第十三話 仲間
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──ココをコウするのですワ。
──えっ、だいじょうぶかな。
──次は、ココをコウですワ。
──ちょっとくすぐったいよ、ヒトミ。
──それで構いませんワ。
──あっ、何か感じてきちゃったかな。
──ええ、続けますわヨ!
──う、うん。優しくしてね。
──当然ですワ!
──えっ、こんなの初めて。
私はフタバさんの経路を繋いでいる。ナノマシーンにコマンドを送りやすくする道だ。経路を使うと、自分の中のナノマシーンを使わずに外のものを操作できるようになる。シノハやムツミにも同じ処置をしている。経路を使ってコマンドやプログラムを送ることに二人は慣れてきている。二人で経路を繋ぎデータのやり取りまでできる。フタバさんの希望もあったので、経路を繋いでコマンドを送る練習をしているところだ。フタバさんも少し外のナノマシーンを動かせるようになった。
──うわあ、体の外の霊気を初めて動かせたよヒトミ。
──慣れれば、もっとイロイロできますワ。
──うん、ありがとヒトミ。鍛練してみるよ。
──そのうちお菓子も作れるようになりますワ。
──シノハちゃんやムツミ様みたいにかな。
──私もお手伝いしますワ。
──ふふ、ありがとヒトミ。
──フタバさんのためなら頑張りますワ!
この世界で法術を使う巫女や精霊は、まず自分の体内にあるナノマシーンにコマンドを伝える。それが体外のナノマシーンに伝わって法術となる。
精霊は薄い影のような状態から月日をかけて徐々に体をまとっていく。自分の体がナノマシーンでできていることがわかる。ナノマシーンのことにも詳しくなる。まわりのナノマシーンからの情報も拾いやすくなる。やがてその情報を無視できなくなる。世界を構成するシステムの一部なってしまう。精霊が自分のナノマシーンを使い尽くしても同じ状態になる。この世界の人々はそれを「還る」と呼んでいる。
⋯⋯魔人はどうなのだろう。
魔物や魔人の体を作るバグのあるナノマシーンのことは瘴気と呼ばれる。バグなのでデータもバラバラだ。そのままでは体を構成することも難しい。魔物や魔人の中にはバグのあるハイブリッド・ナノマシーンの集まりがある。魔核と呼ばれている。ハイブリッドが他のナノマシーンに与える影響は大きい。魔核があれば瘴気で体を保つことが可能なのだろう。北の山脈の奥には強い魔核を持つ魔物がいるらしい。
山脈の奥まで行かなくてもバグのあるハイブリッドなら手に入る。魔物や魔獣を倒しても良い。空気中にもわずかに漂っている。この世界の生き物はツグミさん達のおかげで、世代ごとに侵食に対する耐性は強くなっている。空気中に漂っているぐらいの量なら触れても侵食されない。あの禍々しい魔獣は近付いただけで侵食されてしまった。研究施設の魔獣はそこまで強くはなかった。
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「手分けをした方が良いのかしら」
「うーん?」
「相手は強いのでしょ。かたまっておいた方が良いと思うわ」
「はい。万が一のとき、すぐ手当てができる方が安心できます」
「ヒトミはどっちが良いと思うのかな」
コテージで二日ほど過ごし落ち着いてきた。周辺の探索を始めることになった。今はその方針を相談中だ。相手が弱い魔物や魔獣であれば、ムツミ以外は一人でも倒せると思う。ムツミに攻撃的な法術を教えるのはできるだけさけたい。ムツミの守りと治療はかなりのレベルに達したと思う。お菓子作りなら皆伝レベルだろう。かといって一人でお留守番も可哀想だと思う。
──ふふ、ヒトミはやっぱり優しいかな。
──そ、そうカシラ。
──精霊様だけどムツミ様はまだ小さいしね。
──うん、そうなんだよ。
他の人も魔人が相手だと一人では厳しいと思う。もっと強い魔人が出てくる可能性もある。その場合は全員でかかってもどうなるかわからない。みんなを危険な目にはあわせたくない。かといって放っておけば他に被害が出るかもしれない。イノカの目的も果たせない。このままみんなで練習して力を付け、魔人がでたら全員で倒しに行くのが理想的だ。もういっそのこと私一人で弱らせてから、みんなの前につれて来ようか。
