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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
71/365

第九話 飛行船


 □□□□


 学園を出発する日、休憩所やコテージを片付けることになった。


 ──ねえ、フタバ。ここは残しておこう。

 ──えっ、うれしいけど。できるの?


 ──うん。まわりを木で囲めば何とかなると思う。

 ──じゃあ、お願いしようかな。


 ──フタバさんのためなら頑張りますワ!

 ──ふふ、ありがとヒトミ。


 フタバさんがそっと身を寄せてくる。私の意識がソコに集中する。フタバのほどよい大きさのものが私の腕に当たる。プログラムは適当に組んだ。


 ──うわあ、何も見えなくなったよ。

 ──中はキレイなままですワ。


 ──ほんとだ、チリ一つないね。

 ──ええ、手持ちのプログラムを組み合わせただけですけど。


 フタバさんと私は第3段階。簡単な映像情報のやり取りもできる。木で作ったドームの中は、部屋のそうじと同じくナノマシーン任せだ。分解したゴミはまわりの木の肥料になるようにしている。


 ──お風呂場で一度も見えなかったのが、な、何でもありませんワ。

 ──ふーん、そんなに見たかったのかな。


 ──え、ええ。もちろん違いましてヨ。

 ──残念だったって伝わってくるけど?


 ──き、気のせいでしてヨ。

 ──他の人のことを見ちゃダメだよ。


 ──私はフタバさん一筋ですワ!

 ──ふふ、ありがとヒトミ。


 フタバさんと話しながら次の段階に移る。


 ──これは船? でも川まで少しあるよ。

 ──空から行こうと思いました。


 ──ええっ、そんなことできるのかな。

 ──フタバさんのために頑張りますワ!


 ──えーと、飛行機だったかな。

 ──滑走路がないので飛行船にしましたワ。


 ──軽い空気で浮くもの?

 ──ええ、その通りですワ。


 フタバにも私の知識が伝わっている。ある程度理解できる。キャビンは広めに作る。六人分の席はリクライニング機能も組み込む。後方に荷物置き場と簡易トイレとベッドも設置しておく。食料や飲み物も用意しておく。操縦はプログラムで行う。シノハやムツミでも動かせるように簡単なものも入れておく。念のため手動の操縦装置も付けておく。上下前後左右に動かせる。スピードも調整できるようにしておいた。


 気のうはカーボン・ナノチューブで編む。すき間はプラスチックで埋める。景色を楽しめるように強化プラスチックで窓も大きめに作る。プラスチックは疑似細胞に分泌させた。飛行船の表面に細くて軽い管を何本も付けた。管の中にドローンを入れ光がもれないようにしながら空気を噴出させる。管の向きを変え飛行船が進む方向を制御している。


 軽いガスは水素にしようか。水を電気分解して水素を集め始める。そこでシノハとムツミの顔色が悪くなっていることに気付く。シノハとムツミに再現データを渡すとき、一緒に少し知識も伝えた。水素の可燃性を心配しているのだろう。水素はやめてヘリウムにする。ここに化石燃料はない。ヘリウムが天然ガスなどと一緒に産出されることもない。


 どうしようか考えていると、まわりの土の中にヘリウムが混じっていることに気が付いた。太陽風と月の土だろうか。この世界の元のデータはリゾート用人工衛星だ。月や小惑星から送られたものが主な材料として使われている。データ化したときそのまま流用したと聞いた。地面の土は月からのものが多い。


 太陽風はほとんど水素でできている。ヘリウムも少し混じっている。地球であれば磁気などの影響で地上にはほぼ届かない。月や小惑星には届く。軽い気体なのですぐまわりに拡散してしまうが、地中に少し残っていた。地中の無機ナノマシーンを使いヘリウムを集める。拡散しないように密閉させて集める。


 ヘリウムはプラスチック分子のすき間からでも漏れてしまう。減った分は自動的に補充されるようにしておく。ガスボンベも作ってそこにもためておく。気のうとキャビンの表面は空やまわりを真似して色が変化するようにする。下やまわりから見付けにくい。気のうを膨らまし続ける。キャビンが少し浮いてきた。アンカーを取り付け固定する。


 ──すごい、浮いてきたよ、ヒトミ!

 ──もう少しかな。


 ──これで空を飛べるの?

