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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
74/365

第十ニ話 はやく話したい


 □□□□


「学園から来た気がしないかしら」

「うーん」


「そうね、でも慣れている方が私はいいわ」

「はい、私もです。ミッちゃん」


 ここはオオエヤマ家の近くの森の中。森といって他の森と繋がっていない小さなものだ。直径が2kmぐらいになる。飛行船を使ったらそれほど時間がかからなかった。まだ夕方だ。地上だと真っ直ぐな道ばかりではない。途中から小さな山々もある。徒歩だと数日はかかるらしい。馬でも二日はかかると聞いた。馬車は徒歩より少し速いぐらいだ。飛行船は森の木で隠した。


 近くの木々をほどいて、稽古場と休憩所、コテージを作った。付近に人里はないので大きくすることもできた。リビングだけ少し大きくした。今から夕食になる。勝手のわかっているコテージとキッチンにしておいた。まわりが暗くなってきているから、わかりにくいけど稽古場も広くなっている。


 森全体にナノマシーンのネットとセンサーを仕掛けている。木々や下草の霊刀化もしている。魔物や魔獣は入ってこられない。ナノマシーンを調節して光や音が外に出ないようにしておいた。稽古場の上に枝葉で屋根も作っておいた。森への出入口は東西に一つずつ作った。木の門があり鍵もかかる。こっそり生体認証にしておいた。六人のうち誰が触っても鍵は開く。他の人では開かない。


「今からでも作り直しましょうか」


「いいえ、ヒトミ様。十分以上かしら。ありがとうございます」

「うんうん」


「私はこれがいいわ。ありがとうヒトミ」

「はい、私もです。ヒトミさま」


 ──もうちょっと違う感じにすれば良かったかな。

 ──ううん、これが良いかな。


 ──勝手がわかる方が良いと思ったんだ。

 ──うん、そうだね。ご飯の準備もしやすいかな。


 ──お風呂とお部屋も一緒でしてヨ。

 ──他の人のことを見たかったのかな。


 ──そ、そんなことはないカシラ。

 ──本当かなあ?


 ──本当ですワ、私はフタバさん一筋ですワ!

 ──ふふ、ありがとヒトミ。


「あら、明るくなっているかしら」

「うん」


「本当だわ。よく見えるわね」

「はい、いろいろな支度がしやすそうです」


「光や音は森の外に、もれないようにしておきました」


「光だけではなく音までかしら」

「うーん」


「ここは人里から離れているから、その方がありがたいわね」

「ヒトミさま、もしかしてカゴのようなものですか」


「はい。森全体を包みました。光や音は出ていきません。魔物や魔獣は入ってこられません」


「え、森全体かしら」

「うん?」


「結構広い森よ、大変だったんじゃなのヒトミ?」

「ミッちゃん、私は慣れてきたかな」


「ここは北の山脈に近いので、安全性を優先させました」


「そうだったのね、ありがとうヒトミ様」

「あり、がと」


「ヒトミの仕掛けなら安心だわ。いつもありがとうヒトミ」

「ヒトミさま、次は手伝わせてください」


『ふふ、じゃあ次からはお願いしますね。シノハ、ムツミ』

「はい、ヒトミさま」

「うん!」


 ──ヒトミ、私も手伝いたいな、ダメ?

 ──フタバさんがそばにいるだけで、私の性能が上がりますワ!


 ──ありがとヒトミ、でも私も役に立ちたいかな。

 ──わかりました。手取り足取り教えますワ。


 ──もうっ、ヒトミったら。

 ──もちろん法術のことでしてヨ!


 ──うん。お願いね。

 ──引き受けましたワ!



 □□□□


「ここも明るくしてくれたのかしら」

「巻き藁まで一緒ね、鍛練がしやすいわ」


 稽古場にも発光ダイオードの照明を付けた。暗いところも残している。夜間の戦闘もあるからだ。軽い食事をしたあと、みんなが練習をしたがった。飛行船では座り放しだったので、体を動かしたいとのことだ。練習を欠かしたくもないようだ。ミツエは剣術の練習も始めた。強くなりたいと言っていた。以前と違い張りつめている感じはしない。ミツエは体の動かし方が上手い。剣術も強くなれそうだ。


