくないわ」


「それらの練習を兼ねて、最初は近いところの探索に絞ってもらいたいと思います。慣れれば離れていても通信が届きます」


「そういうことなら私は構わないかしら」

「そうね、私もそれでいいわ」


「もとよりヒトミさまのお望みでしたら、その通りにします」

「うん」


「ヒトミ、稽古は続けるのかな」


「ええ、そのつもりです。みんなにはできるだけ強くなって欲しいのです」


 大まかな方向はこれで良いと思う。これでみんなで新しいせか⋯⋯ フタバさんから剣気が飛んできた。言い切っていませんワ、心の中でも途中ですワ!



 □□□□


『これで通じているのかしら』

『聞こえているわ、イノカ』


『はい、こちらでも聞こえています。イノカ様』

『うん』


『離れているのに全員で会話できるのは不思議な感じかな』

『会話以外も慣れればやってもらうつもりです』


 通信装置はヘッドバンドに付けることにした。ミツエとイノカの経路も許可を得てから繋いだ。音声での通信も一応できる。信号の伝達は電波にした。中継用のドローンを複数浮かべている。ナノマシーンで作った糸を使って有線接続もできるようにしておく。信号を圧縮して順に発信する。圧縮と展開は通信装置に任せる。一つの帯域で通信可能だ。通信装置との情報のやり取りは経路を使うように設定しておく。普通の会話と同じ感覚でできる。コマンドでオンとオフもできるようにしておいた。慣れれば画像情報のやり取りもできる。



 □□□□


「次は防具の説明に移りたいと思います。先ずは服をすべて脱いでくださ、い。も、もちろん、あ、後で、部屋に帰ってからですワ!」


 フタバさんから剣気が飛んで来たので我に返った。インナー用の繊維ボディーアーマーですワ。下に固いものがあると危ないからですワ。昔ある国は連邦警察の婦人警官に「特殊安全ブラ」というものを配布しましたワ。防弾チョッキの下に金具付きの下着があると、そこに衝撃が集中し怪我をすることもあるそうですワ。


 ──ふふ、ヒトミ?

 ──み、みんなの安全のためですワ。


 ──ここで着替える必要があるのかな。

 ──せ、説明、しながらと思ったのですワ。


 ──防弾チョッキって何かな。

 ──と、飛んでくる固いものから体を守るものですワ。


 ──魔人がそんな攻撃をするのかな。

 ──ね、念のためですワ。


「これに着替えれば良いのかしら」

「変わった素材ね」


「すごく丁寧に編まれています」

「うん」


「い、一度、部屋に帰ってから着替えてください」


「一度帰るのも面倒かしら」

「そうね。さっさと着替えるわよ、シノ」


「はい、ミッちゃん」

「うん」


「じゃあ、私も着替えようかな」


 みんなが服を脱ぎ始める。私も服をほどき自分の分を身にまとう。


「固いものをその服の内側に入れないようにしてください。柔らかい布なら大丈夫だと思います」


「あら、ぴったりかしら」

「それに、動きやすいわね」


「とても薄くて軽いです」

「うん」


 ──どうして、全員ぴったりなのかな。

 ──そ、その方が安全だからですワ。


 ──みんな、スケスケだよ。

 ──こ、これから、説明しますワ。


「さ、先ほどの通信のように服に向けて色のイメージを伝えてみてください。何色でも構いません」


「えっ、色が変わったかしら」

「本当だわ」


「温度も調節できます」


「涼しくなりました、ヒトミさま」

「うん」


 ──ヒトミ、これは防具なのかな。

 ──い、今から説明しますワ。


「で、では。その上に普段の服を着てください」


 みんなが服を身に付ける。ようやく視覚データが入ってくる。フタバさんが見ることを許してくれた。惜しかったとか思っていませんワ、本当ですワ。


挿絵(By みてみん)


 □□□□


「では防具としての説明をします」


 何本かの木を用意する。斬りやすい高さで横に並べて固定する。そのうちの一本に同じ素材の布を巻き付ける。


「イノカ、この木を斬ってもらえますか」

「はい、ヒトミ様」


 何も巻かれていない木をイノカがあっさり斬る。さすが奥伝レベルだ。


「では次に、こちらをお願いします。布のところを斬ってみてください」

「はい」


 イノカが同じように打ち下ろす。


「えっ、斬れない」


「布の巻かれていない部分を斬ってみてください」


「⋯⋯斬れたかしら」


 次の木に布を巻き付ける。間に小石をはさむ。


「今度は小石で膨らんでいるところを斬ってください」

「⋯⋯はい、ヒトミ様」


 イノカの太刀が正確に小石に当たる。布は切れなかったが小石に伝わった衝撃で木が折れる。ミツエとフタバにも同じことをしてもらう。身に着ける人が布の性質を知っておいた方が良い。


「衝撃が糸を伝って広がっているように見えます」

「ええ。その通りです、シノハ」


 布はカーボンナノチューブと超高分子量ポリエチレンを編んで作った。肘のように固い部分や腹部の外側には超硬度ナノチューブを、内側には衝撃吸収ゲルの薄い層を取り付けた。軽量化にはこだわった。伸縮性と通気性も持たせた。色や温度の変化はナノマシーンで行う。汗や老廃物も分解するように設定している。内側の質感は絹を真似ている。


 布の繊維は衝撃に強いが衝撃をなくすものではない。繊維を伝って分散させている。その下に固いものがあると衝撃が分散せず集中してしまうことがある。衝撃を受けて切れてしまった分はナノマシーンで修復する。すぐに修復できるわけではない。同じ場所に連続した衝撃を受けると弱い。ミツエがそのことに気付いたようだ。


「同じ場所を何度も刺すと、たまに破れるわ」

「ええ、攻撃を受けるとき、可能であれば違う場所で受けてください。布の力が戻るのに少し時がかかります」


「それでもすごいかしら」

「そうね、そう何度も狙った場所に刺せないわよ」


 手甲やソックスも同じ素材を使った。軽量で丈夫なものにしておく。ヘッドバンドも同様だ。服の外に付ける部分は超硬度ナノチューブと衝撃吸収ゲルの層を厚めにしている。インナーの上から身に着けてもらう他の防具も同様に強化している。外に出るときや稽古のときは、小手や胴当てなどのプロテクター類も装備してもらう予定だ。


 インナーや防具の見た目は普通のものとあまり変わらないように調節できる。コマンド入力で図柄や色合いも変えられる。首周りやヘッドバンドが展開しヘルメットにもなる。インナーは動きを妨げないように薄く作った。手足も覆っている。成長に合わせて自動的に調整する。体のラインを見たかったわけではない。レオタードに似ているのは偶然だ。一番苦労したのは、性能を保ったままスケスケにすることだった。

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