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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
72/365

第十話 操縦の練習


 □□□□


「広々としているかしら」

「う、うん」


「外もよく見えるわね」

「もっと見えるようになるよ、ミッちゃん」


 飛行船の中央左側に出入口がある。船首と船尾にも非常口を作っておいた。一番前には簡単な操縦装置がある。昔のゲーム機のコントローラに似たものを取り付けた。操縦装置は念のために作ったものだ。席も一人用の小さなものしかない。実際に動かすときは組み込み済みのプログラムにコマンドを送る。シノハやムツミでも動かせるようにしてある。


 船内の左側は通路にしている。右側に少し大きめの二人用シートを三列並べた。通路で二人が別れないようにした。通路をはさんで左側には手荷物を置ける棚も作った。景色が見やすいように棚は低くしている。後ろは荷物部屋にしている。簡易トイレや簡易ベッド、食料や飲み物もおいてある。


「手荷物はこちらに置いてください。大きな荷物は後ろの部屋でお願いします」


「もう荷物を置いても良いのかしら」

「う」


「馬がまだ繋がれていないわよ」

「お馬さんを繋ぐのは可哀想だよ、ミッちゃん」


「馬は使いません。もう席に着いていただいても構いませんよ」


「ヒトミ様の法術で動かしていただけるのかしら」

「う⋯⋯」


「法術ってそんなことまでできるの。すごいわね」

「できないと思うかな」


「シノハ様かムツミ様でも動かせるようにしておきました。他のみなさも簡単な操縦ならできるようにしております」


 ──ヒトミ、私でも動かせる?

 ──うん。動かしてみる?


 ──うん、したい!

 ──じゃあ、少し練習しておこうか。


 ──やり方を教えてね。

 ──ええ、ヤリ方を教えますワ!


「では少し動かす練習をしましょうか」


「ええ、お願いして良いかしら」

「うう⋯⋯」


「そうねえ、一応教えておいてくれる?」

「気をつけてね、ミッちゃん」


「さっきからムツミのようすがおかしいかしら」

「シノもだわ。本当に大丈夫なの?」


「うん⋯⋯」

「私はぜんぜんへっちゃらかな」


「では簡単にこの乗り物のことを説明いたします。これは飛行船と呼ばれます。飛行船は空を飛びます」


「えっ?」

「空を、飛ぶ?」


「うん」

「そうだよ、ミッちゃん」


「フタバが最初に練習をします。よろしければご覧になっていてください。他の方は着席をお願いします」


 フタバさんは操縦席に座り早くもコントローラを手にしていた。


 ──ねえ、ヒトミ。どうするのかな?

 ──これで上下に動かせるよ。


 ──こうかな? わあっ! 浮いたよヒトミ!

 ──ちょっと速いかな。まだみんな慣れていないからゆっくりの方が良いと思う。


 ──うん、ごめんヒトミ。

 ──ううん、気にしないで。最初に注意していなかった私が悪いのだから。


 ──ヒトミは悪くないと思うかな。

 ──ふふ、ありがとう。じゃあ次は前後だね。これで動くよ。


 ──うわあ、すごい! 前に進んだよ!

 ──次は左右だね。これだよ。


 ──うわ、気持ちが良いね。

 ──ふふ、加速と減速はこれでできるよ。


 ──うわあ! すごく速くなったよ。

 ──ふふ、じゃあ一回りしたら他の人と交代しましょうか。地面が近付くと自動的に着陸するよ。


 ──他の木や建物は大丈夫かな。

 ──うん。それも自動的に避けるようにしておいたよ。


 ──うふふ。なんか気持ち良かった。またやっても良いかな。

 ──もっと気持ち良いことを何度しても良いですワ!