 アバターでミツエに剣術の形を教えたり、素振りをしてもらって少しずつ修正している。フタバの中に入りイノカとの稽古も行っている。シノハと通信を行って、ムツミにもデータを渡している。ムツミとの通信もできそうな感じはする。ムツミが話し方を思い出したら、非常時に備えて少し試してみるのも良いかもしれない。


 フタバ以外の巫女との通信はできそうな感じはしない。精霊がナノマシーンに詳しいことと関係があるのかもしれない。ムツミの精霊としての自覚を大きくしたくない。普段の通信はシノハと行うことにしている。



 □□□□


「ヒトミさま、お話を速く行うやり方を教えていただけませんか」


 法術の練習が始まるとき、シノハが聞いてきた。ムツミが先ほどしゃべってくれたときグミを渡した。グミを気に入ってくれたようなのでデータも渡した。いろいろな風味もそろえている。ムツミはグミの再現を練習中だ。シノハの希望を考えてみる。私とフタバの思考加速は私の演算処理で行っている。


 私の処理能力が大きいのは、神経網の一部にハイブリッド・ナノマシーンが使われているからだ。ミツエとシノハの体は全身がハイブリッドで上書きされている。可能性はある。ただむやみに体の構成は変えない方が良いと思う。前回は侵食されていたのでやむを得なかった。精霊が還るのも防ぎたかった。


『できるかもしれません。でも大きな変更はしない方が良いと思います』

「ほんの少しでも構いません。お願いします、ヒトミさま」


 すぐ元に戻せるようにしておけば大丈夫かもしれない。私とフタバの場合と同じぐらい、シノハとミツエにとって心の会話は重要だと思う。


『少しだけ試してみますか? もし気分が悪くなったりすれば、すぐに言うと約束してくれませんか』

「はい、お約束します。ヒトミさま」


『⋯⋯そう。では、自分の中の白くて強い霊気に集中してください』

「はい、ヒトミさま」


『以前と比べ、手足を動かす信号の速さは変わったでしょうか』

「少し速くなったような気がします」


 シノハとムツミに再現データを渡すとき知識も渡している。ある程度の理解はできる。治療しやすくなるよう人体のデータも渡している。


『じゃあ、次は頭の中の霊気に集中してください』

「頭の中でしょうか」


『ええ、できれば神経という部分が良いのですが』

「はい、ヒトミさま。やってみます」


『神経を伝わる信号の速さはどうでしょうか』

「少し速くなったような気がします」


『では、もう少しだけ速くしてみましょう。ここは私がやります』

「はい、ヒトミさま」


 シノハの希望は心の会話速度を上げることだ。実際に口を動かすわけではない。会話の理解に使われる側頭葉の神経網の一部を慎重に太くする。神経伝達速度も上がっているようだ。これで少し速くなると思う。他は触らないように注意する。元に戻せるようにもしておく。


『気分が悪くなったりはしていませんか。頭痛や耳鳴りはどうですか』

「はい、大丈夫です。ヒトミさま」


『目まいとかもしていませんか。正直に言ってくださいね、シノハ』

「平気です、ヒトミさま。心配してくださって、ありがとうございます」


『本当ですね? では、しばらく様子を見ましょう。何かあったらすぐに言ってください』

「はい、ヒトミさま」


 どうやらすぐに出る悪い影響はないようだ。二人にとっても心の会話は重要だと思う。悪影響が出ないのであれば、希望にはそいたい。シノハは約束してくれたが、軽い変調なら言わないかもしれない。しばらく詳細に観察する必要がありそうだ。いや、あくまで医療的な経過観察ですわヨ! 体調の観察をするのですワ! 体の詳細な観察はあとでコッソリ。


 ──コッソリ、何かな?

 ──こ、こっそり、医療的な観察ですワ!


 ──シノハちゃんの体をかな。

 ──え、ええ。シノハの体調ですワ!


 ──今日のお風呂で見えるようにしておく?

 ──えっ! いいの?


 ──体調を見るだけだよ。

 ──も、もちろんですワ!


 ──他の人をあまり見ちゃダメだよ。

 ──え、ええ。私の一番目はフタバさんですワ!


 ──ふふ、ありがとヒトミ。


 その日のお風呂では、シノハの神経網だけが見えた。フタバさんの剣気の扱いは日々上達しているようだ。

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