「ヒトミ様が何か考え込んでいるかしら」
「うん」
「自分一人で危ないところを済ますつもりの気配を感じるわね」
「ヒトミさま?」
「ふふ、ヒトミ。みんなが許してくれないみたいかな」
「⋯⋯」
「ヒトミ様、これはオオエヤマ家の問題です。でも、お心遣いには感謝します。ありがとうございます、ヒトミ様」
「うん」
「そうよ。イクノブ家の問題でもあるわ」
「ヒトミさまはお優しすぎます。私たちにも手伝わせてください」
──私も置いていかれるのは、もうイヤなんだ。
──ごめん、フタバ。
──ふふ。じゃあ、みんなに言うことがあるんじゃないかな。
──うん、わかってる。
「⋯⋯私が浅はかでした、申し訳ありません。だからみんなで倒しましょう」
「はい、ヒトミ様」
「うん」
「そうよ一人で何もかもやろうとして欲しくないわ」
「ヒトミさま、私もご一緒します」
「うん。ごめんね、みんな」
なぜか皮を被ることができなかった。
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私の記憶は欠落している。特に家族と過ごした記憶はほとんどない。私は家族の中では一番年下で力もなかった。でもみんなで何かするとき、私だけ遠ざけられただろうか。役立たずの自分にも役割りがもらえたと思う。お兄ちゃんやお母さんとお父さんも心配そうに見ていた。ときどき手伝ってはもらえた。でも私の役割りは取らなかった。
みんなでできたときはとても嬉しかった。わたしだけが何も手伝わず完成品を見ただけなら、あんなに感動はしなかったと思う。自分の役割りが取られたら悲しかったと思う。私がやろうとしていたのは、そういうことなのだろうか。ここは実戦の世界だ。安全対策は可能な限り行う。シノハとムツミの治療レベルも上げよう。他の人にも強くなってもらう。そして、倒すときはみんなで倒すんだ。
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オオエヤマ家の里の近くに妙な場所ができた。他の森と繋がっていない小さな森だ。その森自体は普通の森だ。中に小さな川が流れ、果実や山菜が採れるぐらいでこれといった特徴はなかった。ある日の夕方、空から何かが近付いてきた。都では様々なものが作られていると聞く。自分がいない間にあれほどのものが作れるようになったのだろうか。
空からのものは乗り物らしく、中から数人の巫女と精霊がおりてきた。その中の二人に見覚えがあった。一人はあの少女だ。一人は例の巫女だ。自分を討ちに来たのか。見ると少女には幼い精霊が憑いていた。あのときの巫女だろうか。自分は内側から見ていた。幼い巫女の外見はほとんどわからぬ。だがあの二人は姉妹のようだった。今も二人は姉妹のように振る舞っている。
続いておりてきた二人はイクノブ家の者のようだった。まだ全部の記憶は戻っておらぬ。隣のイクノブ家の特徴は思い出せた。イクノブ家の二人も強い。足運びや体の動きであるていど技量がわかる。もう一人の方は法術を使うようだ。森の外まで霊気が届きそうなほど強い。
あの少女は強くなっていた。例の巫女も強くなっていた。おそらく奥伝ぐらいだ。初めて見たときは二人ともまだ弱かった。血のにじむような鍛練を行ったのだろう。自分を討つためやもしれぬ。だがまだ足りぬ。二人の技量は自分に届いてもいない。二人がかりでも自分が勝ってしまうだろう。自分でもまだ届いていないあの強い魔人には到底敵うまい。まだ討たれてやるわけにはいかぬ。
最後におりた精霊に目が奪われる。その者は白磁の肌に緑の黒髪。薄い緑をおびた霊気を漂わせていた。瞳の色は黒らしいが、ときどき緑をおびる。神秘的な所作と表情で天女と見間違うほどだ。
⋯⋯強さの底が見えぬ。
その者はごく自然に振る舞い、何の気も発せず他の者たちの中にいた。自分の力が今ほどなければ、おそらく気付けなかったであろう。どのくらい強いのかもわからぬ。法術なのか剣術なのかもわからぬ。強いのかすらないもわからぬ。自分はその一行をしばらく遠くから見ることにした。
これ以降のトウジ視点では、件の精霊がヒトミ、例の巫女がフタバ、あの少女がイノカ、幼い精霊がムツミとなります。分かりやすく書けず、すみません。