 ──もうっ、ヒトミったら。それは後でね、ふふ。


 飛行船の着陸コースは少しずれていた。最初にアンカーを打ち込んだところから信号が出ていて自動的に修正された。後ろを見ると誰も着席していなかった。みんな顔色が悪い。乗り物酔いにでもなってしまったのだろうか。私は急いで疑似細胞を使って乗り物酔いの薬を作った。空気中の水蒸気を集め、その場で作ったコップに水を注いだ。冷やして風味を付けるのも忘れない。着席を促し薬と水を飲んでもらう。

 


 □■□□


 ──シノとムツミが驚いていた理由がわかった気がするわ。

 ──ミッちゃんにわかってもらえて嬉しいかな。


 今は飛行船の中。心でミッちゃんとお話をしている。私たちはあまりのことにぼうぜんとなってしまった。ヒトミ様がいつものように優しく席へ促してくださった。冷たくて美味しい水とお薬までいただけた。座席はふかふかで、窓から遠くの景色まで見えた。席も私たちに合わせて二人分を三列作られていた。ヒトミ様とフタバ様が一番前。私とミッちゃんは二列目になる。ムツミ様は後ろの菓子に近い三列目が良かったみたい。イノカさまと一緒に座っておられる。


 しばらくしてから私たちも飛行船を動かす練習をした。指先だけでとても簡単に動かせた。私とムツミ様はコマンドだけでも動かせた。ヒトミ様がそうしてくださったのだと思う。ミッちゃんとイノカは楽しそうに動かされていた。私とムツミ様もおんなじ。フタバ様が楽しそうにされていた理由が少しわかったかも。練習が終わったので、今はオオエヤマ家の近くへ向かって飛んでいる。外から飛行船を見るとまわりの景色と同じ色に変わって目立たなくなるみたい。


 ──ヒトミのこれも法術なの?

 ──法術も使われていたよ。でもそれだけじゃないと思う。


 ──もしかして、外の世界の知識?

 ──うん、多分。


 ──ヒトミは大精霊様なの?

 ──少し違うみたい。大精霊様とお知り合いだと言っておられたけど。


 ──そうね。イクノブ家の文献でも大精霊様が伝えるのは知識だけだと書いてあったわ。

 ──おんなじところから来られたのかも。


 ──可能性はあるわね。ヒトミが普段控え目にしている理由もわかった気がするわ。

 ──うん。こんな知識をいきなりみんなに伝えたら大変だと思う。


 ──でも私たちには色々教えてくれたわ。

 ──うん。私たちにはヒトミ様に大事にされているのかな。


 ──そうね。とても困ってもいたわね。

 ──うん。ヒトミ様はとてもお優しいからまわりの人のことを放ってはおけないみたい。


 ──ヒトミが何であれ、私たちのやることは同じよ、シノ。

 ──うん、ミッちゃん。私もおんなじ気持ちだよ。


 ──シノ、私たちはもっと強くなるわよ。

 ──うん、ミッちゃん。イクノブ家最強ぐらいじゃ全然足りないよ。


 ──そうね、私は剣術の鍛練もやるわ。

 ──ツカハラ家の極伝ぐらいなら足りるかな。


 ──そ、そうね。も、目標としては良いかもね。

 ──じゃあ一区切り付いたら、どうじょうやぶりだね、ミッちゃん。


 ──え、ええ。ひ、一区切り付いたらね。⋯⋯強くなったわねシノ。

 ──そうなのかな。もしそうなら、ミッちゃんとヒトミ様のおかげだと思う。


 何かミッちゃんが悩み出したみたい。フタバ様のお父上でツカハラ家当主の方に勝つ算段でもしているのかな。



 □■□■


 ムツミは眠ったようだわ。最近ときどき夢をみているようだわ。記憶が戻りかけているのかしら。その前にアイツを倒す。その後なら構わない。ムツミが許してくれなければ、そのまま討たれても良いわ。私はそれだけのことをしてしまった。あの優しい二人から離れてからになると思うけど。いいえ、今は四人ね。オオエヤマ家の問題なのに、イクノブ家の二人も手伝ってくれているわ。


 ともかくアイツが居そうな場所はわかった。今はそこへ向かっている。アイツを討って四人と別れたら、ムツミと向き合うわ。ムツミの記憶を取り戻し、どうするかムツミに決めてもらう。でもアイツを討つまでは待っていて欲しい。もう少しの間で構わない。仲の良かった姉妹でいさせて欲しい。その後ならムツミが決めた通りにするから。

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