 ──うん、そうだよ。


 ──あれ、シノハちゃんとムツミ様のようすが変わったかな。

 ──うーん? ああ! パラシュートを付けるのを忘れていたよ。


 シノハとムツミは空を飛ぶのも初めてだ。きっと不安なのだろう。私も初めて飛行機に乗るときは少し緊張した。飛行船の気のうは五つに分け、事故があってもゆっくり降下するように作っている。安全性だけでなく安心感のためにもパラシュートはあった方が良い。フタバには私の知識ややろうとしていることが伝わっているので、心配していない。シノハとムツミは心配しているようだ。


 座席にシートベルトと自動で開くパラシュートを追加する。壁にも取り付けておく。これで不安も少なくなるだろう。シノハとムツミの顔色は悪いままだ。他の人へも使い方の説明もしておこう。パラシュートは低高度でも開くように設定しておいた。全体の動きはナノマシーンで制御する。腕でしがみ付くだけでも安全に着地できるように落下速度を調整しておく。これで安心感が増すだろう。


『少し怖がらせてしまいましたか、シノハ』

「私はぜんぜんへいきです、ヒトミさま」


『そ、そう? ごめんねシノハ。パラシュートも付けたから大丈夫だと思いますけど』

「パラシュートですか、ヒトミさま」


『ええ、他の人にも使い方を説明しておきましょう』

「はい、ヒトミさま」



 □□□□


「使い方を説明しておきたい道具があります」


「これは何かしら」

「う」


「背負い袋に似ているわね。シノ、顔色が悪いままだけど大丈夫?」

「はいミッちゃん、私はへいきです」


「ヒトミ、これを背負えば良いのかな」

「背負っている暇がないとき、腕で肩ヒモにつかまっても大丈夫なようにしております」


「わざわざ作っていただき、ありがとうございますヒトミ様」

「う」


「ずいぶん軽いわね。ヒトミ、どういうときに使うの?」

「空から落ちてくるときだよ、ミッちゃん」


「えっ、空からかしら」

「うん」


「空から? シノ、本当に大丈夫?」

「私はぜんぜんへいきだよ、ミッちゃん」


 シノハとムツミも何を作ったのかわかるようだ。霊気の動きでわかったのだろう。パラシュートは安心感のために作ったようなものだ。実演は模型で代用しよう。私は人形を作り、小さなパラシュートを取り付ける。風を使って上へ飛ばす。ある程度上がったところで人形が落下を始める。展開も自動的に行うように作ってある。


 ──ちゃんと広がったよヒトミ。

 ──自動的に広がるんだ。


 ──ゆっくり降りてくるね。

 ──これで安心かな。


 ──でも、みんなのようすが変かな。

 ──本当だ、どうしたんだろう?


 シノハとムツミだけでなく、ミツエとイノカの顔色も少し変わったような気がする。


挿絵(By みてみん)


「何か気にかかることでもあるのでしょうか」


「ええ、少し気になるかしら」

「う、うん」


「人形が落ちてくるのが気になるわね」

「ミッちゃん、あれは私たちの未来だよ」


「ヒトミ、飛行船の説明がまだじゃないかな」


 ──そ、そうだったカシラ?

 ──ヒトミから伝わってきたので私はわかるかな。


「え、ええ。乗り物の説明がまだでした。申し訳ありません」


「あの変わった形の乗り物のことかしら」

「うん」


「そうねえ、私も気になっていたわ」

「ミッちゃん、知らない方が良いこともあるんだ」


「え、ええ。では中で説明いたします。よろしければそのまま出発しようと思います。荷物もお持ちください」


 ──ヒトミ、私は一番前の席が良いかな。

 ──フタバさんは、私にとっていつも一番目ですワ!


 ──ふふ、ありがとヒトミ。

 ──席も寝やすくしておきますワ。


 ──もうっ、ヒトミったら。うふふ。


 フタバさんは少しワクワクしているようだ。私も初めての飛行機は少しワクワクした。ミツエとイノカも荷物を持って飛行船に入ってくる。興味深そうにまわりを見ている。シノハとムツミはまだ調子が悪いようだ。飛行船に乗るのもゆっくりだ。飛行が始まって景色でも見れば、気分がよくなるかもしれない。シノハとムツミのためにも早く出発しよう。

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